第27話
昔、私が恭弥ではなく、『四宮君』に対して抱いていた感情は『無関心』そのものだった。特に華々しい功績があるわけでもなく、運動が上の下くらいで、勉強は中の上程度の極一般的な男子だと思っていた。
だけど…それは尽く覆された。
いつもなら全国大会に出場することなんて滅多に無いウチのサッカー部が、恭弥の独力だけで全国大会に出場し、全国ベスト16になった事など、試合の観戦者や僅かな人しか知らないだろう。
当然、当時の恭弥は沢山ニュースになった。
『日本サッカー界に現れた異例の天才』
『Jリーガー間違いなしの15歳の怪物』
『凶悪な足をその身に宿す化け物』
などというのが一般的だった。だけどみんなは、その影の事をまるで理解していない。
恭弥は私に告白するまで、全くの凡人だった。それを私への恋心だけを原動力に、血反吐を吐くような努力でそう呼ばれるようになったのだ。
(はぁ…)
その行動に、私は次第に惹かれていった。その好意は日に日に強さを増していく。
初めての恋に、どうしたら良いのか分からなくなって来る。
制御が効かない。
自分で自分を抑えられそうにない。
どうしようもないくらいに恭弥が好き。
抱きしめたいし、抱きしめられたい。
(こんな気持ちなのね…恭弥は…)
昔でも今も好意が変わらない恭弥は、毎日こんな想いに苦しめられていたんだ。
いや、苦しさで言ったら、今正式に付き合って、恭弥に甘えることのできる私の方が断然甘い。恭弥はもっと苦しかった筈だ。
(私は苦しくない私は苦しくない私は苦しくない!!)
そう自分に言い聞かせる。
『ん?凛花?なんか苦しそう…だけど大丈夫か?』
『っ!?だ、大丈夫よ?』
『大丈夫じゃないだろ。顔色が悪い…』
そこまで今の私は顔色が悪いんだろうか。そして私の脳内に、病人を装って恭弥に甘えろと伝来が下される。
『え…えぇ…少し体調が悪くて…』
『なっ…!そんな日はゆっくり休んでろって…!ほら、すぐベッドに横にな…へ?』
気がついたら私は恭弥を床に押し倒していた。
『……恭弥が悪いのよ。我慢してたのに近づいて優しさを見せるなんて…』
『え…?いや優しさとかじゃなくて単なる心配なんですが…』
『知らない。興味ない。恭弥はただ私の玩具になってたら良いのよ』
さよなら理性。あなたのことは忘れないわ。多分。
『ちょっ…ま、まさか…おま…体調悪いのって嘘…』
『嘘じゃないわ。恭弥の事考えたら心拍数が上がって近づいたらもっと高くなるから、これは病気よ』
恭弥に触れたい、恭弥に愛されたい。そう考えるだけで蕩けてしまいそうになる。これはもう病気と言っても良いんじゃないだろうか。
『あ…なら良かった…。それで?プライドの高い凛花さんはこれから何をしようというのかね』
今までは恭弥がリードしてくれていたけど、私が主導権を握るのは何気に初めてだった。
『ねぇ恭弥…』
『なんだ?』
『私が今まで恭弥に主導権を握らせてたのは、私の奥にある貴方への欲求を押し殺す為よ』
『なん………だと…』
某漫画の様な驚き方をする恭弥。
『勿論貴方に不満がある訳じゃない。だけど恭弥、貴方はこれから私の玩具となるの。私の独占欲と征服欲をフルに使ってあげるから、安心して身を委ねなさい』
『ちょっ…待って待って!?俺今から陵辱されんっておい!あぁ服が!!』
私は恭弥の服を引きちぎった。そこから見える鍛え抜かれた筋肉が、より一層刺激を強める。
『ふふっ…安心しなさい、後で弁償はしてあげるから』
………
……
…
お……
おい……
り…
「おい凛花、良い加減起きねぇと3時間口聞かないぞ」
「冗談でもそれは辞めて!?」
私は本能的とも言っていい速度で起き上がる。目に写るのは見慣れない体育倉庫。
「アレ…?ここ…はっ!?」
や…やばい…昨日のことを思い出してしまった。私は…恭弥を体育倉庫に連れ込んで…あぁ!!私はなんてことを!!
「き、恭弥…?」
「よっ。今5時半だから、まだ余裕はあるけど、部屋には戻っといた方がいいな」
それは同感だ。でも…昨日のこと…。
「き、昨日のこと…怒って…ない?」
「ん?あぁ、お前がここに連れ込んで俺を襲った奴?全然怒ってねぇよ」
それを聞いて少し安心する。アレ…?でも何故私が破いた恭弥の服が元どおりになってるんだろうか。
「あれ…?私恭弥の服を‥破かなかった?」
「え…?破いて無いだろ。ほら」
「わ、私が主導権を握って…」
「まぁ最初こそ握られてたけど、お前が握ってられるの序盤だけだろ?中盤から終盤まで全部俺が主導権握ってた」
昨日のことをうっすら、ほんのうっすらと思い出してくる。
あ…さっきのは私の夢だ。
そして現実は…。
「あっ…ぁあっ…!」
なんて卑猥なモノを脳内に映し出してしまったんだろうか。半狂乱に陥りそうになる。
「ドS凛花もまぁ可愛いけどさ、やっぱ屈服させられてる凛花が一番可愛い」
「バカ!!何言ってんのよバカ!!変態!バカ!」
「ほら、そうやって顔赤くすんのも可愛い」
自分の顔が赤くなり、心拍数が高くなるのが分かる。
「可愛くない!!」
私は必死の反論をすると、恭弥は「ははっ」と笑うのだった。
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