第9話
「はぁ…バカだろ俺…本気でバカだ…なんで2時間前にきてんだよアホか…」
ゴールデンウィーク初日の、時刻は午前7時。集合時間は午前9時。漫画なら30分前や1時間前に来て早い!となるところだが、生憎俺は…2時間前から集合場所である駅前に来るというとんでも無い暴挙に出てしまった。
だって仕方ないじゃん?凛花とのデートとか本気で楽しみなんだもん。
「あ…あれ…な、なんでアンタが居るのよ!早すぎない!?」
落ち込みかけていると、横から聞き慣れた声が聞こえてくる。
そこには、いつも通り、だがいつもどおりでもとんでもなく可愛い凛花の姿があった。
「あぁ、そりゃどうも。というかお前も大概だろ」
俺が来て数分でもう来やがった。コイツもコイツで早すぎる。
「うっ…ううっ…!『悪い、待ったか?』『ううん、待ってないよ』って奴やりたかったのに、なんで私より早く来るのよ恭弥のアホ!」
まさかの逆切れかい。
「そりゃ仕方なく無いか?頭の中は読めない」
「むぅっ…。な、ななっ…なら…ちょっと恭弥、屈みなさいよ」
凛花の身長は以外と小柄で、160、どう見ても170行ってるかいってないか程度に対し、俺の身長は186センチ。かなり身長差があった。
何をするのかと考えながら大人しく屈むと、強引に胸ぐらを掴まれて引き寄せられ、キスをされる。
「っ!?」
数瞬だったが、その感触は確かに俺の唇に残る。そして、唇をぺろっ、と舐めた凛花はとても妖艶で、美しかった。
「ふふん、恥ずかしがる恭弥の姿を見れたから、チャラにしてあげるわ。続きは夜…ね?」
そのあと俺が鼻血を吹き出したのは言うまでもなく、その鼻血が吐血にまで至った。
そして、遺言を残そう。
凛花最高
………
……
…
「はっ!ここは…」
次に意識が戻ると、俺は電車の席で座っていた。目の前に対面するように、読書中の凛花の姿があった。
本を両手に持ち、それに目を通す凛花の姿は、一種の芸術品のようであった。これを写真に収めれば、一体何十万で売れるだろうかと思うほどに。
まぁそんなもったいないことはしない。というか俺だけなもんだ。
「あ、起きた?ビックリしたわ。あんなとこであんな鼻血出すんだもん。普通なら貧血でぶっ倒れそうだけど、恭弥の場合余裕そうね?」
「あぁ、俺はそんなヤワじゃないからな。生まれてこの方風邪引いたことないくらいには頑丈だぞ」
因みにだがインフルエンザにもかかった事は無い。意外と体が頑丈な俺様なのだ。
「凄いわね…。ところで恭弥」
パタン、と本を閉じて、見慣れないビニール袋の中から弁当を取り出す。いわゆる駅弁というやつだろう、初めて見た。
「目的地まで約2時間。その間でご飯を食べておきましょう」
「ん?まぁそれは良いけど…なんだ?お前口調が変だぞ」
いつもとは少し違う口調に違和感を感じていると、凛花はそれに答えずに黙々と弁当を開き、箸を割った。
それを食べる…かと思いきや。
「あ…あーん…」
「ぐぶっ…!!」
っぶねぇ。一瞬昇天しかけたわ。
「凛花さん?そんなバカップルみたいなことマジでやるんですかい?」
「う、うっさい…!や、やってみたかったのよ…こういうシチュで…恭弥と」
俺に差し出された箸はそのままで、プイッ、と顔を真っ赤に染めた凛花は横を向いた。
俺の恋人が可愛すぎる。
「……いただきます」
そう言って、箸に掴まれた肉団子を口に運ぶ。ほんのりとした甘みが口に広がって、かなり美味しかった。
「ふ、ふふっ、仕方ないわね。ほら、もっと食べなさいよ恭弥」
俺らは目的地に着くまでずっと、こんなバカップルみたいなことを続けていくのであった。
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