第10話

 電車で約2時間の旅を経て到着したのは、昔の日本が濃く残っている、『京都』であった。頭の悪い俺でも知っている名所が数多くする存在するこの街に、俺は少しだけワクワクしていた。

 だけど…。


「おい凛花、良い加減戻ってこいよ?俺は気にしないから」


 顔を両手で覆って顔を隠している凛花。その理由は、2時間前までに遡る。俺にあーんをしていた凛花だったが、最後に俺にやり返されるとは思っていなかったらしく、見事カウンターを喰らってこのザマだ。


「ううっ…恭弥ぁ…アンタ卑怯よ…!」


 指の間から半分涙目になった綺麗な瞳が現れ、それが俺を軽く睨む。


「なんでだよ…」

「あ、あんな…あんな顔で『美味しかった?』って聞いてきたら…もう…我慢が…」

「はいはい、取り敢えず旅館に荷物預けてから盛ろうか。ここでそれは不味い」


 俺は頭の中に入れた地図に従って、旅館に向かって歩き出すのだった。


………

……


「おおぉ…すげぇ」

「へぇ…流石」


 俺も凛花も、予約した宿にチャックインをした部屋の扉を開くと、素直に短観の声を漏らした。

 床は畳で、部屋全体が和式で統一されている。外の景色は綺麗な緑で覆われており、とても雰囲気のある部屋だった。


「ここで一泊2日か…」

「えぇ、そうね」


 一泊2日ともあって、俺はそんな荷物を持って来てない。強いて言うなら着替え一式と歯ブラシ、バスタオル諸々といったところで、全てリュックの中に入るものだった。

 それを部屋の隅に置くと、大きく背伸びをする。天井に手が付いてしまうが、まぁ気にしない。


「じゃあ俺は、凛花の着物姿を見れるわけだ」


 そこに立てかけてある着物は、ちょうど凛花にぴったりのサイズだろう。帯が無いタイプなので、良いでは無いかー。って言いながら裸にさせることは出来ない。


「そんなの好きなだけ見せてあげるわよ。それより…」


 凛花は俺に近づいてくる。止まる気配が無く、俺はどんどん後退りしていき、背中と壁がくっつく。

 すると俺の顔面の横に手が置かれる、いわゆる壁ドンだ。


「電車の中だと無闇に抱きつかなかったけど、今なら良いでしょ?というかもう我慢できないけど」


 小さく妖艶に笑う姿は、とても学年内での異名、『冷血の女帝』というものとは思えない態度であった。

 今俺の目の前にいるのは、愛らしい彼女。


「あぁ…まぁ良いけどさ、観光は?」


 凛花は観光がしたかったんじゃ無いんだろうか。だから京都に来たんだろうけど、ここで一度凛花の欲求を放てば、数時間は完璧に潰れてしまう。


「そんなの後回し。恭弥、今から私だけを見なさい。観光なんて構わないから、私だけを求めて」


 出たよわがまま女王様。中学の時から変わらない、否定することを許さない独裁政権。


「了解しました…っておい凛花、なんか埃ついてんぞ」

「え、本当?」


 肩にかかった長いストレートの黒髪を触ろう…とした時、不意打ちキスをかましてやる。


「っ!?」


 当然の如く顔が赤に染まり、目を見開いて俺を見る。


「お返し」


 さっき俺にやったお返しをまだ返していなかった。凛花の恥ずかしがる顔が見えたのでチャラにしよう。


「こん…のぉ…!」

「ん?どうしたどうした。悔しいならかかってこいよ」

「言ったわね!!覚悟しなさい恭弥!」


 俺vs凛花の何度目か分からない対決が、今幕を開けるのであった。

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