第7話

 トントン、と地面を爪先で押す様にしながら、俺のルーティーン的なものを行う。そして横に居る友人、龍弥、その他にもクラスメイト達が居る。


「うっげ…恭弥と走るのかよ…」

「いやだぁ…完全に引き立て役じゃん俺ら…」

「手加減し…あ、ダメだこれ完全なマジ状態じゃん」


 深く深呼吸して呼吸を整えながら、隣の会話をなんとかキャッチする。


「お前らなんでそんな怯えてんだよ…」

「うるっせぇ!!凛花様に良いとこ見せたかったのに、お前と走っちゃ影薄くなるだろうが!!」

「「「そうだそうだ!!」」」


 酷い、龍弥以外からの総スカンだ。と思っていると、「位置について」という体育教師の声が聞こえてくる。

 クラウチングスタートをとりながら、「よーい」という声で腰を上げる。


そして。


「っ!!」

「はっえぇ!!」

「やっぱバケモンだアイツ!!」


 パンッ!という渇いた音が鳴り響いた瞬間、全身の力をフルに使って地面を一気に駆け抜ける。後続からそんな声がかけられるが気にせず、どんどんどんどんゴールに向かって走る。

 そして、1着でゴール。


「5秒52!」

「チッ…」


 俺は軽く舌打ちをする。少し納得が行かない…いや、これが俺の実力なのだからそれは納得出来る。だがもっとタイムを早く出来るはずだ。

 これからはもっと体を追い込まねぇと。


「ひゃーヤダヤダ!このチート怪物はほんっと…」

「お前陸上部入れよ…全国トップ狙えるだろそのタイム…」


 50メートル走を終えた奴らが、少しだけ息を切らしながらそれを言ってくる。


「いや、部活には入らねぇよ」


 そんなことしたら凛花と居る時間が少なくなるじゃないか。


………

……


 翌日、結果発表は二階の職員室前で行われていた。


    スポーツテスト結果


50メートル走 1位・四宮恭弥 記録5秒52

シャトルラン 1位・四宮恭弥 記録211回

長座体前屈 1位・四宮恭弥 記録83センチ

握力 1位・四宮恭弥 記録105キロ

反復横跳び1位・四宮恭弥 記録87回

立ち幅跳び1位・四宮恭弥 記録320センチ

上体起こし1位・四宮恭弥 記録63回

ハンドボール投げ1位・四宮恭弥 記録72メートル


「バケモンじゃねぇか!!!」


 記録を見て龍弥が大きく叫んだ。全ての1位をもぎ取った俺は、とんでもない達成感と喜びで震えていた。


「っし…!!」


 すると横から凛花がスタスタと歩いて、俺の横に立った。


「流石、記録は全部四宮君、あなたが1番ね」

「いや、工藤さんも殆ど一位じゃん」


 女子のランキングを見てみると、ハンドボール投げ、握力以外は、全て1位を独占している。やっぱすげぇわ、学力以外でもここまで万能なのは、少しだけ嫉妬してしまう。


「ふふっ、次は負けないから。ねぇ、なんなら今度、一緒に運動でもどう?」

「おま…!」


 思わず言いそうになるが直ぐに黙る。こいつ、俺との関係を明かすんじゃなくて、ゼロから始めようとしやがった。まずは知人の関係から行くつもりか?

 そして、学年一位の美少女の誘いを断ることも行かなくなった俺は、溜息を押し殺しながら頷く。


「うん、行こっか」


 そして、そこから俺が殺気染みた視線が送られる様になるのは、言うまでもないだろう。


………

……


「お前なぁ…。学校じゃ接点作んなって。いや俺が言えたタチじゃねぇけどさ」

「ふん!あの時のお返しよ。今度はそっちが苦しむ番なんだから」


 俺の家のベッドで座り込んでいる凛花。もうちょいでスカートの中身が見えそうなのだが、絶対防御によって見えない。


「というかそれより、パーフェクト1位おめでと。そこは素直に尊敬するわ」

「はっ、俺は体を動かすことしか出来ないからな。んなことよりも」


 俺は少しだけ真剣な目になって、凛花を見る。少し怯えた様な目をしている。


「あ…い、違うのよ?アレは…橋本先輩が勝手に言った事で、私は恭弥一筋よ!?」


 まさか自分の浮気が疑われたんじゃないだろうか、と思ったのか、俺が全く咎めるつもりはないのに弁解する。


「あぁそこは知ってる。お前が俺のこと大好きすぎるって事もな。つかそれがもし浮気ならとっくに分かってる」


 凛花は俺に対して絶対に嘘をつけない。それは中学校の頃から分かっている事だ。

 そして、凛花が次も確認の言葉を入れない様に、俺は先手を打つ。


「それより、その橋本?だっけ。そいつと約束みたいなことしてたじゃないか。何個か1位とったら、素直になれって」

「アレも橋本先輩が勝手に言った事よ!?私は純粋ににあの人が嫌いだったし、アレが普通の態度よ!?」


 おっと…マジか橋本先輩。元から嫌われてたのね。とりあえず心の中で合掌をしておこう。


「だからさ、俺にもなんかご褒美くれよ」

「え…?」


 さっきまで必死に弁解してた凛花が、訳が分からない、と言った様に首を傾げる。クッソ可愛いなおい。


「俺全部1位とったのよ?しかもダントツで」

「そ、そうね…」

「だから愛しの凛花様に、何かご褒美をいただけないかと思ってる所存です」

「なるほど…」


 よし、流石凛花だ。俺の言うことを直ぐ真に受けてくれる。


「確かに、私のために頑張ってくれたというのもあるし…良いわ。そのご褒美、私が叶えられるものならなんでも叶えるわ」


 凛花の様な美少女になんでも好きなことを叶えてやる、なんて言われれば、性欲丸出しの男子高校生ならば、如何わしいことを願うだろう。俺もその類だが、今回ばかりは別の奴をやる。


「じゃあさ、今度旅行行こうぜ。どっか県外にさ、泊まり込みで」


 それならバレる心配もなければ泊まり込みでイチャつける。こんな最高な事は無い。


「…‥良いわよ?だ、だけど他にほら、あるでしょ?」

「ん?何が?」


 腕を組んで何かを待ってる様な、ソワソワした様子の凛花。何かして欲しいのだろうか。


「わ、私に…甘えて欲しい…とか…」

「あ〜…なーるほどね」


 そうだった。こいつはなんかの口実が無いとデレる事は殆ど無いからな。だからお願いをしよう。


「俺さ、凛花に甘えて欲しいんだよな」

「ふ、ふふっ。良いわ、やったげる。全くしょうがないわよねホント!」


 ニヤニヤして、とんでもなく嬉しそうにしながら、俺と凛花はイチャつくのだった。

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