第6話
「ふぅ…」
ゴキッ、ガキッ、と首を左右に曲げると若干危ない様な音がするが、体には特に異常はない。
そして多くの生徒がグラウンドに集まり、体操着を身につけている。今日は年に1回のスポーツテストで、多くの男子が特定の女子に良いところを見せようと躍起になっている。
当然、俺もそれの例外ではなかった。
(体の調子も良い…良く動く)
俺は凛花の様な万能の天才では無い。頭の良さも、凛花が100点を取るのなら俺は精々70点や80点といった処。だが、運動量だけなら、凛花にも負けない自信がある。
だけどここで負けたら、俺はアイツに全てにおいて劣っているのは確定だ。だから、俺が狙うのは、3年を差し置いてのトップの成績だ。
その為に準備運動を行う。
「おはよ、どう?体の調子は」
「工藤さん…うん、良く動くよ。どうしたの?」
背後から語りかける声にまさか…と思いながら振り返ると、案の定凛花が居た。咄嗟にいつもとは違う口調に切り替えて、『なんで話しかけた』と視線で言いながら発言する。
「先週あったマラソン大会で、私貴方にボロ負けしてるから、今度こそは勝たないと、と思って、宣戦布告?」
嘘つけ、そんなこと微塵も思ってねぇだろうが。凛花の顔から敵意など、微塵も感じられない。その言葉全てが俺にだけ分かる真っ赤な嘘だった。
そして視線ではこう言っている。
『何?悪いの?』
怖い、怖いです凛花さん。しかも若干笑顔だから余計怖いです。
「へぇ…俺なんかに宣戦布告とかありがとう。でも俺なんかより優れてる人とかは一杯いるよ?」
「面白いこと言うわね。スポーツテストの結果でそれがどうかは分かるけど」
俺のことだと言うのに、凛花はとても自信満々であった。そりゃそうか、俺が手を抜く事なんか出来ない事なんか、とっくに分かってんだろうし。
「んぁ?おい凛花、誰だよその男」
ピシッ、と一瞬石にでもなったかの様に錯覚するほどに体が膠着する。身長は190センチ程だろうか、かなりでかい体格。
俺も180は超えてるからそこそこでかいけど、それでも見下ろされる。
「同級生の四宮恭弥ですよ。橋本先輩」
橋本…名前を聞いてもピンと来ない。先輩って言ってたから多分2年か3年か、だと思うけど。
「ふーん…まぁ良いけどよ、おいお前、俺の彼女に手で出すんじゃねぇぞ」
「ぶっ…」
ぶっ殺してやろうかこのデブ野郎。と言う言葉を口に出さなかった俺を誰か褒めてほしい。危なかった。いやまぁちょっと言ってるからアウト?いや大丈夫、セーフだ。
「私は橋本先輩の彼女じゃ無いです」
目を閉じて冷酷にそれを言う凛花に、少しだけ安心感を覚える。
「良いじゃん。お前だって俺のこと好きだろ?」
「いえ、好きじゃありません」
「ははっ、ったく照れ屋だなぁお前。分かった、じゃあ軽く今回なスポーツテストで3個くらい一位とってやるから、そうなったらお前も素直になれよ〜」
そう言って橋川先輩とやらはどこかに歩いて行った。そして…その場には俺と、少しオロオロしてる様な凛花だけが残された。
恐らくは違う、と否定したいんだろうが、立場上それは出来ない。
だから俺は、すれ違いざまに一言だけ。
「誰がお前の隣にいるべきなのか、証明してくる」
こうなったら全部一位とるだけじゃ、この苛立ちは治んねぇ。ならどうするのか、完膚なきまでの一位。誰も文句のつけようの無い、圧倒的大差の一位をとってやらぁ。
「舐めんじゃねぇぞコラ…」
こちとら凛花にふさわしい男になる為にどんだけ努力したと思ってんだ。絶対捻り潰してやる。
そういう、『嫉妬』の類の感情を抱きながら、俺は最初の種目である50メートル走の場所に向かったのだった。
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