第62話

「うぉぉ…綺麗だ…」


 凛花を連れてやってきたのは、札幌にある巨大なイルミネーション。

 昨年も一昨年も、俺はサッカーばっかやってたし、小学校の頃はイルミネーションに興味のかけらもなかったので見ていない。

 恐らく俺は、人生で初めてこんな大規模なイルミネーションを見ているのだろう。


「ふふっ、まさか場所がかぶるなんてね」

「うるへぇ…」


 なんと俺が行きたかった場所と、凛花が連れて来たかった場所は丁度ここで被ってしまったのだ。北海道ナンバーワンスポットだし、カブるのもしょうがない。


「ふぅ…」


 夜の癖して馬鹿みたいに明るい。ここだけ昼間の様だ。街行く人々も殆どがカップルばかりで、俺らと同じような事を考えている人らが沢山居るんだろう。

 それを見て、凛花がこんな事を言い出した。


「クリスマスイブって、最もホテルが埋まる日としても知られているわよね」


 空気がぶち壊しである。道行くカップルをみんなそんな目で見てしまうじゃ無いか。


「はーヤダヤダ。みんなキリストの誕生日をなんだと思ってんのか…」


 そういや春馬が言ってたな。「クリスマスイブは聖なる夜なんかじゃなくて性なる夜だ!!」と。

 なんか言われそうだから弁解しておくが、俺はちゃんと凛花の為を思ってそういう行為をしてる。凛花がそういう気分じゃない時や、女の子の日にはしないとちゃんと決めているのだ。


 だから俺はクリスマスだからって性欲に溺れるバカとは違うのだ!!


「まぁ私らもホテルに戻ったら何するかわからないけど…」


……うん、これは凛花さんが乗り気だから仕方ないよね。


「確かにな…」


 まぁ、それをするのは…少しだけ後だ。

 少し人気の無いベンチのある場所へ凛花を誘って、2人でそこに座って少しだけ懐かしむ様な会話を行う。


「俺がお前に最初に告白したの…覚えてるか?」

「覚えてるわよ。見事に振られてたわね」

「ははっ、そうだな」


 あれはもう見事な振られっぷりだった。凛花のあの冷え切った様な目も、よく覚えている。

 でも悔しさは無い。現に今、凛花は俺の恋人なのだから。


「ホンット…アンタって馬鹿正直よね。9時くらいまで学校に残って叱られてたってホント?」

「あぁ、アホみたいに叱られたからさ、8時くらいで切り上げてから今度は公園でやってた」


 部活が始まるのが4時から6時半まで。それが終わったら自主練で8時くらいまでずっとシュートをゴールに打ち込み、それが終われば公園でボールタッチ。それの繰り返しだ。


(あん時は大変だったなぁ…流石に足の爪が剥がれて血が出た時は焦った…)


 やりすぎて全治3週間の怪我を負ったが、それは足だ。まだ腕や体が残ってるだろって事で家で筋トレとかをしてた。

 まぁ。今も結構体追い込んでるけど。


「だからお前が惚れ直してくれた時はまじで嬉しかったよ。努力が報われた〜って感じでさ」


 でも納得はしてない。凛花に惚れてもらって、それで終わりなんてのはありえない。もっと凛花に惚れてもらわなきゃならない。

 もっと頑張って、凛花にもっと惚れてもらわないと。


「そう…      ねぇ…恭弥」


 かなり間を置いて、消え入る様な声で俺に問いかける。


「ん?」

「貴女は…私の愛が重いっていうかもしれない…もしかしたら、嫌いになるかもしれない」

「は?」


 そんなこと言うわけがないだろうと、確信を持って言える。言葉で俺が凛花の事を嫌いになるか?


 断じて否だ。


 凛花の愛が重すぎて、俺が凛花のことを嫌いになるなんてのは、天地がひっくり返ろうがありえないと断言できる。


「でも…やっちゃった…。本当に恭弥が大好きで…気づいたら…これ買っちゃってたの…」


 そう言って差し出してきたのは、小さな黒い箱。それが何なのかは、簡単に検討がつく。


「おま…これ…」


 凛花はその箱を開けると、銀に輝くリングが入っている。


「あの…その…ホントごめん…。でも自分で捨てる勇気なくて…もしかしたら喜んでくれるんじゃないかって思って…でも重いよね…こんな女…」

「いや…ごめ…ちょっと待って…」


 思わず笑い出しそうになりながら、俺は懐のポケットからそれを取り出す。


「全く同じの俺も買ってんだけど…」

「え?」


 さっきのシリアス顔は何処へやら、ポカーンとした凛花の顔。

 俺が出した黒い箱の中には、凛花と同じく全く同じ銀色のリングが入っている。


「え…ぇぇええ!?こんな偶然ある!?」

「いやぁ…マジか…」


 まさか…考えることは同じだったとは…。つかこれじゃあどっちも重い事になっちゃうじゃん。まぁ俺は元からだけどさ。


だがこれは…


アレだな。


先にあの言葉を言ったやつの方が勝ち!!


「凛花、大好きだ」

「恭弥、大好きよ」


 まさかの同時!!! お互いに顔を逸らしてプルプルと震える。


(ど、どうすんだこれ!! まさかこれも被るのかよ!!!)


あぁ…!!もうこうなりゃヤケだ!!

凛花の肩を掴み、ヤケクソに叫ぶ。


「凛花!!大好きだー!!!」

「私も大好きよ!!」


 まさかまさかの大波乱。色んなモノが被りに被り、最終的に真っ向からぶち破った結果、またしても勝利なしで終わってしまった。

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