第17話

「くくくっ…今日俺はこの為に頑張ってきた!」

「俺は…俺は!神に感謝している!!」

「まさかあの工藤様が…あの工藤様が…バレーをするなんてぇええ!!」

「ただ一つ心残りなのは…」


「「「「なんでお前も参加してんだよ恭弥ぁぁあああああああ!!!」」」」


 球技大会の参加者の多くは、バスケやサッカー、野球などのパリピがやるスポーツではなく、正直あんまり不人気であるバレーボールに来ていた。

 それもその筈。学年、いや、学校の中で女神と評される工藤凛花がバレーボールをやっている所が観れる。あわよくばプレイする姿を身近に観れるのだから。

 だがまぁ当然、凛花と同じコートに立っている俺に反感の目が飛ぶのは仕方ない事だったが。


「おぉ…すげぇ。マジで決勝で当たる様になってる…」


 チーム表が張り出されている場所に行くと、苦笑いを浮かべる。

 公平さは何処へ行ったのやら。凛花が先生に頼み込めば、決勝戦であの…えっと…橋川…?先輩のチームと当たる様に仕組むことが出来た。

 2回勝って、3回戦目で決勝となる。


「うまく行ったわね。当初の作戦通り行くわよ」


 凛花は俺の横に立ってそう告げる。プランAで行く様だ。


………

……


『ねぇ恭弥、頼みがあるんだけど良いかしら』


 俺と凛花が練習していた体育館での出来事。俺が水分を補給している時だ。


『頼み?なんだ?キスしてほしいのか?喜んでやるぞ』

『ち、違うわよ!!そ…それは…あとでやってもらい…たい…けど…』


 今やっても良いかな?無意識に誘ってくるので本当にタチが悪い。


「きゅ、球技大会の事よ!私がバレーボールに参加するって分かったら、結構な人数がバレーをやろうとするわ。当然そうなったら試合数も増えるけど、恭弥には素人より少し上手い程度のプレイをしてもらいたいの』

『なして?』


 それだとアイツを叩き潰せないので少し不満…だったのだが、次に見せた凛花の魔女の様な笑みを見て口を閉じる。


『決勝戦で橋本先輩と当たる様にするから、そこで全力を出してほしいの。あの自信に満ちた顔が絶望で歪む様、少し見てみたいと思わない?』


………

……


 とまぁ、結構ドSな凛花様は、前日そんなことを話していた。というわけで俺は決勝まで素人より少し上手い程度のバレーを実行する事にしたのだ。


「よぉ凛花。バレーやるなら俺らのチームに来りゃ良かったのに」


 おっと、橋本…?じゃない、橋川先輩のご登場だ。流石に高いな。俺も180後半はあるのに、この人は190超えてそうだ。

 やっぱりこの人もバレーをやる様だ。ビブスの色を見る限り…うっわ…えげつねぇ。全員高身長じゃん。多分バレー部だし。

 こちとら素人が大多数なんだぞ。


「何処までも素直じゃねぇなぁお前は。ま、俺らと当たっても手加減はするからな」


 そう言って橋川先輩は自分のチームの方に向かって歩いていった。


………

……


 はい、圧倒的に割愛して決勝戦まで駒を進めまーす。え?それまではって?俺と凛花のいかにも素人さが拭えないプレイを連発して、負けそうになったら少しだけ奇跡プレイを起こす。そんだけ。


「ふぅっ…」


 決勝戦だ。やっと本気を出せる。それだけで頭がいっぱいになっていた。俺は前衛のスタートで、橋川先輩が俺の事をガン見してくる。


「お前さ…マジで何なわけ?俺の凛花に付き纏って…マジ気持ち悪りぃんだけど」

「俺の、じゃないでしょ。凛花は凛花だ。誰の物でもない」


 人を物扱いすんな。道徳の授業で習わなかったんだろうか。


「…‥キモ」

「そうやって言葉が無くなると暴言しか吐かなくなるのって、クソしょうもないですよね」

「あ!?」


 図星かよ。クソダセェ。まぁ良いや。もうすぐ凛花のサーブで試合始まるし。あとはプレイでコイツをねじ伏せたら良いだけだ。


「ナイッサー」


 サーブを打つのは凛花。ボールをタンタン、と地面にバウンドさせる。

 凛花のプレイはあまり大したことなかったはずだが、それでも観客は大勢居る。そいつらの前で、


恥かかせてやる。


 試合開始の笛がなったその数秒後、さっきとはまるで比べ物にならないサーブ。

 助走をつけて高く飛び上がり、女性のそれじゃないジャンプサーブを打つ。


「……え?」

「……は?」


 見事敵の間を抜けて、ボールは地面に落ちる。確かこういうのをサービスエース、というんだっけか。


「うぉぉっ!すっげぇ!」

「工藤さんやっぱすげぇ!」

「工藤さん半端ないって!」

「あんなんできんやん普通!!」


 凛花のミラクルサーブに観客は大盛り上がりだ。それに俺も少しだけ口角が上がる。

 そして2本目のサーブ。またしても高くにボールを上げて、威力の高いジャンプサーブ。


「ぁっ…!!」


 試合を見る限りバレー部の3年、もしくは2年だろうか。そんな奴が、バレーを見様見真似でやってる凛花のサーブを俺らの居るコートに返すだけ。

 そしてボールの落下地点は、俺。


(はいはい、お前も相当ストレス溜まってたのね。じゃあお前にやるよ)


 サーブで点を取った凛花は、もう既に次の攻撃に切り替えている。

 凛花にトスを上げて、ブロックに捕まることなくスパイクが決まる。


「うっひゃあすげぇ…」


 男子高校バレーでも余裕で通用しそうなスパイクに驚いていると、凛花が近づいてきた。


「ナイストス」

「………おう」


 バレるかもしれない。というのはひとまず頭の片隅に置いていた。なんせ今の俺と凛花はチームなのだから…大丈夫だ。

 そして俺らはハイタッチを行った。


………

……


「あっ…ごめん」


 7本目のサーブでエンドラインをギリギリ超えてていた為、アウトになり、敵のサーブとなってしまう。


「気にしないで。そんなこともあるよ」

「ええ…」


 パチンッ!とハイタッチすると、橋川先輩が鬼の様な形相で睨んできたがフル無視を決め込む。

 そして敵のサーブ。凛花と同じようにジャンプサーブか?と思ったが、極一般のサーブであった。


「お?」


 俺と同じチームで参加している女子のバレーボール経験者である夏風さんが、綺麗にそのサーブをカット。綺麗に凛花に帰っていた。


「お?」


 来た来た、俺への高いトス。そこのトスに目掛けて助走を始めて、大きく跳躍する。

 だけど目の前には笑みを浮かべている橋川先輩。完全にブロックに捕まった形だけども。


「関係ねぇわ…」


 そのままボールを打ち下ろす。ブロックを突き抜けてコートの内側に轟音を立てながら、7メートルくらい高くバウンドする。


「ぉ…おまえぇ…!」

「アンタの様な人に、俺の好きな人は絶対に渡さない」


 結果、25対3で終わるという、バレー部にとっては失態以外の何者でもない結果で、球技大会は幕を閉じた。

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