第23話

 昼食も終わり、午後4時まで自由時間となった俺は、自分の部屋のベッドでソシャゲに勤しんでいた。


「やっぱさぁ、工藤さん一強だよな」

「そりゃそうだろ…。あの人以外にしろよ?」

「あの人はもう…女優とかの領域だろ。いやもうそれすら超えてるか」


 俺らが寝るのは6人の大部屋。同じ班の連中が何やら騒がしい。というか凛花の話題を話している様だ。


「はぁぁぁぁっ…誰なんだろうなぁ工藤さんの彼氏」

「マジでそれなんだよなぁ…。つか、その話なら多分恭弥が1番知ってるんじゃねぇの?」


 そう言うと、ほぼ全員の視線が俺に向けられてくる。そういえば俺が凛花の彼氏がいるってバラしたのか。


「もしかしたら恭弥が彼氏だったりして?」


 一瞬マジで焦る。


 だが凛花程ではないが、凛花に合格点は貰える程度のポーカーフェイスを使うと、そのわずか数秒後に救済の手が差し伸べられる。


「ないない!恭弥と工藤さんが付き合ってたら俺自殺するもん!」


 その言葉をボイスレコーダーに撮っておこうか、と思ったのは、俺だけの秘密だ。


………

……


凛花side


「はぁぁあっ…」


 私はスマホの中にある、厳選、恭弥隠し撮りコレクションを眺めていた。

もうほんっとうに愛らしい。大好き。本当に大好き!ここに私しかいなかったら悶えてる!!


(もうなんでこんなにカッコよくて可愛いのかしら…)


 みんなは私の事を美少女だというけれど、私からしたら恭弥の方が美男子だと確信している。

 普段はあまり教室で喋らない恭弥だけど、私の前だけコロコロと表情が変わる。それが本当に可愛らしい。


「く……工藤さん!」

「え!?あ、あぁ、ごめんなさい。ボーッとしてたわ」


 サッ、とスマホを隠して、友人のハルカさん。そしてこの部屋にいる私を含め6人でおしゃべりをする。


「でさぁ、工藤さんは誰がいいと思う?」

「誰…って?」

「クラス内の男子なら誰が1番良いと思うって話だよ〜」


 そんなの恭弥一択に決まってるじゃない。

 他の有象無象に興味などない。


「私は…」

「あ!あの人は!?四宮君!!」


 素直に恭弥というわけにも行かず、仮想の彼氏に頼み込もうとした時だった。そんな名前が放たれる。


「あー四宮君ね。確かにスポーツテストの時凄かったよねぇ」

「目がギラギラしててさ、肉食獣?みたいな?」

「わかる〜!!ギャップあるよね!四宮君普段大人しいから!!」


 耐えろ。耐えるのよ工藤凛花。大丈夫。恭弥は私にゾッコンなんだから、この人達はただ敵わぬ夢を見てるだけなの。


「顔が悪い訳じゃないし、この前の期末で結構いい点取ってたから頭も良くない?」

「え、じゃあそう考えたら結構優良物件じゃない?」

「しかも今フリーらしいし」

「狙っちゃう?」

「狙っちゃいますかぁ?」


「だ、ダメよ!!」


 やっちゃいけないことと分かっていながらも、私は声を荒げざるを得なかった。

 だって仕方ないじゃない。もし他の人に恭弥を取られるなんて…考えただけで泣きそうだもの。


「だ、ダメよ…し、四宮君は…」


 まずい、ここから先の言葉が出てこない。考えるのよ工藤凛花!IQ 182の底力見せてあげなさい!!


「ま、まさか凛花さんは…四宮君の事が…!」

「いや、好きとかそういうのじゃないの!! そ、そう!四宮君って、極度の女性恐怖症なのよ!!」


 正確に言うと女性恐怖症じゃなく、女性と話したくないといった方が正しいだろうか。


「私中学の時から四宮君と知り合いなんだけど、その時からあまり彼女とか作りたくないって言ってたわ」


 あくまでそう聞いた、と言うふうに、私と恭弥との間に距離を作っておく。


「へぇ〜、そうなんだ〜」

「じゃあこの件は保留だね〜」


 私は心底安堵の息を吐きそうになるのをなんとか堪える。


(はぁ…今ので恭弥成分が無くなったわ…本体に補充しにいきましょう…)


 写真じゃ満足できないので、私はジュースを買いに行ってくる体を装って本体を探しに向かった。

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