第37話

 俺の凛花が付き合ったという事が公式的に発表されてから3日の時が過ぎた。

 人間の嫉妬心というのはやはり醜いもので、顔がそこそこな俺が成功するならば自分の方が告白に成功する…と思ってた奴が凛花に告白し、見事玉砕を喰らっているという話を既に何度か耳にした。


 四宮が告白に成功するくらいなら俺の方が、と思うくらいの奴が凛花にフられて、自尊心が崩れ落ちて納得する者もいれば、納得しない者も居る。


 その納得しない奴が向かう矛先が何処かと言われれば、もはや必然的だった。


「お前よぉ、少し調子乗ってね?」


 ネクタイの色から推察するに2年生だろうか。ど定番とも言える校舎裏に呼び出され、誰も知らない奴が見れば恐喝にしか見えない様な光景があった。


「なんでっすか?」

「凛花の彼氏だがなんだかしんないけどさぁ…アイツは俺の女なんだよ。だからとっとと別れてくんない?」


 俺の肩に手を置いて、優しく声をかける…のは単なる表向き。俺の肩を強い力で掴んで、俺が痛みに叫ぶのを待っている。


「無理です。俺はアイツが好きなんで」


 肩を掴まれたまま発言する。


「うわ〜カッコいいねぇ〜。でもそれ今関係ないから。お前の意思は関係ないの」

「そもそもそれって貴方の片想いなんじゃないですか?もし恋人関係なら夏休みの間に何日か会ってるはずですよね?」


 俺らの場合何日かなんてのは生温い。最早毎日お互いの家に遊びにいったり来たりを繰り返してる。2週間だが二人きりで旅行にも行ってる。


「は?意味わかんねぇんだけど」

「じゃあこれ退けて貰えます?痛いんですけど」


 さっきから長ったらしい爪が食い込んで痛いんだ。


「嫌なら退かしてみろよ。お前にそんなん出来るわけねぇけど」

「そうですか」


 手首を掴んであっさりと引き剥がす。また掴まれるのも厄介なので掴んだまま離さない。


「はっ…!?え…ちょっ…」


 ラブコメ系主人公は、こんな状況に陥ったりすればヒロインが助けに来たりするだろうなと想像する。


「これ以上凛花に近づかないでくださいよ。迷惑なんで」


 腕を握力から解放させ、俺はそう吐き捨てて校舎の中へと向かって行った。


「随分手荒ね?あと少しで骨が折れてたんじゃない?」


 壁にもたれかかって腕を組んで居た凛花。さっきのを目撃されて居たようだ。


「俺の握力じゃ骨は折れねぇよ」


 ロベルトなどの黒人選手なら話は変わってくるけど、俺なら折れることは無い。少なくとも握力で人の骨を折ったことは無い。


「まぁ手荒だけどさ、俺ってやっぱ独占欲強いわけよ。見ず知らずの他人に凛花が俺の女とか言われたら流石に温厚な俺もキレるって」


 喧嘩なんかしたく無いよ?痛いし。だけどこればっかりは…ねぇ?


「……そ、そう…」

「凛花さん?なんで顔赤くしてんすか?」


 いきなり顔赤くしてモジモジしてる凛花さん。今のどこにそういう要素あったよ。


「いや…好きな人に独占されたいって思われてたら…やっぱり嬉しいもんなのよ。女は」


 逆の立場で考えてみた。俺も凛花に独占したいって言われれば多分喜ぶわ。俺ってMなのかな?


………

……


 そしていつも通りの放課後。俺はいつものように凛花と共に帰るべく、校門の前でスマホを弄っていた。

 五分程待っていると、凛花が小走りで走ってくる。


「ごめん恭弥!少し遅れたわね…」

「許さん。罰として五分抱きしめられろ」


 俺がタダで許すと思ったら大間違いだ。これから凛花には屈辱が待っているだろう。


「ふふっ、喜んで受けるわ。じゃあ早く帰りま…」

「ちょっと待てよ!!凛花!!」


 そんな大声に、思わず肩がビクッ!と跳ねた。そこには、俺を校舎裏に連れた男…とはまた違う男が、数メートル離れた場所からそう叫んだ。

 校門前で、しかも下校時間ということもあってかなりの人混みの中なので、俺は恥ずかしさを味わう。


「何でしょうか宍原ししはら先輩」

「あくまで…僕よりその男の方が良いのか…」


 その声で大体把握する。あ、この人凛花に振られたんだ、と。


「はい。そもそも私は宍原先輩と恭弥を比較して居ません。誤解させるような言い方をしないでください」


 心配そうにチラリと、一瞬こちらに視線を向ける。確かに今の言い方だと、元カレが言ってるみたいに聞こえるんだよなぁ…。


「安心しなせぇ。俺だけが好きなのは疑わん。そもそも凛花と最初に付き合ったのは俺だし、初めて処女膜をぶち破ったのも俺げぶ!!」

「バカ…!んな生々しい話しないで良いのよ…!」


 俺らにしか聞こえないような声量でそれを言うと、腹に肘鉄が喰らわされると、凛花はそう小声で叫んだ。


「なら…四宮恭弥!!」

「ん?俺っすか…?」


 肘鉄の痛みから無事解放された俺は、腹をスリスリしながら宍原先輩の方を見ると、見事に俺を指差して叫ぶ。


「僕と勝負しろ!」

「は?」

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