第2話
「はぁ…はぁ…はぁ…」
息を大きく荒立てながら、家の前で両膝の上に手を付ける。時刻は朝の6時半。つい先ほど、日課となっているマラソンを終えたところだ。全部で20キロ以上ある道のりをかなりのペースで毎朝走るので、かなり疲れる。
「ふぅ…」
これをやってる理由は1つ。俺が凛花と釣り合う人間になるためだ。
凛花は才色兼備、文武両道のレベルが半端じゃ無いほど高い。そんな凛花が愛してくれている俺はそうかというと、実はそうじゃ無い。
成績は平均で、顔も整ってるわけでも不細工な訳でも無く、せいぜい中の上が良いところだ。だから俺は、得意なことを一つのことだけ、俺が得意なサッカーを極めることにした。今回はそれの土台となるための体力づくりだ。
息を整えた俺は、玄関の扉を開いて中に入った。その中には、キッチンで料理を作ってる凛花の姿。
「おはよ、恭弥」
「あぁ…なんつうかもう慣れたな。お前が家にいるの」
朝早くから来て、凛花が俺達家族の朝飯を作って一緒に食べる、というのがもはや恒例行事となっている。
ソファに座って、滝のように流れる汗を拭き取り休憩する。
「あー疲れた。軽くシャワー浴びてくるけどさ、凛花も入るか?」
「ぬぁっ!?」
こんな冗談を言うと凛花は顔を真っ赤にするので本当に面白い。何度やっても飽きないし。
「な、ななな、何言ってんのよ!バッカじゃないの!?」
「あ、そっかそっか。今日どうせお前の家に行くしあんま変わらないか」
昨日約束をした事を忘れてしまっていた。そうだそうだ。楽しみは最後まで取っておくものだ。
「そ、そういう事じゃないわよ!」
こういう話になるとウブな凛花は慌てふためいてくれるから本当に面白く、愛らしい。こんな姿も、俺が凛花を好きな理由の一つだろう。
「んんっ…あら、おはよう凛花ちゃん。今日も早いわねぇ。本当に毎朝ありがとねぇ」
「い、いえいえ。私が好きでやってるんですし」
おっ、さっすが完璧美少女の凛花様だ。さっきの会話によって顔の赤みは少しだけあるが、他人から見ればわからないレベルにまで消えてる。
因みにリビングの扉を開いたのは俺の母ちゃん。
「ホント…恭弥、アンタいい彼女持ったわねぇ?」
「だろ?俺の自慢の彼女」
「き、恭弥!アンタそういう事恥ずかしげも無くいうの辞めなさいよ!」
だって自慢の彼女は自慢の彼女だろう。事実を言って何が悪い。
それを言おうとしたら、今度は親父が入ってきた。
「おうおう相変わらず仲が良いなぁお二人さん。相変わらずのラブラブ夫婦っぷりで何よりだ」
「夫婦っ…き、恭弥と…夫婦…ぷひゅぅっ…」
漫画にしかあり得なさそうな効果音を口に出す。凛花はこれが素だから面白い。
そして限界を迎えた凛花を倒れ込みそうになるのをなんとか抑える。
「親父、まだ凛花には刺激が強ぇからさ、そういうのはあんま良くないぞ」
「んんっ…難しいな」
………
……
…
学校での俺と凛花は、少しだけの面識はあるが、そこまで話す仲じゃない、と思われてると思う。
なぜこれをしてるのかというと、凛花と付き合ってるのが分かれば、凛花親衛隊(笑)にコンクリに詰められて太平洋に沈められる可能性が大だからだ。
だからいつもどおり俺は、サッカー部の仲間と共に、教室の中で駄弁っていた。
「にしてもよぉ、凛花様可愛すぎね?」
「わかる…はぁぁ、どうにかして一日彼女で居てくれないもんかねぇ…?」
「ははっ、全財産ぶっ込んでも無理だっつの。お前なんか相手にされねぇよ」
上から、桐原洋一、鬼林亮介。橋本祐一の三名がそれを口々に言うと、アップルジュースを飲んでいた俺に視線が向けられる。
「でもさ、恭弥ならワンチャンあるんじゃね?」
「あ〜…まぁな。顔はまぁ…悪くはないし、若干いいもんな」
「成績は平凡だけど…」
「「「運動神経バケモンすぎるしな」」」
打ち合わせでもしたんじゃないかってレベルで口を揃えてそれを言われる。
「プロとかいきゃ、凛花様も気には止めてくれるだろうしなぁ…」
確かに何個かプロチームから勧誘は貰ってるので、その凛花様とやらも少しは気には止めてくれる貰えるかもしれないな。
「まぁどうせ、そこ止まりだろうけどな」
「おっ、恭弥にしちゃヤケに卑屈だねぇ?」
ニヤニヤとしながら「まぁワンチャンの夢を見ようぜ、親友」と語りかけてくるが、現実をぶっ込んでやる。
「だってあの人、彼氏いるし」
「「「「「はぁぁぁあああ!!?」」」」」
話に参加してなかった輩でさえ、大きく雄叫び、というか悲鳴を上げる。
「嘘だろぉぉ!?何処の情報だそれ!」
「信じねぇ…俺は信じねぇ!」
「ははっ…夢だ…こりゃ夢だ…」
「あっ…今週の金曜ロードショー…なんだっけ…?」
ヒデェ地獄絵図だ。驚く奴、信じない奴、現実逃避する奴、気が狂う奴が多数居るこの状況…。
「なんだこれ!おもしれぇな!」
俺はぷはっ!と笑って居た。
「元凶お前だよゴラァ!!え!?マジで言ってる!?マジで言ってんのか恭弥ぁあああ!!」
ぐわんぐわんと陽一が俺の体を揺さぶって、血眼を向ける。
「マジマジ。なんなら今日り…工藤さんに聞いてきたら?丁度話題を持ちかけて話せるチャンスだぞ?」
そう言った後の次の休み時間、凛花の居る教室が人いっぱいになって居たのは、言うまでもないだろう。
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