L'ecrin

  ⁂  ⁎  ⁑  ✢  ✣  ✤  ✥  ✲ ❉  ❊  *  ❃  ✽ ☾ ☆ ★ ※


 夜陰やいんに静む馬爾代夫モルディヴ島嶼とうしょにては眼をみはった。引繰ひっくり返された宝石箱レカンより有りったけ青玉石サファイア灰簾石タンザナイト珪孔雀石クリソコラといった数多あまた碧玉へきぎょくこぼでて撒き散らされた様に、おびただしい数の青くあきらかなる光の粒が、くら真砂まさごの濱の浪打ち際の遠近をちこちっていたのである。

 つらなりわがねられた光の鎖の如く揺らめく泊漪ささらなみゆるりと、しかがなすきがな濱をあらうて磨く。其処そこには澹冶たんやなる燐光りんこうを発しながら刻々とかたちを変ずる地上の星群アステリスムが現前していた。天ならず地に斯様かよう星群アステリスムが! これに邂逅してこころうごかさぬ等は不能できまいよ。光は何時いつしか点から線を結んで面へと拡がり、群玉をちりばめし瑤臺たまのうてなへといざのうかの如くおうとして耀かがやける絨毯となりおおせた。漆黒に覆われるはずの世界を、うみの玲瓏たる青光あおひかりと、夜天やてんながらに燦爛さんらん衆星しゅせいまたたそら浅葱あさぎとが色取っていた。はるけき異国とつくにで、眼路めじ彼夜あのよ翡翠かわせみ双色ふたいろ一杯に染まった。

 さておぎろなき蓋天がいてん星散せいさん碁布きふに応輝するかのごとりし青光あおひかりの正体は、夜光虫ノクチルカ渦鞭毛藻ディアフォレティケスといった浮游生物プランクトンらしい。彼らのつ、堕天使長の名を冠した発光素ルシフェリンなる物質の所為せい黋黋こうこうとするのだと云う。成る程、地に堕ちしかつての美妙びめういよやかなる大天使が、今もって其の名の如く"光をもたらす者〔lux fero〕"として地上のものならざる煌火きらびを燃やし、天上の造物主ソヴリン相対峙あいたいじせんとする光であったのか……。


~~~~~~~~~~~~~~~~へへへへへ~~~~~~~~~~~~~~~~~

  ⁂  ⁎  ⁑  ✢  ✣  ✤  ✥  ✲  ❉  ❊  *  ❃  ✽ ☾ ☆ ★ ※

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る