御衣黄

 偉大なる詩人ポエタいましめるだらう、Carpeカルペ diemヂエム其日そのひの花を摘むべしと。偉大なる上人しやうにんく詠むではないか、明日ありと思ふ心の仇櫻あだざくら夜半よはに嵐の吹かぬものかは、へらく、花季はなどきのがしてはならぬと。だのに即今そくこん瞠視みつめるはずの葉櫻の切嵌モザイク画はうに花色の陶瓦タイルとしてわかやぎの葉色はのいろ一色に塗り籠められてゐるよ。如何どうすりやいんだらうね……おや、違う。花だ、熟々よくよく見遣みやれば花がみをたたえてゐるぢやないか、葉色はのいろ相泥あいなづんでゆる萌黄もえぎの櫻が! かさね色目いろめならざる御衣黄ぎよいくわうさくら萌黄もえぎを、君よ君、御覧なさいよ! 花と葉がなかばしていろむる淡翠うすみどり奇観きくわんを!

 

※ 穀雨を前に、とある苑囿にて。なお、ホラティウスおよび親鸞による詩歌の引用を含む。

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