豊穣なる語彙世界

やまとうた

ゆたすき

木綿襷（ゆふだすき）：

「ゆだすき」とも。折句となる経（たていと）の五首および各句頭が同音で右から左に流れる緯（よこいと）の五首より成る方形の格子模様に、更に折句となる斜（はすかひ）の二首を襷掛けするように配（あしら）い、各交点に共通の文字を置く技法。双六盤歌（すごろくばんうた）や碁盤歌（ごばんうた）に代表される図形歌（カリグラム）の一種。

　　⑤④③②①　

⑫↘↓↓↓↓↓ ↙⑪

　　ゆゆゆゆゆ←⑥

　　ふふふふふ←⑦

　　たたたたた←⑧

　　すすすすす←⑨

　　ききききき←⑩

※本作は便宜に歌の排列と流れを以下の如く変じた。また、文字列の崩れる懼（おそ）れあるため、PC画面上でのご高覧を願いたい。

　　①②③④⑤　

⑪↘↓↓↓↓↓ ↙⑫

⑥→ゆゆゆゆゆ

⑦→ふふふふふ

⑧→たたたたた

⑨→すすすすす

⑩→ききききき

☒☒「ゆふたすき」の木綿襷 ☒☒

　　　　　　ゆふつつのゆふへになれはゆくきみ　のゆめのたたちにゆくへたそしる

　　　　　　めふ　　　き　　　　　　ふ　　　　　き　　　　　めき

　　　　　　か　つ　　ま　　　　　　し　　　　　お　　　な　　か

　　　　　　た　　く　た　　　　　　く　　　　　ひ　　ら　　　む

　　　　　　り　　　よら　　　　　　れ　　　　　して　　　　　る

　　　　　　ふるさとにふみいたりなはふくかせ　にふりゆきみたるふゆのおとつれ

　　　　　　る　　　　るり　　　　　り　　　　たし　　　　　　し

　　　　　　も　　　　あ　さ　　　　ゆ　　　ゆ　は　　　　　　の

　　　　　　の　　　　め　　け　　　く　　き　　ま　　　　　　た

　　　　　　か　　　　に　　　み　　と　　な　　な　　　　　　か

　　　　　　た　　　　き　　　　れ　て　か　　　ち　　　　　　ね

　　　　　　り　　　　ゆ　　　　　はもら　　　　の　　　　　　に

　　　　　　たはれねにたちはもしらぬたかそて　のたみたるうらをたくるへきかは

　　　　　　く　　　　の　　　　　えまか　　　　か　　　　　　な

　　　　　　へ　　　　な　　　す　　み　ひ　　　な　　　　　　く

　　　　　　て　　　　か　　き　　　つ　　　か　み　　　　　　も

　　　　　　は　　　　にて　　　　　の　　　　るを　　　　　　の

　　　　　　すきかへすすいはらかみのすかしめ　もすくなもしなくすきたはむらむ

　　　　　　く　　　すこ　　　　　　す　　　　　かな　　　　　き

　　　　　　せ　　む　し　　　　　　け　　　　　し　こ　　　　か

　　　　　　か　　し　く　　　　　　は　　　　　あ　　に　　　て

　　　　　　は　の　　み　　　　　　か　　　　　ふ　　　ま　　さ

　　　　　　ゆ　な　　ゆ　　　　　　く　　　　　き　　　　か　め

　　　　　　しく　　　る　　　　　　も　　　　　に　　　　　ふり

　　　　　　きみのなをききておもほゆきしかた　のきらめくときのきゆるおもひを

　　　　　のき　　　　さ　　　　　　よ　　　　　り　　　　　　から

　　　　ま　も　　　　ら　　　　　　く　　　　　ふ　　　　　　ふ　ほ

　　　ろ　　こ　　　　き　　　　　　あ　　　　　の　　　　　　し　　し

　　と　　　そ　　　　の　　　　　　ら　　　　　や　　　　　　ろ　　　の

　の　　　　す　　　　は　　　　　　は　　　　　い　　　　　　た　　　　か

に　　　　　れ　　　　る　　　　　　る　　　　　る　　　　　　へ　　　　　け

【経（たていと）の五首】

ゆめかたり　ふるものかたり　たくへては　すくせかはゆし　ききもこそすれ

ゆきまたら　ふるあめにきゆ　たのなかに　すこしくみゆる　きさらきのはる

ゆふしくれ　ふりゆくとても　たまみつの　すすけはかくも　きよくあらはる

ゆきおひし　ふしはまなちの　たかなみを　すかしあふきに　きりふのやいる

ゆきかむる　ふしのたかねに　たなくもの　すきかてさめり　きかふしろたへ

夢語（ゆめがた）り　古物語（ふるものがた）り　類（たぐ）へては　宿世（すくせ）（過ぐ世）顔映（かは）ゆし　聞きもこそすれ

雪斑（ゆきまだら）　降る雨に消ゆ　田の中に　少しく見ゆる　如月の春

夕時雨（ゆふしぐれ）　降（ふ）（古（ふ））り行く身だに　玉水（たまみづ）の　雪（すす）げばかくも　清く現（あら）（洗）はる　

靫負（ゆきお）ひし　武士は眼路（まなぢ）の　高浪を　透かし扇（あふぎ）に　切生（きりふ）の矢射る

雪冠（ゆきかむ）る　富士（ふじ）の高嶺（たかね）に　棚雲の　過ぎかてざめり　差（きか）ふ白妙（しろたへ）

【緯（よこいと）の五首】

ゆふつつの　ゆふへになれは　ゆくきみの　ゆめのたたちに　ゆくへたそしる

ふるさとに　ふみいたりなは　ふくかせに　ふりゆきみだる　ふゆのおとつれ　

たはれねに　たちはもしらぬ　たかそての　たみたるうらを　たくるへきかは

すきかへす　すいはらかみの　すかしめも　すくなもしなく　すきたはむらむ

きみのなを　ききておもほゆ　きしかたの　きらめくときの　きゆるおもひを

夕星（ゆふづつ）の　夕（ゆふべ）になれば　行く君の　夢の直路（ただぢ）に　行方（ゆくへ）誰（た）そ知る

故郷（ふるさと）に　文（踏み）到りなば　吹く風に　降り雪乱る　冬の訪れ

戯寝（たはれね）に　起（た）ち端（は）も知らぬ　誰（た）が袖の　彩（だみ）たる裏（心（うら））を　手繰（たぐ）るべきかは

漉（す）き（梳（す）き）返す　杉原紙（すいばらがみ）（髪）の　透かし目（清（すが）し女）も　直文字（すぐなもじ）無く　好き撓（たわ）むらむ

君の名を　聞きて思ほゆ　来（き）し方の　燦（きら）めく時の　消ゆる想ひを

【斜（はすかひ）の二首】

ゆふつくよ　ふりさけみれは　たかひかる　すなこにまかふ　きらほしのかけ

ゆめならて　ふたゆきなから　たえすきて　すすむしのなく　きのまろとのに　

夕月夜（ゆふづくよ）　振り放（さ）け見れば　高光る　沙子（すなご）に紛（まが）ふ　綺羅（きら）星（ほし）の影（かげ）

夢ならで　二行（ふたゆ）き乍（なが）ら　絶過（たえす）ぎて　鈴虫の鳴く　木の丸殿（まろどの）に

※後刻、細部の添削及び自歌自注を施すやも知れない。

参考：

土岐善麿『京極為兼』（日本詩人選15　筑摩書房、1971）

井上宗雄『京極為兼』（人物叢書、吉川弘文館、2006）