ひめこと

拙文『〔私訳〕かざしの姫君』の韜筆に際し、如下の詠歌を以て、ご高覧の諸賢に今一度の謝意を表するものなり。


あきくると きくのはなより のるのちの

よもあきやらじ ひめことのあれは


秋(飽き)来ると聞く(菊)の端(花)より 告る/後の

夜も(世も、よも)明(飽)き遣らじ 秘め事(姫事)のあれば


【通釈】

秋が来ると飽きが来ると聞きますが、聞いた端から、私、菊の花の精よりお伝え致します。後の世(=来世)にも、よもや(貴方との仲に)飽きてしまうことなど、まだまだ夜も明け切らぬ今この時のように決してありません。かざしの姫、貴方との秘めたる契りがあるのですから。


【自歌詳解】

あきくると:「秋」と「飽き」の掛詞。


きくのはなより:「菊」と「聞く」、「花」と「端」の掛詞。


のるのちのよもあきやらじ:

三句目「のる」の終止形による〈のる/のちの〉という中間切れ。「のちの」は四句頭の「よも(世も)」と接続して「後の世も」と成句し、同句頭「世も」「夜も」「よも(や)」の掛詞、「明き」と「飽き」の掛詞へと続く。なお「明き遣らじ」は誤り。本来は「明く」下二段活用(け・け・く・くる・くれ・けよ)の連用形を以て「明け遣らじ」とすべきところ、枉げて四段活用(か・き・く・く・け・け)の連用形「明き」としたこと、何とぞご推慮とご海容を請う。


ひめことのあれば:「秘め事」と「姫(の)事」の掛詞。字余り。


なお各句頭にそれぞれ「あ」「き」「の」「よ」「ひ」(=秋の宵)の折句を含む。


かざしの姫君による送詩はこちら

https://kakuyomu.jp/works/1177354054888143292/episodes/16816700427591160254


真名と女、仮名と男の逆様あべこべも一興あるか。

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