細愛男

Xuxei vouoxito iyedomo, ychiguetniua xicaji......シュセイ ヲゥオシト イィエドモ、ィイチグェトゥニウア シカジ……あなや失敬、衆星しゅせい多しといへど一月いちげつにはかじ、とこそまおすべきなり。の心、ナントホシガヲヲウテモ、ヒトツノツキニワマサラヌモノヂャ、とぞ。れどさて、北辰のるや正天中せうてんちうにして、衆星しゅせいおのづとこれむかへば、或いは一月いちげつに足るとは思わぬか。こほれる睦月むつびづき朗夜さゆるよ瞻仰あふぎみながら、これしらす君はいづれなりやと、いさ思ひ巡らさむ。夜窓よまどの有らずば、御辺ごへんの脳裡に設備しつらはるらむ天象儀プラ子タリユウム能々よくよく御覧ぜよ。

 左佐良榎壮子……あな又候またそろ失敬、此度こたみは羅馬字ならず萬葉仮名とは、あらためなん。細愛男ささらえとをこ天河船あまのかわふねのりくみて、今日けうも夜の天海あまみわたるぞ。の姿、月芽しんげつきざしてほど無きの、いま繊弱あえかなる月牙みかづき。対して不動うごかず北极星ポラリスは、政道くあるべしとて先哲のへらく、北辰の其処そのところに居りて衆星しゅせいこれむかふが如し、とぞ。成程なるほど花紺青スマルトそらに散りさんざめく恒河沙ごうがしゃ金色こんじきは、又の名を天枢てんすうと、天枢あめのくるるとさる北辰をば夜天やてんぬしとしてつかうるがかるらし。

 片や孤月の一顆いっか細愛男ささらえをとこ此方こなた眾星しゅせい……あなや是又しても失敬、此度こたみは異体字か、あらためなん。此方こなた衆星しゅせい子等こらに慕われし母の如き北辰。いづれか夜のぬしたるや。弓張り……いな、矢張り、睦月むつき一月いちがつなれば一月いちげつこそ宜しかろう。嗚呼ああ、旧年よりの月が幕引きしてついえ、あらためて幕開けしつつある月のよはいは今宵、やうやう一になんなんとす。あらたしき年の初めの初春に、あらたしき月の盈虚えいきょまさに始まらんとす。


 月が綺麗ですね……


 左様さうやって口説くどいても無駄よ。日のヒメに懸想けさうする月のヒコ、愛すべき嫩者わかもの細愛男ささらえをとこ君。


備考:

細愛男ささらえをとこ」は月の異称。「ささら」は小さい、「え」は愛すべきの意で、愛すべき若い男の意。


なお、本文に『天草版金句集』『論語』(為政篇)および『萬葉集』の孫引きを含む。

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