詞華の帙

餐堂の燭

平底鍋ポワルうち珊々さんさん

かれしあま白真砂しらまなご

かれてとろんで黄色あめいろ

染まりて牛酪バターなづみおり


高脚杯こうきゃくはいかたぶけて

うちぬめやかす君度コァントロ

燠火おきび人形操あやつ祝融しゅくゆう

接吻ベーゼとぼさる蒼き

まとうて注がる一時いちどき

周囲ぐるり燄燄えんえん 焱洗フランベ熾盛しじょう


橙子オランジ果汁ジュース涵々ひたひた

其処そこに注がれやがてして

水面みなも泡沫ほうまつにぎやげば

折り畳まれたる可麗餅クレープ

しばひたされ湯浴ゆあみする


銀の二叉子フォークつらぬかれたる

橙子オランジの実は昊杲そらたか

昇る飛龍に見紛みまがわるらん

剥かれし橙皮とうひの螺旋の活套ループ

伸べて長々枝垂しだれさせ


高脚杯こうきゃくはいかたぶけて

うちぬめやかす柑桂酒キュラソア

此度こたび燠火おきび回禄かいろく

接吻ベーゼとぼさる蒼き

まとうてゆる聖なる水と

なりて灌頂かんじょうせらるるがごと

橙皮とうひの螺旋を火奔ほばしくだ


ゆる涕泗ていし橙子オランジ

うみに散じて彼方此方をちこち

揺曳ゆらめそよいで三度さんど四度よど

えかに咲きては消えいそ

燐光たたえて束の間エフェメラ

華影かえい遺して溶暗ようあん


あたかついにはくだ

大餐堂グランメゾンとぼしび

幕切れ飾りてとぶらいて

幽冥界にいさよえる

誘導灯の霓虹ネオンの如く


湯浴ゆあえたる可麗餅クレープ

ほて仮寝まろね洋皿さら

橙子オランジ煮汁スープ盪盪とろとろ

あまき余韻を薫らする


糖衣堅果プラリネの粒 微苦ほろにが

乳氷アイスクリン食匙スプーン

はこばれに添い寝をすれば

ほてりと冷やとが相和あいわして

コインシデンティアcoincidentiaオポジトールムoppositorum

菓子デセールの王は出御いでまする


【語釈】

祝融しゅくゆう:火の神の名

回禄かいろく:火の神の名


【備考】

詳細はクレープシュゼットのレシピを参照されたい

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る