豊穣なる語彙世界

類聚を俟てる詞藻たち〔令和五年(2023)〕

〔詞華の帙〕

沈床の園

余火止（よひや）み月映（つくば）え東（はる）の夜

扇忌々（あふぎゆゆ）しき穐（あき）にはあらず

喋々喃々（てふてふなむなむ） 蠕動（おごめき）は已（や）まず

嬰児（みどりご）ならずて美児（まさづこ）の

呱々（ここ）の嬌声（こゑ）果つ 海は凪ぐ

海棠（かいどう）睡りの未（いま）だ足らずや

嬾眠（らんみん）婪（むさぼ）る〈沈床の園（サンクンガアデン）〉

その孅（かよわ）くて 婀娜（あだ）やかで

羚羊（ガゼル）かとよと見紛（みまが）はるらむ

孅（ほそ）く娵（たを）やかなる四枝（しし）を撫（な）ぜ

蜾蠃（すがる）かとよと見紛（みまが）はるらむ

括（くび）れに趨（はし）らす朱脣（くちびる）の畛（あぜ）

そして頸（うなじ）

嫺（みやび）やかとは云ふにも足らず

嬌（なまめ）かしくも嫖（みだ）らにも

嫩（わか）く嬋（あで）やか 姝（うるは）しの肌理（きり）

明衣（あかはとり）にぞ及ぶべらなる

その白壁（はくへき）に微瑕（びか）の如（ごと）

彧々（いくいく）とせる芝蘭（しらん）の御青（みさを）

そをば匿（かく）する花毯（がらまうふ）さへ

手繰（たく）し上ぐれば穴賢（あなかしこ）

然（さ）れど目方（まへ）なるその海螺（うみつび）は

屡（しば） 排闥（はいたつ）の旹（とき）をば俟（ま）つよ

佳会一夕休（Vita longa Amare brevis）……