鷹鸇の志

たなひらおしひらかれたる如く漲る

風切羽かざきりばねが逆光に

刻印されりと見ゆるや否や

しろ体躯たいく真白斑ましらふ

焦茶こげちゃ色した舒翼じょよくを伸ぶる

飛禽ひきん帆翔はんしょうするを

鷹鸇ようせんこころざし赴くまま

そら、大霄おおぞらくだ

白粉顔おしろいがおくま取りの

施されたる凛々しきかほばせ

王者おうしゃの如くかしらに立てる

冠羽かんむりばねを靡かせて


彼奴きやつ眼路まなじに見留めしは

鴨鷭おうばん鴉雀あじゃくたぐひに非ず

そら知らぬ魚族いおにこそ

沸波ふつはの揺らす真澄鏡まそかがみ

はねりに散る缺片かけら清らか

水中みななかに脚つまだてて

須臾しましくいきさぐくめど

飛禽ひきん翩翩然へんぺんぜんとして

ちて二度ふたたびはせんとす


彼奴きやつたけ鉤爪かぎづめ

とらへらるるは何とやら

光絢つややか蛋白石オパアル

躯を一往いちおうくねらせて

是にさから錦遍羅にしきべら

果たして遅きに失するあきらか

噞喁あぎとひ声なき悲鳴と響く

いなは歓呼にむせび啼く

今際いまは吟嘯ぎんしょうやも知れぬ


靜寧せいねい復して一碧万頃いっぺきばんけい

韡曄いようきららか玉瑛たまごと

水面みなも陽射ひざしのあしあと

数多あまた名残りて銀鱗ぎんりん

ちりばめられしに見紛みまがはる


あっぱれすべてが羞明まぶしうて

眯瞠めくらばかり、眯瞠めくらばか


【語釈】

沸波ふつは雎鳩みさごの異称。

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