理義字

 明朝みんちょう末葉ばつようていりゅうなる商人あきびと五男子ごなんし有り。名をばしんえんぎょうきんびょうい、もくごんすいの五行みな揃う。後にしんいみな改めて成功せいこうと称す。こくせんことてい成功せいこうさだ過ぎし王朝に翹望ぎょうぼうされたる救世主メサイヤなり。

 さて五人いつたり兄弟けいていとは行かぬが、三人みたりも寄らば文殊の知恵なる俗諺ぞくげんは真実なりや。女の三人みたりだに寄らばかしましく、男の三人みたりだに寄らば、「男」の品字様ひんじようかさなりたるにて「たばかる」と、以為おもへらくたばかるとうぞ。男子なんし女性にょしょうの別を問わず、小人しょうじん寄りては不善よからざるを為すなり。いはんや虚妄に群れしたがいてぎんとする人々をや。其の様態ようたいあたか好餌こうじに牛馬の驫驫ひょうひょうあつまりてひしめくが如し。おのくらきを心奥しんおううたがう者、耳にささやかれしいよやかなるはやことを、ぐさま心のうちに轟かするのゆえならん。是、民政の衆愚に堕するのきざしならんや。ああ莫言いうなかれ、莫言いうなかれ……

 

 如上じょじょう、又しても双子が叒木じゃくぼくつづった刹那、かみなりの一閃はくだん叒木じゃくぼくを火炎でつつんだ。そして火炎は焱燚えんいつとして、双子のならびゆく生をあかく染めた。


参考:松井兎睡編『〈万貨字海・古語註解〉四民童子字尽安見』六ノ四「理義字集」

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