毘藍風

 不意おもはざ嘉貺かきょうたまふ目開めはだかれし眸中ぼうちゅうに現世の玄極げんごく仄見ほのみ苾蒭びくしゅ長恨歌ちょうごんかの一節を独語ひとりごちた。

天長地久てんながくちひさしくとも有時尽ときありてつく

 ああとき来たれるか。劫初ごうしょに吹きすさびし毘藍風びらんふうが、今又、滅已きへはつるべき天地に蛮音ばんいんを轟かす。震動雷電しだらでん颶風ぐふうを前に、そびやかなる風丰ふうぼう苾蒭びくしゅこそ論をたず泯然みんねんたり、己が眼路めじひらほどこりし荒れ狂う昌丯しょうふううちくずおれた。刹那、天下熈熈てんがききとして彼のむくろは其のひかり御御衣みおんぞにてつつまれしが、やが朧気おぼろげに、森羅万象、坩堝るつぼと化しおおせた。


※「滅已めつい」を「滅已きへはて」とむは『西大勅謚興正菩薩行実年譜附録』に見えたり。

 

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