瘴氛

 大穹窿おおまるがたの半天にいづくんぞ有らんや、ゆう…… いなからす有り。しかも二羽。片やまひる盡虚空じんこくう燦爛さんらんとして在り、舒翼じよよく燠炫ゐくげん昏衢暗巷こんくあんこうあまねおお金烏きんう此方こなた遥夜ながよおお晦冥やみ病葉わくらばに空いた無数の小孔こあなより光のぞかす衆星しゅせいうち軫星みつかけの四つ星が結ぶからす座の臺形だいけいである。

 さて林鐘りんしょうからす座の天臺あめのうてなうちに、人の命數めいすうつかさど長沙星ちょうしゃせいは控えめに揺らめいていた。おの命數めいすう蕩尽とうじんせずして迎うる人生のときの、何時いつ何時なんどきおのれおとなうかに否応にも思い致さざるを得ぬは、現今、まなこに映ずること無き為体えたいの知れぬ瘴氛しょうふん軟紅塵中なんこうじんちゅう瀰漫びまんするのゆえか。わざわいはふたばで断たねば、いづ大斧おおよきを用いざるを得ぬうれいに転ずることあきらか。庶幾こひねがはくはかる物怱ぶっそうの、からすの翼をおさむるがごとくに終熄しゅうそくせんことを。


【語釈】

林鐘りんしょう:六月の異称

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