承和色

 夜来やらいふつくみのつい瘴癘しょうれいにでも変じていたか、眼前の火聚かじゅもっ愈愈いよいよたぎらせた熱湯あつゆ玻瓈茶壺ティーポットうつろに奔注ほんちゅうするや、うちにて微香を薫らせて冲融ちゅうゆう微睡まどろんでいた檸檬草レモングラス荷蘭薄荷スペアミントくさも、貪愛どんあい瞋恚しんいの、茶壺ポットの底に喧豗けんかいとしてつかるほとばしにまろかされて、壺中こちゅう周匝しゅうそうする円舞ワルツはじめた。ふたつの薬艸エルブ出出でだしこそ騎虎の勢いでめぐったかと思いきや、直ぐさま澶湉てんてんとした安逸あんいつの軌跡を描いてなづさひながらも蘋藻ひんそうとは成りおおせず、結句、砕け散った帚星ははきぼし欠片かけらの如く壺底つぼそこに墜ちてしづんだ。透徹して見ゆる壺中こちゅうに、今や玲瓏たる承和色そがいろたたえる薬湯ティザーヌを残して。

 色付くをてばいでくものもある。そして軽やかなる廻旋ピルエットも又、何時いつしか止まろうよ、避くるあたはざることに……秋のいや凌晨しののめ雲漠うんまくの切れ間から日脚ひあしを延ばし、玻瓈茶壺ティーポット瀲灔れんえんの揺らぎを貫いて、餐敷ランチョンマットに影ならぬ粼粼りんりんたる光の揺動ゆさぶりを刻印してほほんでいた。


※朝の温かい飲み物が美味しい季節になりました。

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