第7話 「こっちのを見れば良い」
鉄の刃が岩盤に直撃し火花を散らす。
このICOにおいて鉱石を集める場合、方法は主にふたつ。
ひとつはクエスト報酬またはモンスタードロップだ。
報酬でもらえるものはクエストの難易度によって異なるが、難易度が高いほど貴重なものが手に入る。モンスターの方は身体が岩などで出来ているゴーレム系の者がドロップしやすいそうだ。モンスタードロップでしか手に入らないものもあるらしいが、確率は極めて低いらしい。
もうひとつは鉱石ポイントでの採集だ。
ダンジョン内には巨大な亀裂の入った壁や色合いの違う岩石が存在している。そこでピッケル系のアイテムを使用すると複数回採集出来る仕組みだ。
入手できるものは採集ポイントごとに異なり、数種類の中から確率での入手になる。採集ポイントは街や別のダンジョンに移動しない限り復活しない仕様なので、レアなものほど根気強く掘るしかない。
「よいしょ! こらしょ! どっこいショー!」
元気な掛け声を出しながらシャルは、ピッケルを振り上げては振り下ろす作業を続ける。
聞いた話では、ランクの高いピッケルほどレアな鉱石が出やすく、壊れにくいらしい。
ただ市販や合成で手に入るピッケルのランクには限度があり、所詮は確率の世界になってしまうそうだ。
しかし、課金アイテムの中には確実に最もレアリティの高い鉱石を発掘できるピッケルが存在している。だが一度使うと壊れてしまい、お値段もそこそこするようなので使っているプレイヤーはそう多くはないとか。
「……なんて別のことを考えてみたが」
どうしても意識があそこに引き寄せられてしまうな。
その場所はシャルの胸。彼女がピッケルを振り上げ、振り下ろす度にその上下運動に合わせて大きく揺れている。
シャルの服装は和服だが上乳や谷間が見えるほど露出が高い。加えて彼女の胸はGカップというグレートなものだ。
それが視界の中で揺れたらどうなる?
そう聞くまでもない。健全な男性ならば、つい見てしまうのは自然の摂理というものだ。
しかし……
何故あれだけ揺れているのにポロリしない!
どう考えてもブラジャーなんてものは付けてないんだぞ。
ボインボイ~ンって効果音が出てもおかしくないほど揺れてるんだぞ。普通はオパーイが飛び出てヒャッフー! な展開になるはずだろうが。
それなのに絶対にポロリしないなんて……
くそっ、ゲームの仕様なのだから仕方ない。そう思うが……それならあんなに揺れない仕様にしてくれ。現実と同じ揺れ方にしないでくれ。どこまで男心を弄んだら気が済むんだ!
「……シュウ、かなりムッツリ」
「おいマイさん、急に何を言い出すんだ? 誤解を招きそうなことを言わないでくれ。俺が変態みたいじゃないか」
「シャルのおっぱい見てた。凄い凝視してた。そのあと盛大に崩れ落ちて、何か悔しがってた。そして、未だに四つん這いのまま……はたから見たらシュウは十分に変態」
ですよねー。
でもさ、こればかりは仕方がないと思うんだ。
だってGカップの上側が露出してて、ブラとかで制止を掛けられてもないんだよ。それが激しく揺れてるのにポロリしないんだよ?
そんな光景見てたら男なら「何故だぁぁぁぁッ!?」ってなるでしょ普通。
シャルは俺にとって幼馴染みたいなものだけど、俺よりガチな二次元好きで過激な同人誌も見ちゃう娘だけど、それ故にあんまり異性として扱ってなかったりする時もあるけど。
でもちゃんと女としては見てます。
それに俺だって男子高校生だからね。ムスコが高ぶることもあれば、それを鎮める時だってあります。人並みに性欲はあるんですから。
だからシャルさんのグレートな胸が揺れてたら見ちゃうし色々思いますって。
「なあマイさん、世の中の男子高校生は基本的に変態だと思うよ。女の子に興味あるわけだし。だから二次元にしか欲情できないという男の方が健全じゃない。そう考えると変態はむしろ健全なわけで……とりあえず人前で変態とか言うのやめてもらっていい?」
「何かよく分からないけど……確かに二次元しか愛せないのは良くない。三次元のシャルに劣情を抱くのを放置するのもシャルの友達として見過ごせないけど、とりあえずシュウのことを変態って呼ぶのはやめる」
あざす!
ほんまマイさんはええ人や。そんな人柄に惚れてまう……おぉ、今のは一段と揺れたな。
ゲーム内は痛覚がほぼなくなっている。だから衝撃は感じても痛みを覚えるということはない。
しかし、シャルさんは基本的に自宅や俺の家では薄着。ブラも付けていないことがある。つまり現実でもあんな風に胸が揺れることがあるわけだ。シャルさん、そういうとき痛かったりしないのかな……
「シュウ、だから見過ぎ」
「違う。これは俺のせいじゃない。男のパッシブスキルのせいなんだ。シャルのパッシブスキルが悪いんだ。大体そういうマイさんもチラチラ見てるじゃん」
「それは……あんな揺れてたら誰だって見る。でもシュウは見ちゃダメ」
「何故に?」
それはいくら何でも横暴じゃないですか。シャルさんの胸はマイさんのものじゃないでしょ。俺が見たっていいじゃない。
「シュウとシャルの家は近い。もしもシュウが欲情したらシャルを襲いに行ける。そんな未来は友達として未然に防がないといけない」
「そんな未来はあなたが頑張らなくても来ないと思います」
だって僕はシャルさんのお胸にタッチ済み。鷲掴みしちゃったんです。
だけどそのあとどうなりましたか?
お互い何事もなかったように会話してたでしょ。だからシャルさんに発情しても襲いに行ったりしません。
襲う度胸がないだけ?
いやいや、僕はやるときはやる男ですよ。
でもね僕には好きな人が居るの。ズタボロにフラれたのならシャルさんに慰めてもらおうとして発展するかもしれないけど、現状じゃ慰めてもらおうとか考えてませんから。
「シュウは意外と獣。性欲の塊。信用性に欠ける」
「ねぇマイさん、今日は少し辛辣過ぎない? 俺、君に何かしたことないと思うんだけど」
「それは……シャルのばかり見て、わたしの見ないから。お、おっぱいはここにもある。そんなにおっぱいが見たいなら……こっちのを見れば良い」
コフッ……
なあみんな聞いてくれよ。
マイさんが、マイさんがね……少し顔を赤くしながらそっぽ向いて、そんでシャツの胸元を少し開いて俺に見せてきたの。シャルより小さいけど確かな膨らみと谷間が見えました。
これって俺はマイさんに誘われてるのかな?
それとも単純にシャルを俺の毒牙から守るために頑張ってるだけ?
マイさん無表情な割に素直だけど、その素直さ故に分からないから非常に困るんだけど。ねぇみんな、俺はどうするのが正解だと思う?
いやいや、落ち着け。
俺には好きな人が居るんだ。マイさんの意図が何であれ、押し倒したりするのはNG。でも何もしないのもそれはそれで「わたし……魅力ないの?」と言われる恐れがある。そうなれば確実にマイさんの機嫌は悪くなっているだろう。
やるのもダメ、やらないのもダメって……
俺はどうすればいい?
どうすれば平穏に終わることが出来るんだ。男心が複雑なように女心も複雑すぎるぜ……
「シュウ、何やら倒れ込んでますがどうかしたんデスカ? もしかして……突然Mに目覚めてしまい、誰かに踏んで欲しいと考えているんデスカ?」
「んなわけあるか。というか、何でお前はそんなに嬉しそうな顔なんだよ。お前に踏まれるくらいなら俺がお前を踏むわ」
「シュウ……そんなこと言われると興奮しちゃいマース♪ まあ冷たい返しが欲しくて言ってみたんですけどネ」
シャルのパパさん、ママさん……ごめんなさい。
俺があなたの娘に二次元なんてものを紹介してしまったせいで、あなた方の娘はMとして目覚めていたようです。
……あれ?
こいつがMってことは、こいつが凌辱ものとか好んでるのって自分がそういう目に遭いたいとか思ってるってこと?
それは不味い、不味すぎるよ。
性癖に関してとやかく言いたくはないけど、せめてそういうプレイをする相手は選んで欲しい。誰とでもヤるとかなったら親御さん悲しむから。子供が出来た時に相手が分かんなくなるから。
「シュウがワタシに意味深な目を……はっ!? もしかしてパンツ見せて欲しいんデスカ!」
「そんなこと言ってません。あと何で笑顔なの? 笑顔で言うことじゃないよ」
「確かにその装備、胸元は大胆ですけど下半身の防御は高いですからネ。個人的にはスレッドとか入ってたら良かったんデスガ。シュウもそう思いませんか?」
「お願いだから人の話を聞いて」
スレッドがあった方が良いかと聞かれたらあった方が良いけど。おみ足を拝みたくもなるけど。
でもね、その前に胸元の防御もある意味高いから。
下半身の防御を下げる前に出来ればそっちの防御をどうにかしてくれない? 見てて凄く悶々とするから。
どうにかできないならいっそのこと隠してください。普通の着物を着てください。
「そういえば、シュウはアント狩りに来たんじゃなかったんデスカ? 休んでばかりじゃスキルは成長しませんよ」
「シャルさんが楽しそうに採掘してる間にこのへんのアントは狩りました。攻撃力高いけど防御が低いおかげですぐに暇になりました。だからあなたを待ってたんです」
「オ~さすがはシュウ。でも無茶したらダメデスヨ。危ない時はワタシに言ってください。シュウの代わりにそのモンスターをこの刀で斬り捨ててあげマス!」
わざわざ腰から外して見せつけなくていいから。
あなたが勢い良くそういうことやるとさ、あなたのお胸が揺れるじゃないですか。だから刀よりそっちに目が行っちゃうの。
シャルさんはもう少し自分の武器のこと理解するべきだと思うな。
わざとやってるのだとすれば……うん、それはもうビッチだね。今後思わずビッチと呼んじゃう日が来ちゃうかもしれないね。
「おやおや~、もしかしてシュウさんは刀を使ってみたいんデスカ? マイさんからシャルさんに浮気デスカ~?」
この金髪メガネ、すげぇ腹立つ顔してんな。
「確かに刀には惹かれるが……マイさん、急に袖引っ張ってきてどうしたの?」
「浮気、ダメ」
「双剣から変えるつもりはないので安心してください」
というか、何で双剣=マイさん、刀=シャルみたいな構図になってるの?
その言葉は別にふたりの代名詞ってわけじゃないよね。そもそも俺とマイさんって師弟関係または友人関係ではあるけど、決して恋人とかではないよね。なのに浮気とか使う言葉間違ってない?
「しかし……何故にシャルは刀なの? そこは片手棍とか両手槌では?」
「シュウ、ワタシも確かにあの作品のファンではありマス。しかし、あの作品の鍛冶師になりたいと思うほどの熱量はありません。それに鍛冶師=ハンマーというのも安直デス。巨大なハンマーはロリ系女子が持ってこそ栄えるのデス!」
その発想も安直じゃないかな。確かに栄えるけど。
「何よりワタシは、ワタシだけの刀を作ろうと思って鍛冶を始めたのデス。やっぱり日本人は刀! 刀こそ至高デス!」
そうだね、刀ってやっぱり惹かれるよね。
バトルのある漫画やラノベには、誰かしらひとりは出てくるほど人気あるよね。でもさ、これだけは言わせて欲しいんだ。
「お前、日本人じゃねぇじゃん」
「確かにワタシはイギリス生まれデスガ、過ごした年数は日本の方が長いデス。それに生涯日本で暮らすと決めてマス。将来の旦那様ももちろん日本人デス。だからワタシは日本人と言って問題ないと思いマス!」
だから気合を入れてポーズを決めるな!
気合を入れれば入れるほど、あなたのお胸がグレートな動きをするでしょ。思春期男子には目の毒なんだから自重して。その毒を抜くために儀式が必要になるでしょ。
なんて考えてたらシャルさんがこっちに近づいてきたんですけど。顔を近づけてきたんですけど。まさか今のノリでほっぺにキス? 日本人と言いながら海外のノリですか?
「言い忘れてましたけど、今度ワタシの買い物に付き合ってくださいネ」
「……何故に?」
「今朝のことマイさんに言っちゃってもいいんデスカ?」
それはダメですね。
そんなことされたらマイさんがムスッと顔になっちゃうじゃないですか。下手したら双剣を抜き放って俺をザシュザシュしちゃうかもしれないじゃないですか。
つまり……俺の返す答えは決まってます。それが分かってるからシャルさんもイイ笑顔してますよ。このメガネ、本当イイ性格してるよね。
「――ぐふッ!?」
これは何に対する反応かって? みんなは何だと思う?
それはね……横腹を手刀で突かれて俺の口から漏れた音です。
アーツでもなければ、スキル補正もないただの手刀。なのでダメージは微々たるものです。だけどこのゲーム、何度か言ったけど痛みはなくても衝撃はあるからね。突然横腹を突かれたらこんな反応しちゃいますよ。
「……マ、マイさん……突然何するの?」
「休憩は終わり。次の狩場に移る」
「了解……でも口で言えばいいのでは?」
「ん……」
「何でもないです。だから機嫌直してください」
いやはや、うちの師匠って怖いね。
ヤキモチでも妬いたのかな、と考えると可愛らしくもあるんだけど……それならそれで何故俺だけ手刀で突かれないといけないんだろう。俺からシャルに近づいたわけでもないのに。せめてシャルにも手刀をすべきじゃないのかな。
でも……シャルさんMっぽいしな。
マイさんの手刀で「女の子から痛めつけられるの良い!」とかなったら嫌だから言わないでおこう。世の中、安全第一。触らぬ神に祟りなし、だ。
というわけで、気を取り直して今日もスキル上げに励みましょう……今日の終わりにあるマイさんとの戦いについては今は考えない。だって憂鬱になるだけだし。
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