第7話 「きっとお兄さんを待ってる」

 ……終わった。

 正確には、終わりが始まった。これから始まってしまう。

 その理由は皆さんもご存知だよね。客観的に見られる分、俺みたいに現実逃避する必要ないもんね。

 はい、そうです。

 これからアカネ氏とデートってところに幼馴染の金髪さんが突撃してきました。右手に複数の衣装と、左手に真友を持って。


「シュシュシュ、シュシュシュ、シュシュシュのシュ~ウ!」


 酔ってんのかなこいつ。

 今日は外部の人間だってたくさん来てるのにさ。人目も気にせず大声を出して。文化祭だからって全部が許されるわけじゃないんだよ。まあ学校の評判がどうのとか考えたりはしないけど。

 でも……だからってこいつのお仲間だって思われるのは心外だ。それだけは嫌だ。断固として!


「……おっぱい超揺れた」


 アカネ氏、感嘆の声で何言ってんの。

 確かに金髪のそこは揺れてたけど。アニメと錯覚するくらい揺れてましたけど。

 でもだからって口に出す必要はないんじゃないかな。

 こういうのは心の中だけで楽しんで噛み締めれば良いと思います。


「あのさシャルさん、いい加減この手を放してくれないかな!」

「黙っしゃい! ワタシは今シュウと話そうとしているんデス。部外者は黙っててください!」

「部外者なら私は必要ないじゃん!」


 ごもっとも。


「今に関しては部外者ってだけデス! これから話す内容の関係者ではあるんデス。なので少し黙っててください。話が進まないので」

「何で私が悪いみたいになってんの!?」


 ごめんカザミン。

 うちの幼馴染が迷惑掛けて本当にごめん。

 でも多分俺は君を助けない。今日は助けない。だって……面倒事はひとつで十分だから。隣に居る小さな暴君だけで間に合ってます。


「シュウ、ここで会ったが……えっと今年で」

「そのノリで来るなら百年目でいいから」


 何で真面目に答えようとしてんの。

 話が進まないって自分で言ったばかりでしょ。早く本題に入りなさい。


「では、ここで会ったが百年目! シュウには後半戦のために相談したいことがあるんデス。悠里さんの次の衣装、この中のどれが良いと思いマス?」


 目の前に出されたのは以下のとおり。

 まず世界最強の吸血鬼とされる男子高校生をストーカー並みに監視している女子中生の制服。きっとシャルのことだから武装の方まで準備しているだろう。

 原作のキャラの髪色あたりを考えると、カザミンに合わないということはない。だが一部分において原作の彼女とカザミンは戦闘力が違い過ぎる。

 そもそも、カザミンは女子高校生だ。女子中学生の制服を着るとか、ちょっと犯罪チックな気もするよね。それによる羞恥でカザミンの可愛さが引き立つと言えば引き立つんだけど。もちろん、カザミンのFカップもね。


 次に現在シャルが纏っている魔砲少女の親友、そのライバルみたいな位置づけで登場し、のちに良き関係を築くおっぱい魔人とも呼ばれる魔法騎士の戦闘服。

 原作と比較するとカザミンの髪の長さが足りないが、胸の大きさ的には良い。実に良い。ぶっちゃけ髪なんてウィッグでどうにでもなるし。

 胸もだって詰め物でどうにかなる? おバカ! 偽物よりは本物の方が良いだろうが。俺は本物が欲しい!

 でも……これを着たカザミンがシャルと一緒に立ってると、原作よりも何かエチエチな感じがするなぁ。シャルが原作より胸が大きいのが理由かもしれないけど。でもエロさで言ったらカザミンも負けないだろうし。まったく、このおっぱい魔人達は困るぜ。


 最後はブラッキー先生の妹さんである剣道少女、その彼女のゲーム内アバターが纏っている衣装。

 これまでのものと比べると胸元が結構開いている。胸が大きいことを気にしているカザミンにとっては、ある意味最もハードルが高いものかもしれない。

 シャルとしては「使えるものは使え、その大きな胸は何のためにある」といった感じだろう。が、友達が嫌がるようなことはするなと言いたくもなる。同時に良い仕事したな、とも言いたくなってしまうが。だって俺、男だし。大きなお胸が大好きだし。


 さて、これは難題だ。

 どの衣装もカザミンの魅力を違った意味で発揮する。俺としては全部見たい。脳内変換はすでに行ったが、やはり生で見たい。

 だがそんなことを提案すれば、カザミンは羞恥に染まった顔で俺を罵倒してくるだろう。あいにく俺には、女の子に罵倒されても興奮する性癖はない。まあ恥ずかしがっているカザミンを見たいと思う気持ちはあるがな。

 しかし、現状で最も優先すべきことは真友の可愛い姿を見ることではなく、なるだけ早く会話を終わらせてこの場から去ること。

 故に必然的に会話が弾みそうな欲求まみれの発言は控えるべき。

 というか、俺は雨宮さんと同じクラスなんだからこの手の相談はしないで欲しいよね。俺のせいで集客率上がったとかなったら雨宮さんに何をされるか分からないし。こうして話してるところを見られただけでも後が怖いんだから。

 なんて余計なことを考えているべきではない。今は仮のことより目先のことだ。俺が選ぶカザミンの衣装は……


「時にシュウ」

「何だ? 俺は今カザミンの衣装選びで忙しいんだが」


 カザミンが凄く剣幕でこっちを見ております。

 私としては全部嫌なんだけど。このフリフリだって我慢して着てるのに。というか、何で君はそんなに真剣に選ぼうとしてるんだ。君は私の真友だろ、私の味方じゃないのか?

 とでも言いたげな感じです。これは俺の勘による解釈だけど、多分そんなに外れてはいないと思います。

 でもやめない! 俺はカザミンの衣装を選ぶ!

 だってカザミンの味方した方が長引きそうだから。後々のことを考えると、シャルよりカザミンの方が機嫌直してくれるの早そうだから。

 だからカザミン、今回は諦めてくれ。


「そちらのプリティでキュートなお嬢さんはどちら様デスカ?」


 あ、やっぱり聞いちゃいます?

 いや聞いちゃいますよね。俺だって立場が逆だったら聞いちゃいますもん。

 いいでしょう。

 そこまで知りたいなら教えてあげます。


『この子はアキラさんの妹であるアカネさんです!」


 ……なんて言えたら楽なんだけどな。

 シャルは雨宮さんほどアキラに敵意は持っていないはずだし、そこだけ見ればアカネ氏を普通に紹介しても問題はない。

 だがしかぁぁぁぁぁしッ!

 シャルに俺がアカネ氏、アキラの実妹と親しくしていると知られるでしょ。

 それを雨宮さんに報告されるとするでしょ。

 アキラに良い印象を持たない雨宮さんは何をするか分からないよねー。

 報告されないにしてもシャルさんに新しい脅迫材料をあげることになる。

 つまり、アカネ氏がアキラの妹だと知られることは俺にとって一切のプラスがない。出来れば知り合い程度の認識で納めたいところ。


『ねぇカザミン、どうしたらいいかな?』

『私に聞かないでくれないかな。自分で蒔いた種なんだし、自分ひとりの力で解決して』


 アイコンタクトで会話が成立するなんて俺達ほんと真友に近づいてるね。

 まあカザミンの部分は俺がそう思っただけで、客観的な信憑性はないけど。カザミンの呆れた顔と視線から判断しただけだし。

 でもシャルほどアカネ氏のことを気にしてないってことは、カザミンはアカネ氏が誰だか知ってるってことだよね。

 アカネ氏の姉は風見書店の常連。ならアカネ氏が風見書店を利用していてもおかしくない。カザミンが知っているのもある意味通りだよね。

 さて、真面目にどうしよっかな。

 考えてばかりだと何も好転しない。それどころか、相手が相手なだけに勝手に追い詰められていくだけ。

 何で俺はこんなにも追い込められているんだろう。文化祭の自由時間っていう楽しい時間のはずなのに。


「お姉さん、そんなこと言われると照れちゃうよぉ~。でもありがと。お姉さんもビューティフルかつセクシーだね。その衣装とても似合ってる」


 わ~お、何て適度なあざとさと優等生的笑顔なんでしょう。普通の人なら好印象を持つこと間違いなしだね。

 でも何でここで入ってきちゃうのかな。

 なんて考えなくても分かります。みんなも分かるよね?

 だってアカネちゃんは、優等生だけど悪女だもの。優秀な脳みそを自分の私利私欲を満たすために使おうとする。人に嫌われない程度の適度な範囲でだけど。

 だから今も


『絶対ここで積極的に介入した方が面白くなりそう。主にわたしが』


 みたいなこと考えていると思います。

 だけどさせない! 俺の身の安全のためにも全力で無難な展開に持って行ってみせる。俺の命のためにも。


「えへへ、そうデスカ。何だか照れちゃいマスネ。まあ悪い気分はしませんが。何ならシュウも流れで日頃秘めてる本心を言ってくれていいデスヨ。ワタシのこと褒めてくれていいんデスヨ!」

「近い、うるさい、顔が近い。褒められたいなら褒められるようなことをまずはしろ」


 大体さ、お前自分の方針変えてない?

 前は俺に貶せって言ってたよね?

 メガネを取ると性癖が変わるの?

 メガネは人格を変えるスイッチか何かなの?

 長年幼馴染やってるけど、年々分からないことが増えていってる気分だよ。もう鴻上さんはシャルさんクライシスだよ!


「外見の手入れは欠かしてません!」

「キラ☆ みたいなポーズは要らん。あと堂々と嘘を吐くな。酷い時は髪だってベトベトだし、目の下の隈だってやばいだろ」

「シュウの人でなし! こんな人前で平然と事実を述べるとか悪魔デスカ。乙女の見栄を木っ端みじんに破壊するとか大魔王デスカ!」

「お前こそ貴重な自由時間を奪うかのように無駄話をするな。話を進める気がないならここで会話を打ち切るぞ」


 進めるつもりがあっても打ち切りたい。切実に。


「で、その子はいったい誰なんデスカ?」


 ほんとこの子現金だよね。

 こういう時だけ反応に無駄が一切ないし。


「この子はだな……」

「はっ!? ま、まさかシュウの隠し子!?」


 言うにしてもそこは俺じゃなくて俺の親のでしょ。

 だって俺、現役高校生ですよ。幼児ならいざ知らず、中学生くらいの子供が居るわけないじゃん。居たらいつ作ったんだよって話だし。 


「シャルさん、真面目に聞きなさい」

「すんまそん」


 てへぺろ♪ は要らん。

 俺のことおちょくってんのか? おちょくってんだろ?

 幼馴染だからなんだかんだ許してくれるって思ってんだろ。

 寛大な鴻上さんだって怒る時には怒るからな。ほっぺをつねるくらいはやるんだからな。これ以上やるつもりなら覚悟しとけよ。


「いいかよく聞け、この子は……来年うちの学校に入ってくるかもしれない中学生だ」

「お兄さんお兄さん」


 袖をクイクイしないで。

 そんなことしなくても呼ばれれば分かるから。あざと可愛いって思っちゃうから。男なんて単純な生き物なのです。

 でもこのタイミングで話しかけてくるなんて何を考えているんだろうね。

 まさか俺の望まない方向に持っていくつもりなのかな?

 俺の心を薙ぎ払う爆弾を投下するつもりなのかな?

 お願いだからそれだけはやめてぇぇぇぇえぇッ!


「何かな? お兄さんの紹介は間違ってないと思うんだけど」

「確かに大体は合ってるよぉ。でもひとつだけ間違ってる。わたしはここに入ってくるかもしれないじゃなくて入るんだよ」


 決定事項ですかそうですか。

 いやはや、その自信はどこから来るんだろうね。

 学力的に問題がないにしても受験日に体調崩したり、事故に遭ったり、悪天候で交通に影響が出たりする可能性はあるのに。

 この子には未来が見えているのだろうか……いや考えるのはやめておこう。

 だってアカネ氏の場合、もしかするともしかするかもしれない。そう思わせられる何かが彼女にはある気がする。触らぬ神に祟りなし。


「……だそうだ」

「なるほど、つまりその子はワタシ達の後輩ちゃんというわけデスネ。いや~これはテンション上がりきましたよ。来年はきっと彼女を巡る戦いが勃発します。そうなれば生々しい感情をこの目に、それがワタシの創作意欲に、でもそれ以上にこの子にあんな服やこんな服、そんな服を着せて……デュフ、デュフフフ」


 ……キモ。

 メガネを外して美人度を上げたのに、いや上げてしまっただけに一際残念さが際立っている。

 アカネ氏の向ける若干引いた冷たい視線が良い証拠だろう。きっとアカネ氏の心の中でシャルは残念美人認定されたに違いない。

 やれやれ、こういうところだけでも改善されればもう少し男が寄ってくるだろうに。自分の欲求に素直過ぎるのも困ったものだ。

 だがこれはチャンスでもある。

 シャルは今自分の世界の中。俺の自由時間は限られているし、ここに居ては雨宮との遭遇率も高い。カザミンならきっと見逃してくれるだろうし、この場を離れるなら今がチャンス!


「しかし まわりこまれてしまった!」


 いや、それ俺視点の文章じゃん。

 回り込む側が言っていい言葉じゃないと思う。というか、何で某国民的RPGで逃げ道塞ぐの? お前は人間じゃなくてモンスターなの?

 まあ考え方によってはモンスターか。今のご時世、モンスターなんたらって言葉も存在するわけだし。


「ねぇシャルさん、俺の自由時間を無作為に奪おうとするのやめてくれない?」

「人聞きの悪いことを言わないでください。ワタシはまだシュウが肝心な話をしていないから回り込んだだけデス」

「肝心な話?」

「ひとつはそこのガールとの関係。もうひとつは……悠里さんの次の衣装ッ!」


 その言い回しだとアカネ氏よりもカザミンの衣装の方が大切なように思えるんですが。

 ま、別にそれでいいんですけどね。その方がありがたいんですけどね!


「まずこの子との関係だが」

「将来を誓い合った仲でーす!」


 思いのほか入ってこないなって思ってたらこのための布石だったのか!?


「な……なななななんですとぉッ!?」


 シャル、俺の心を体現するかのように驚愕。

 しかし、ノリとテンション的にふざけているようにも見える。故にスルー。

 カザミン、さらに呆れる。ただどことなく冷めた目をしているように見えるのはの気のせいだろうか。「姉の次は妹……年下……見境ない」みたいに感じ取れるのは俺の気のせいなのかな!


「シュウ、どういうことデスカ! 説明を要求しマス!」

「どうもこうも俺もこの子に説明を要求したいんだけど。ねぇ、いつから俺達そんな仲になったの? お兄さん、そんなイベント認識してないんだけど」

「それはしょうがないよ。だってわたしの未来予想図の中でそうなってるだけだし」


 それは誰も認識できるはずないね。

 まあでもあっさりと冗談だよみたいな展開になったからシャルもすぐに落ち着くでしょう。


「そ、そんな……ワタシの描いた未来はすでに覆されていたというのか」


 この人、話を聞いてたのかな。

 聞いてないよね絶対聞いてないよね。聞いてたら崩れ落ちたりしないだろうし。


「おいシャル、お前の描いた未来は知らないがショックを受けるような出来事は何もないんだぞ」

「そうそう、わたしのしてることなんてお兄さんのためにご飯作ってあげたり、お兄さんのベッドの上でゴロゴロしてるくらいだもん」

「ぐはっ!? な、何て圧倒的な通い妻感……それに彼女感まで溢れている。シュウのママさんからこんな情報を聞いてないぞ。く……シュウママはワタシだけの味方ではなかったのか!」


 人目があるんだから廊下をドンドンするのはやめなさい。

 というか、俺のママが君だけの味方のはずないでしょ。君だけの味方なら俺は多分すでに君と幼馴染以上の関係になっていると思います。


「くそ、くそぅ! これがNTRか……精神的ダメージがハンパない」

「俺としてはお前という幼馴染を持ってることが精神的ダメージだよ。それと俺とお前は付き合ってないでしょ。誰に何を取られたって言うの?」

「何言ってんデスカ! そこのガールに色々と取られてマスヨ!」

「何を?」

「料理が得意って部分とか、シュウとの身近な距離感とか、メガネキャラとか! メガネキャラとか!」


 何で最後2回言ったし。


「そのへんを取られたら……いったいワタシには何が残るって言うんデスカ。何が残ってるって言うんデスカぁぁぁあぁぁッ!」


 こいつは……面倒臭いスイッチが入っちゃったぞ。

 スルーしたいけど、スルーしても面倒臭くなりそうだし。スルーしなくても面倒臭そう。クラスの誰かが来て連行してくれないかなぁ。


「お姉さん、大丈夫だよ」

「キュートガール……」

「お姉さんにはそのマスターグレードなおっぱいがあるじゃん」


 この中学生、笑顔で何言ってんだろ……。


「……ワタシから色々奪った本人から慰められるとか何か屈辱!」


 だからドンドンしない。廊下を叩いたって叩いた手が痛いだけだよ。


「というか、おっぱいはワタシだけのものじゃないデス。マスターグレードなおっぱいは悠里さんだって持ってマス。規格的にはワタシよりワンランク下ですけど、マスターグレード認定されるおっぱいは持ってるんデス!」

「おっぱいおっぱい言いながら私を巻き込むのやめてくれないかな!」

「悠里さん、あなたは友達が傷ついているのに自分の方が大切だって言うんデスカ!」

「その友達から私は傷つけられてるんだけど! その言葉、そっくりそのまま返すよ!」


 ここで言ったら拗れそうだから心の内に留めておくけど、このふたりのやりとりってラブコメで考えればイチャイチャだよね。


「そんな言葉より慰めの言葉をください。ワタシの存在意義をください!」

「重いよ、今までの話ってメガネだとかおっぱいとかだったよね。なのにそこまでのものを求められるのは重すぎるよ!?」

「それだけのものをワタシは奪われたんデス! そこのキュートガールと悠里さんに」

「だから何で私をしれっと入れるかな! 私は鴻上くんに特別何かしたわけじゃないし、奪われたって思うのもシャルさんの勝手だけど。でもそれってシャルさんの頑張りが足りてない言い訳を他人のせいにしてるだけなんじゃないの!」

「ぐぼらッ……!?」


 カザミンの会心の一撃。

 シャルさんは生まれたての小鹿みたいにプルプルしている。


「ワ……ワタシだって色々と頑張ってるんデス。でも方向性の違いから努力が実らないっていうか、自分でも自分がよく分からなくなる時があるっていうか。誰だって自分だけのアイデンティティ持っていたいじゃないデスカ。自分の武器だって言えるものを自覚してたいじゃないデスカッ!」


 元々内気な奴だったし、それを知っている俺からすれば気持ちは分からんでもない。

 が、お前はすでに色々持ってると思う。

 俺やカザミンよりよっぽど多くの属性や武器を持っていると思う。

 すでに昔のお前じゃないんだからもう少し自分に自信を持ってもいいだろうに。


「いやいや、シャルさんは色々と持ってるでしょ」

「色々って何デスカ? 例えば何デスカ? おっぱいだとか言ったら悠里さんのおっぱいを揉みしだきますよ」

「シャルさんは私がそんなことを言うキャラだって思ってるの? あと鴻上くん、その目を今すぐやめろ。そんな展開を期待するのは真友として失格だ」


 え、そんな目をしてました?

 自分では自覚はないんですが。もしもそんな展開になったらシャルさんが羨ましいなって思ったりはしましたが。

 でも本当にカザミンの胸が揉まれる展開を望んだわけではないんです。巨乳が巨乳を揉みしだくっていう目の保養になりそうな百合百合しく生々しい展開を期待したわけではないんです!

 あ、すみません。

 これ以上あれこれ考えるのはやめるので僕を睨むのはやめてください。どうぞ話を進めちゃってください。


「いいかシャルさん、シャルには家庭的な面やその豊満なおっぱいを除いても色んな属性がある。例えば……例えば……」

「……悠里さん、流れでちょっと同情しちゃったから適当なこと口にしてたんじゃないでしょうね」

「い、いやそんなことはない。そんなことはないんだからね!?」


 むっちゃ動揺しとるんやん。


「その、シャルさんにはえっと……ほら! 金髪って強みがあるじゃない!」

「そんなものが強みになりマスカ! 今のご時世、髪なんて染めれば誰だって金色になるんデスゥ、瞳の色だってカラコンで自由自在なんデスゥ! 金髪とかメガネよりもキャラとして弱いんデスヨ!」


 いやいやいやッ!?

 確かに髪や瞳の色はキャラとしてそこまで強くはないかもだけど。でもそれはメガネだって一緒じゃないかな。

 今のご時世、目が悪い人は多いわけだし。校則が厳しいところはたくさんあるわけで、メガネの方がキャラとしては弱いのでは?

 多分この場に居た者はきっとこんなことを考えたに違いない。


「あぁもう、何かムシャクシャしてきました! こうなったら悠里さんの衣装をワンランク上げてあられもない姿を写真に収めてやりマス!」

「何でさぁ!?」

「そんなどこぞの正義の味方みたいな反応をしても無駄デスヨ。今のワタシは悪い子ですから……さあ~性処女よ、お着替えの時間ですぞ~」

「キャラブレもひどいし、何か一部ニュアンスが違う!? 今でさえ精神的にきついのに、そこにある衣装くらいまでなら我慢しようと思ってたけど、さらにワンランク上がるとか絶対無理ぃぃぃぃぃぃぃぃいぃぃぃぃぃぃッ!」


 カザミン、風になる。

 でも仕方ないよね。カザミンはカザミンなりに自分の羞恥心と戦っていたわけだし。今の言葉を聞く限り、そこにある衣装に関してはどれを選ばれても着るつもりで居たみたいだから。


「シュウ、何ぼさっとしてるんデスカ! さっさと追いかけないと!」

「え……何故に?」

「何故ってシュウは悠里さんの真友なんでしょう。真の友と書いて真友なんでしょう。だったら真友のピンチには駆けつけないとダメでしょうが!」


 うん、まあそうかもしれないんだけど。

 でも悠里さんを傷つけたのは君だよね? あそこまで我が真友を追い詰めたのはあなたですよね?

 なのに何で俺が追いかけるの?

 そこは自分で追いかけなさいよ。そんで謝りなさいよ。面倒事をこっちに丸投げするんじゃありません。

 アカネ氏もそう思わない?


「お兄さん、何やってるの。早く追いかけないと。風見さん、きっとお兄さんを待ってる」


 えぇーうそ~ん。

 アカネ氏までそっち側なの? 何で?


「いや~風見さんとはお店でちょくちょく顔を合わせるし、こうなってしまった原因がわたしにも多少なりともありそうな気がしないでもないから。ここはお兄さんに頑張ってもらおうかなって」

「なるほど。何で俺の心の声に対する解答がって思いもするけど、アカネ氏の考えは理解した」

「ならさっさと追いかける! あ、わたしとのデートの埋め合わせは今度でいいから」


 埋め合わせはせなあかんの!?

 何で? って聞くまでもないね。アカネ氏は暴君だもんね。自分第一主義だもんね。疑問を抱く方がおかしかったね!

 皆さん、今日という日は本当に長くなりそうです。

 そんで多分俺の自由時間は特に何も出来ずに終わりそうです。

 くそっ、何でこうなるんだ……待ってろよカザミン、今行くぞ! そっちからすれば余計なお世話かもしれないけど、俺の身の安全のために一度は顔を合わせてもらうぜ!



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