第8話 「それが出来ないから困ってるんだよ!」
シュロスは走った。
あの邪知暴虐な暴君とメガネから逃げるために。
なんて考えたことがバレたら大変なので、カザミンティウスを探すためにと訂正させていただきます……カザミンティウスって長いな。真友という関係を意識して使ってみたけど、やっぱり長い。もう面倒だからカザミンに戻そう。
え、もうちょっと続けろ? 雰囲気を大切に?
何を言ってるんですか。
こっちは人混みを避けながら走ってるんですよ。余計な思考は省きたいんです。ただでさえ、今こうして走っていることにも思うところがあるし。
だって……カザミン傷つけたの俺じゃなくてあのふたりじゃん!
俺がカザミンを傷つけてしまったのならあれこれ考えずに追いかけますよ。
だって俺が悪いし、気まずいままで居るの嫌だもん。気軽に本を買いに行けなくなるし、目とか心の安らぎが減っちゃうから。
でも今回はさ、リトルな暴君と性悪な金髪メガネ(メガネなしVer)のせいじゃないですか。
カザミンが性格的に怯えたりして話せない子ならまだ分かるよ。
だけどカザミンって若干患ってるというか拗らせてるところはあるけど、基本的に常識人で良い子じゃん。話しかければなんだかんだ反応してくれるはずじゃん。
だから鴻上さんとしては、あのふたりが追いかけて謝るべきだと思うんだよね。
だったらその主張をあのふたり相手に貫けばいい?
はっはっはっ、そんな正論は聞いていないのだよ。
というか、君はあのふたり相手にそんなことが出来るのかね?
少なくとも僕には無理だ。だって……あとで何されるか分からないもん!
ただ誤解がないように言っておくよ。これだけがカザミンを追いかけてる理由じゃないからね。
俺の知り合いが迷惑を掛けちゃったわけだし、俺としてはあの子達だって本気でカザミンを傷つけるつもりじゃなかったと思うの。ただおふざけが過ぎただけというか……あの子達が本気なら精神崩壊だって可能な気がするし。
何より俺はカザミンの真友ですから!
真友が傷ついた時は傍に居て、その肩を支えてあげるのが仕事じゃないですか。単純にあの状態のカザミンが何するか心配でもあるし。
いや~マジで俺って真友の鏡だよね……
「さて……」
ここからは真面目にカザミンを探すとしましょう。
あ、誤解しないでね。これまでも真面目でしたよ。ただ教室の周辺にはいなかったから方向性を変えようって意味で言っただけですから。本当だからね!
というわけで、まずはカザミンの生態について考えてみましょう。
カザミンは本屋の娘である。これは特に関係ないだろう。
カザミンは腐りッ気のあるオタクである。
だが言動は常識的で人並みの羞恥心を持つ高校生。時折面倒臭いこともあるが、基本的に良い子なのは間違いない。
このことから考えるに学校からの逃亡はないはず。たとえまたシャル達にからかわれるにしてもカザミンは文化祭で任せられている仕事を全うするはずだ。
加えて、つい今しがたカザミンは常識人みたいなことを言った。が、彼女は現在進行形で軽度の中二病を患っている。
でなければカザミンが俺の告白現場に居合わせることもなく、今の関係も存在しなかった。
まあそれは置いておくとして。
逃亡したカザミンの服装は制服ではなく、コスプレのままだった。性格からして少しでも人の目がない場所に向かおうとするはず……。
「ふ……」
キュピーン!
見える……私にも真友が見えるぞ。
我が真友が今居る場所。それは間違いなく屋上だ!
結論を出した俺は走った。彗星になった気持ちで普段の3倍の速さで(これは個人的な体感なので厳密には普段の速さしか出ていないと思います)。
うおおおおぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉ待っていろカザミィィィン! 今行くからなあぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁッ!
「……はぁ……はぁ」
疲れた。もう無理。
階段を全力で駆け上がるとかバカじゃないの。
俺って本当にバカだよね。いやまあバカなんだけど。だって
カザミンが座り込んでいたらオパーイが凄いことになってるんじゃね?
転落防止用のフェンスに両腕を組んで黄昏ているならオパーイが凄いことになってるんじゃね?
みたいなことを考えただけで全力疾走出来ちゃうわけだから。
全力で走った理由が不純?
おバカ! 性的な思考は思春期の高校生なら誰しもがするだろうが。大体こんなことでも考えないと、他人の尻ぬぐいのために全力出せるか。大体さ、言葉にしちゃったらアウトだけど頭の中だけで考えるなら自由じゃん!
というわけで、息も整ってきたので屋上のドアを開けたいと思います。
さあ何が出てくるかな~
予想が外れてカザミンがいなかった悲しくなっちゃうなぁ。どこぞのカップルがイチャコラしていても悲しくなっちゃうなぁ……俺も次の恋を見つけたい。
「ふ、はっ、せい、てぇあ、せあぁぁッ! でやあぁぁぁぁッ!」
何が起きたか説明するぜ。
何と屋上に入るとカザミンを見つけたんだ。ここまではおけ。
でもね、目に飛び込んできたカザミンが普通じゃなかったの。まあ聞こえてきた声が声だから分かる人は分かると思うけど。
しかし、ここは俺に言葉にさせてくれ。
カザミンが棒を握ってた!
失礼。
これだけだと誤解というか妄想を爆発させる人が居そうなので訂正します。では気を取り直して……
カザミンが洗濯物でも干しそうな棒を振り回しながら舞ってた!
槍の練習してるんだな。ああやって気分転換してるんだろうな。
そう思うんだけど。理解は出来るんだけど……でもフリフリの付いたゴスロリ衣装でやってたらインパクトがやばくない!?
軽めにやってるならまだいいけど、お前はどこぞのアクション女優だって言わんばかりのクオリティなの。もうカザミンは本屋なんか継がずにそっちの道に進んだ方が成功するんじゃないかな。
だがそれ以上に俺はこう思ったの。俺の心が叫んだことがあるの。それはね
何であんだけ激しく動いてんのにパンツが見えねぇんだぁぁぁぁぁあぁぁぁッ!
くそっ、俺の身長が小さければ見えたかもしれないものを。
今だけは平均よりも身長が高いことが憎い。子供に戻りたいと切実に思う。
いや今の俺でも地面に伏せれば見えるのでは。その状態で近づけば確実にカザミンのパンツを覗けるのでは!
……さすがにそこまではやれないよな。
やったらあの変態に何も言えなくなっちゃうし。同族扱いされるどころか、一生弄られて将来の選択肢を固定化されそうだし。
何よりカザミンから嫌われたくない。
多分だけど雨宮やシャルから嫌いって言われるよりもカザミンに言われる方がへこむと思うから。カザミンがマジで言う時ってもうマジじゃん。どうしようもないレベルの嫌悪じゃん。
こんな仮定のことを考えてても仕方がないし、ここまでにしておこう。
でも最後にこれだけは言わせて欲しい。
超絶揺れるおっぱいありがとうございますッ! 気を抜くと思い出しムラムラしちゃうそうなくらい眼福でした!
「ふぅ…………あ」
「やあカザミン、こんなところで奇遇だね」
何も見てませんよ。
その想いで作り上げた純度100%の爽やか笑顔。声も出来るだけイケボにしてみました。自分なりなのでツッコミはなしでお願いします。
「なななななななななな……!?」
「何でここに俺が居るのかって? そんなの決まってるじゃないか。カザミンのことを探しに来たのさ」
何で心配でって言葉を入れなかったかって?
そんなの決まってるじゃないか。カザミンのことは心配していたけど、やっぱり最大の理由はあのふたりへの恐怖心。ここで心配って言葉を使うと嘘臭くなるじゃないですか。故に僕は心配って言葉を使わなかったのさ。
「いいいいい今のッ!?」
「大丈夫、安心してくれカザミン。僕は決して何も見ていない。仮に何か見ていたとしても誰にも言ったりしないさ。だって僕はカザミンの真友だからね」
カザミンのおっぱいウェーブは俺だけのものだ!
「キモい、キショい、気持ち悪い! 今すぐその爽やかフェイスと臭い演技やめてくれないかな。そんなの君のキャラじゃない!」
えぇ……
確かに俺のキャラじゃないのは間違いないし、自分でやってて似たような感想は抱いてたけど。
でも面と向かってストレートに言われると傷つくんですが。少し前のカザミンを意識してしゃべってみたのに。
もしやカザミンも本当は自分のことをそういう風に思っているのでは?
でもその仮面がないと他人と交流を持てなくて……だけど最近はその仮面がなくても話せる相手が増えてきて。つまりカザミンは日に日に成長している……
「頑張ったな……カザミン」
「何でそんな返しが来るの!? 君、今罵倒されたんだよ。それなのにどうしてそういう返答が出来るのさ。ちょっと言い過ぎたかなって謝ろうとしてた私のこの気持ちはどこに持って行けばいいの!」
それはそのままお持ちになっておけばいいのでは。
さっきは言い過ぎたごめん、って言われたら、こっちとしても何のことを指してるのかは分かるし。
でもそんな揚げ足を取るような真似は致しません。
何故かって? 罵倒してすぐに謝ろうって考えるカザミンに惚れたから。カザミンはマジで良い子。年下だったら思わず頭を撫でたくなっちゃってたね。
「落ち着けよカザミン。別に今の返答に関して説明してもいいが、多分聞いたところでツッコむだけだぞ」
「その言葉がすでにツッコむべき対象だよ! 私を本当に落ち着かせたいならしゃべらないでくれるかな。私をひとりにするべきじゃないかな!」
そう言われてしまってはこちらは何も言えない。
カザミンがひとりになりたいと望むなら俺はこの場から去るとしよう。思ってたよりも落ち込んだりしてなかったし。
よし、ここからは俺も自由時間だ。今日という日を乗り切るために最大限楽しんでやるぜ。というわけで……じゃあなカザミン!
「え、あ、ちょっ、鴻上くんッ!?」
「何でしょう?」
「何でしょうって……何で君はこの場から去ろうとしてるのかな?」
「カザミンがひとりにしてって言ったからですが?」
「いやまあ確かにそう取られても仕方がないことは言ったけど。でもさっきのは勢い任せの発言っていうか……君は私の本音と建て前、私の発言の裏まで考えて結論を出すべきじゃないかな? そうするべきじゃないかな!」
うわぁ……何だろうねこの気分。
まるで彼女に「どっちの服が似合うかな?」って聞かれて、自分なりの意見を言ったら彼女の好みとは違って「私のこともっと考えてよね」、「言葉にしてることだけが本心じゃないの」とか言われてる感じ。
真友って関係はここまで求められるものなの?
そこまで求められるなら恋人も視野に入れた関係性にして欲しいよね。
そもそもさ、構って欲しいなら素直にそう言えばいいと思うの。行かないでって言われた方がこちらとしても嬉しいし。
ほんとカザミンって時々面倒臭いよね。ま、手間の掛かる彼女だって思えば悪い気もしないけど。何よりあの暴君やメガネと比べれば可愛いものだし。
「それはつまりカザミンは俺に一緒に居て欲しいってことですか?」
「い、いやそういうわけでもないんだけど……」
「ならここから去っていいじゃん」
「君は私のことを心配してここに来たんじゃないのか! というか、今のも言葉の裏まで考えて欲しいんだけど。何で君はそういう解釈というか、そういう言い方しか出来ないのかな!」
めんどくさ……
言いたいことがあるならそれだけビシッて言って欲しいんだけど。
あのふたりに精神的ダメージを与えられておかしくなってる? キャラが変わっちゃってるのかな?
それ以上に今のこの子はどう答えれば納得してくれるの?
去ろうとしたら引き留めてくるし、一緒に居たいの? って聞いたらそれも否定するし。お付き合いしたことがない僕にはいっちょん分からん。
「カザミンは俺に何を求めてるの? 今のカザミンは率直に言って非常に面倒臭いです」
「そこを考えてって言ってるの! でも許す。だって私も今の自分が非常に面倒臭いって思うから!」
「じゃあ今すぐやめればいいのでは?」
「それが出来ないから困ってるんだよ! 君と真友になってから日に日におかしくなってる気がしてならない。昔の私はこんな風に取り乱したりしなかったのに。とても冷静だったのに……」
冷静?
ただ中二病的な仮面を被っていただけなのでは。それ故に素が出ていなかっただけなのではなかろうか。
と思いはするけど、これを口にするのはやめておこう。素で人と関わることが少なかったであろうカザミンは、今の自分をまだ受け入れられていないようだし。
なら真友である俺は、カザミンが『素で人と接している自分』を受け入れられる日まで待ってあげるべきでしょう。
ただ、このまま大人しく屋上で過ごすというのも時間を無駄にするというか、将来的に高校生活を振り返った時に灰色の時間にしか思えない気がする。
というか、俺も少しは文化祭を楽しんでおきたい。このあと何が起こるか分からないし。
それに真友としてはカザミンの気分転換もしてあげたいじゃないですか。今の自分を認めるきっかけにもなればさらに良し。なら俺がすべきことは
「なあカザミン、俺とデートしよう」
やべ、いつもの癖でカザミンの精神を刺激する言い方しちまった。
これはもっとマシな言い方しろって怒鳴られるぞ。いやしかし、今のカザミンなら呆れて元の調子に戻る可能性も……何とも言えない顔で固まっていらっしゃる。
「……は? はあ? はああぁぁぁぁあぁぁぁ!?」
ゲームに夢中だから、とフラれたのでそのゲームの準最強剣士に弟子入りしました 夜神 @yagami-kuroto
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