第12話 「これ以上に怖いことがありマスカ!」

 皆さん、『転生した先で拾ってくれたのは劉備玄徳でした ~趙雲だけどお嫁さん目指してもいいよね~』というラノベを覚えているだろうか?

 そう、以前カザミンに勧められて購入したラノベである。内容はタイトルのとおりだ。

 どうして突然このラノベを話をするのかって?

 それは……続きを現在進行形で読み直しているからである。

 だってシャルさんが部屋に来ると言っていたから寝るわけにもいかないし、ICOにログインするわけにもいかないじゃん。下手したら俺の貞操の危機だし。


「……良いおっぱいだ」


 これだけ聞かれたら変態扱いされかねないが、挿絵が素晴らしいのだから仕方がない。

 カザミンに似ている主人公が裸で照れてる場面なんだよ。この主人公の胸のサイズはカザミンと同じFカップなんだよ。書かれてるセリフなんて必然的にカザミンボイスで再生されちゃうよね。

 何より……俺はカザミンの胸の感触をリアルのものではないが知っている。

 読み進めると、お風呂場で劉備と事故り胸を揉まれるというハプニングシーンがあるだけに共感や想像が天元突破しちゃいますよ。

 これをカザミンに言ったらゲーム内でなくとも鉄拳が飛んできそう。でも胸の内であれこれ考える分には問題ないよね。だって俺以外には分からないわけだし。


『シュウ、起きてるならドアを開けてくださーい』


 皆さんもご存知のとおり、シャルは割と無断で俺の部屋に入ってくる人間だ。

 故に声をかけられると何か仕掛けてきそうな気がしてならない。ここはあえてスルーするべきだろうか……しかし、起きていたのに無視したとなってはより面倒な展開になる気がする。

 ここは覚悟を決めてドアを開くとしよう。

 もしかするとお菓子や飲み物を持っているから自力で開けないだけかもしれない。そもそも、何が来ても冷静に対処すれば良いだけだ。大丈夫、今の俺ならやれるはず……


「お、開きました。ではお邪魔しマース、よいしょ……よいしょっと」


 みんな聞いてくれ。

 シャルさんの両手は塞がっていた。ドアを開けて欲しいと頼むのも納得するくらい塞がっていたよ。

 でもさ……手に持っているものを見て、俺はお礼や助けの言葉どころか何も言う気になれなかったよ。

 何故かって?

 それはだね、シャルさんの持っていたものがお菓子や飲み物ではなく布団だったからさ。

 何でこの人、俺の部屋に客用の布団運んで来てんの?


「ねぇねぇシャルちゃん」

「何でしょうシュウちゃん?」

「何で布団なんか運んできたの?」

「愚問デスネ。ここで寝るからに決まってるじゃないデスカ」


 なるほどなるほど、俺の質問は愚問ですか。

 うん……まあシャルちゃんは一緒に風呂に入ろうとか言っちゃう子だもんね。だから一緒の部屋に寝ようと言い出してもおかしくないし、きっと同じベッドじゃなくて別々の布団で寝ようって妥協してくれたんだよね。

 でも、でもね、それでも言いたいことがるの。俺の精神を安定させるためにも言わせて欲しいことがあるんだ。


「ここ俺の部屋なんだけど? 人並みに性欲あって異性が恋愛対象の男子高校生の部屋なんですけど?」

「はい、分かってマスヨ」


 そっか、分かってるのか。

 分かってるのに君はテキパキと布団を敷いちゃうんですね。それはつまり俺が言いたいことが分かってないってことだよね。分かってても無視してるってことだよね。


「ねぇシャルさん、何でここで寝ようとするの?」

「え、だってひとりで寝たら悲しいじゃないデスカ」

「お前普段は自分の部屋で寝てるじゃん。ひとりで眠ってるじゃん」


 誤解がないように説明しておくが、シャルの部屋に侵入したりカメラを隠したりしたわけじゃないぞ。

 前にシャルが趣味に打ち込んだ結果、寝不足が続いていた時期があったの。そのときは毎朝シャルの家まで迎えに行ってたわけ。日によってはシャルママとかに中に通され、部屋に入って起こしたりしてたの。

 だから知ってるだけです。断じて法に触れるようなことはしてませんよ。夏場じゃなかったからシャルさんも薄着じゃなかったしね。


「シュウ、ここはワタシの家ではなくシュウの家デスヨ。ワタシは今日シュウの家にお泊りしているんデス。友達の家にお泊りするときは基本的に友達の部屋で寝るじゃないデスカ」

「いやまあ、それはそうだけど……それ友達の家に泊まる場合の話じゃん」

「なっ……幼馴染は友達じゃないとでも言いたいんデスカ! 今の言葉はシャルさんの心を大いに傷つけましたよ。シュウは馴染みの店の同級生とは真友だとかランクの高そうな友情関係を結ぶくせに、幼馴染であるワタシのことはそういう扱いをするんデスネ。しくしくしくしく……」


 こいつ泣き真似下手だなぁ。

 というか、さらりとカザミンを話に出すのやめてあげてよ。あの子は別の今のやりとりの何も関係ないでしょ。

 シャルさんはちょっとカザミンにライバル心を持ち過ぎ。俺はカザミンのこと幼馴染とは思ってないから。幼馴染はシャルさんだけだから。


「というわけで、ワタシはここで寝させてもらいマス」

「傷ついてもいないくせに傷ついたフリしてゴリ押そうとは、我が幼馴染は腹黒いな」

「黒いとは失礼デスネ。シャルさんのお腹は黒くありません。むしろそのへんの人よりも白いデス。あ、お腹以外の部分も綺麗な色してマスヨ」

「俺は外見じゃなくて中身の話をしてるの。あと時間帯としては問題ないけど、幼馴染とはいえ異性にそういう生々しい話しないで」


 風呂上りということもあって今のシャルさん薄着だし。

 ここまで突っ込まなかったけど、何でシャルさんはタンクトップにショーパンなのかな。見るからにブラは付けてなさそうだし。


「シュウ、何だか視線がエロいデスヨ」

「お前の露出が多いからだ。前々から聞こうか迷ってたけど、お前は露出癖でもあるの?」

「またまた失礼な発言デスネ。これでもシュウのことを考えているんデスヨ」

「どこが?」

「ちゃんと服を着てマス」


 …………それってつまり……家では寝る時に服は着てないってことですか?


「それにママから、シャルは人に自慢出来る身体をしてるんだからもっと自信を持って。シュウちゃんだって男の子、色気を漂わせていればそのうちパパのように我慢できなくなるから。シュウちゃんがシャルに手を出せば、鴻上家とバウンディ家の未来は安泰だから……と言われましたし」


 シャルママ、あなたは娘に何を言っとるんだ。のほほんとした空気を醸し出してるくせに本当は腹黒かったの? シャルパパを落とすために色々やっちゃったんですか。

 好きな人と付き合うために努力した結果なんだろうし、それが悪いこととは言わないけど。でも何かショック。

 シャルと俺を結び付けたいならシャルに普通にアタックさせよう。既成事実から始まるお付き合いよりさ、幼馴染から1歩ずつ進むお付き合いが出来るように協力しようよ。そしたらこっちの気持ちもまだ違ってくるから。


「シャルさん、そこに座りなさい」

「もしやワタシに手を出すつもりなんデスカ! ワタシの口にシュウのシュウを半ば強引に……!」

「女の子がそういうことを嬉々とした顔で言うんじゃありません。いいからそこに座りなさい」

「ぶー、最近のシュウはワタシに対してご褒美が少ないデス」


 ご褒美が欲しいならもらえるような努力をしなさい。

 おふざけ度合を減らして、定期的にご飯でも作ってくれたらそれだけで俺の言動も変わるから。


「いいかいシャルさん。君が幼馴染を脱負けヒロインっていう一般人には理解できないポリシーで頑張ってるのは知ってるよ。泣き虫だった頃から比べると明るくなったし、料理とか趣味とか頑張ってるのは知ってます」

「いや~それほどでも」

「でもね……もうちょっと君に振り回される幼馴染の気持ちを考えてくれないかな? 俺が良い幼馴染をやれてるか自信はないけど。でも俺は俺なりに君のことを大切にしたいと思ってるわけ」

「え、もしやワタシ今シュウから告白されてマス?」


 照れ隠しか真面目な空気に耐えきれなくなったのか分からんが、真顔でボケをかますシャルにムカついた俺は、無言でシャルさんのメガネを取る。


「ちょっ何でメガネを取るんデスカ!? メガネはワタシの命なんデスヨ。メガネのないワタシとか美人度5割増しでシュウの理性が弾け飛んじゃいマス。危ないから返してください!」

「お前さらっととんでもない発言したな」

「メガネがない方が美人だって言ったのはシュウじゃないデスカ。それにこう見えても『シャルって黙ってたらモテるのにね』と何度も言われたことがありマス。日本人としては謙虚な心を持つべきデスガ、謙虚過ぎるのも反感を買ってしまいマス。故に多少は自分の外見に自信を持つべきかと」


 それはそうだけど……黙ってたらあたりの話はどちらかと言えば悪口じゃないかな。

 まあ親しいクラスメイトとかに残念そうな顔で言われてるだけだろうけど。シャルさんって中学校の頃から残念美人で名をはせていたし。


「……確かにお前の外見は優れているし、謙虚な心がどうとかって話も概ね同意するけど。俺は真面目な話をしようとしてるの。お願いだから俺の話を聞いて」

「ならメガネを返してください」

「これ返したらまたふざけるでしょ」

「メガネをやる気スイッチみたいに言わないでください。メガネがあろうとなかろうとふざける時はふざけマス。メガネがなくてもどうにかなりますし」


 メガネが本体みたいな発言をしていたくせにここで手の平返しとは。今日のシャルさんは一段と現実的な女だぜ。


「どうにかなるなら少しの間でいいからそのままでいなさい。大人しく話を聞いてなさい」

「やれやれ、シュウはわがままデスネ。まあワタシはシュウの幼馴染なので、ここはシュウに従ってあげましょう」


 そう言うなら大人しく座ってなさいよ。新しい本ないかなって感じに本棚の方に移動するんじゃありません。

 それだとおちょくってるようにしか見えないからね。まあ……俺はシャルの幼馴染だし、話を聞いてくれるのならそれくらい見逃してあげますが。うん、やっぱりシャルさん良いケツしてるわぁ。


「むむ、また色々と増えてマスネ……相変わらず巨乳好きなのは変わりないデスガ、心なしか色白より小麦色の肌のヒロイン率が上がっているような」

「そういうのは時期によって変動するから。読みながらでもいいから、とりあえず俺の話を聞きなさい」

「小麦色の巨乳ヒロインが服だけ溶かすスライムに襲われている!? 定番と言えば定番ですけど、定番だけあってさすがの破壊力。シュウもこれを見ながら女の子を液まみれにしたいと思っているに違いありません」


 断定しないでください。

 俺はあなたほど鬼畜・凌辱ものを嗜んではいません。そういうシチュが嫌いかって聞かれたら……まあ嫌いじゃないって答えるけど。

 ……こほん。

 きっとシャルさんもおふざけで聞いてないフリをしているだけ。なのでこのまま話を進めることにしよう。そうしないと停滞しそうだし。


「いいかいシャルさん。俺達は確かに幼馴染だよ。世の中の幼馴染と比較すると仲睦まじく良好な関係を築いているのかもしれない。世の中には初体験の相手はまあ幼馴染のこいつでいっか、みたいに軽い気持ちでしちゃう人達も居るかもしれない」


 シャルさんがサバサバした性格でエロに興味津々だったならそういう展開もあったことでしょう。

 そんなシャルさんだったら……まあ俺も応じたかもしれない。初体験しちゃっても関係がこじれたりしなさそうだし。そもそも今日に至るまでの付き合い方が別のものになってただろうから。


「でもね、俺達も今や高校生なの。子孫を残せる力を持った多感なお年頃なの。だからさ、もう少し距離感を考えよう。同じ部屋で寝るとかダメ。寝るにしてももっと肌を隠して」

「だが断る!」

「自分を日本人だとか言うなら断るな。断るにしても納得できる理由を言え」

「理由? そんなの外を見れば分かりマス。夜空を見れば全てが分かりマス」


 ふざけているようにしか思えないが……とりあえずカーテンを開けて外を見てみよう。


「……曇ってて星ひとつ見えないが」

「そう、そこ! その重要なポイントによく気づきました。今日の天気は夕方から曇り始め、夜から激しい雨が降ると予想されていマス。つまり、もうじき土砂降りになって雷がゴロゴロ鳴り響くんデス!」

「……だから?」

「だから、ですとぉぉッ!? シュウ、それ本気で言ってるんデスカ! 雷が鳴るんデスヨ、ゴロゴロしてピッカーンなんデスヨ。ビリビリのドッカンカーンなんデスヨ!」


 擬音語ばっかり使うんじゃありません。

 それを表現するために身振り手振りが多くなって、あなたのグレートなお胸が上下左右に揺れてるから。縦横無尽に駆け巡ってるから。ブラ付けてないんだからそういう動きするのやめなさい。


「えーと……つまりシャルさんは雷が怖い。だからひとりで寝たくない的な解釈でオーケイ?」

「OK!」

「……子供かよ」

「シュウ、今こそっとワタシのことバカにしたでしょう! 雷が怖くて何かいけないんデスカ。雷は怖いじゃないデスカ。停電とかしたらゲーム機やパソコンのデータが飛ぶかもしれないんデスヨ! これ以上に怖いことがありマスカ!」


 えぇ……そういう理由……。

 俺も同じ経験があるからそういう意味で怖いのは分かるけど。でもこういうときの理由としては不適切というか、相手を納得させる理由にはならないよね。

 シャルさんらしいと言えばシャルさんらしいし。真面目に聞こうとした俺がバカだっただけかもしれないけど。


「というわけで、ワタシはここでシュウと一緒に寝マス! なのでシュウはワタシが寝るまで何でもいいから相手をしてください。ワタシ寝つきは良い方なので眠くなったらすぐに寝るんで。相手の仕方はおっぱいトークとかでも構いませんよ」

「何でお前とおっぱいについて語り合わなきゃいかんのだ。そういうのは野郎で集まった時にする。眠くなるまではそのへんのラノベでも読んでろ」

「えぇ~、それだとシュウとイチャコラ出来ないじゃないデスカ。せっかくお泊りしてるのに。何もないと風見さんに送るネタに困っちゃいマス」


 あなたがあの子と交流するのは自由だし、俺のことを話題にするなとも言わないよ。

 でもさ、あの子の心を揺さぶるような発言はしちゃダメだと思う。

 そのネタ欲しさに大切な幼馴染を利用しようとするのはダメだと思うの。

 ワタシのものはワタシのもの、幼馴染だってワタシのもの。みたいなジャイアニズムを発動させるのは良くないです。

 あなたのチャームポイントは無邪気な笑顔でしょ。ならそのイメージを守りましょう。自分勝手に振る舞うのはあの小さな暴君だけで十分だから。


「あのなシャル、もし本気でそんなことを言ってるなら俺は無理やりにでもお前をこの家から叩き出すぞ」

「む、無理やり……それはそれで」

「妄想して発情するな。このメガネ叩き割るぞ」

「ちょちょちょちょそれはいくら何でも卑怯デスヨッ!? 取り上げられる分にはまだ良いデスガ、割られたりしたらワタシの心がブレイクしちゃいマス。その子含めメガネはワタシの子供なんデス。何でも言うこと聞きますから割らないでください! その証拠に今すぐ脱ぎマス!」

「やめんか!」


 流れるように話を不真面目ルートに戻すんじゃない。

 頼むから少しは俺に休む時間をくれ。お前のハイテンションに付き合い続けるのは大変なんだ。明日は休日だから問題ないと言えばないけど。

 はぁ……俺、今日いつになったら寝れるんだろう。

 シャルが寝れば寝れるんだろうけど、寝ようとしたら隣で寝てるシャルの匂いとかでドギマギしそうだし。

 別の部屋で寝ようとしたらシャルに気づかれるかもしれない。気づかれなくても朝にはバレるからまた面倒なことになる。

 誰か……定期的でいいから俺とシャルの幼馴染って立場変わってくれないかな。



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