第6話 「大きいのが好きなの?」

 シャルの次の言葉。

 それによって俺の運命は決まる。

 果たして俺の待ち受けるのは生か死か。いや、実際には死なないんですけどね。ここゲームの中だし、HPゼロ=現実でも死亡とかいう仕様はないから。

 でもマイさんからの視線が確実に冷たいものになるんだ。過去最高レベルでムスッとすると思うんだ。下手したらしばらく口を聞いてくれないかもしれない。

 そうなるとさ……俺としては終わりじゃん。

 最強のプレイヤーへの道も止まっちゃうし、仲の良い友達をひとり失うかもしれないし。絶交はされなくても精神的なダメージを当分受け続けるわけで。良いことなんて何もない。

 シャルは気にしてないんだから問題ない、で納得してくれるならどれだけ良かったか。まあ普通に考えてそれで納得する人はいないと思うけどね。納得するのはシャルだけだと思う。


「誰かと思えばシュウじゃないデスカ。シュウもICO始めたんデスネ。それなら教えてくれてもいいじゃないデスカ」


 いつもの笑顔でいつもの口調。

 違和感のないその対応に俺は泣きそうになった。心では泣いた。泣いて喜んだ。

 シャルありがとう、愛してる!

 今日ほどお前に感謝したことはない。お前は本当に良い女だよ!


「昨日始めたばかりだからな。それに本来ならこうして会うこともまだ先だっただろうし」

「まあそれはそうデスネ。普通ここまでに来るのに早くても1週間は掛かりますから。でもこれで納得デス」

「納得?」

「実はデスネ、少し前にマイさんが急に出来るだけ強い双剣が欲しいと言ってきたんデス。それでいて自分の使っている双剣に近いデザインのものというなかなかの鍛冶屋泣かせ。俗に言う無茶振りだったのデス」


 シャルの言葉にマイは顔を赤らめ、落ち着かない素振りを見せる。

 指を絡ませてモジモジするマイさん……超可愛いんだけど。

 小柄なマイさんがそういうことするの反則だと思う。凄い小動物的可愛さ。思わず頭撫でたくなるね。

 実行したらアキラさんへのルートが遠のく気がするのでしないけど。


「んぅ……それ言わない約束」

「おっと、そう言えばそうでした。すみません。でもシュウのこと黙ってたマイさんも悪いんデスヨ。まあマイさんの様子がおかしかったので、そんなことじゃないかと予想はついてたんデスガ」

「うぅ……」


 恥ずかしさが増したのか、マイは俯いてしまう。

 シャルさん、あまりマイさんをいじめてないで。いじめればいじめるほど可愛い反応しちゃうから。

 それを見ちゃうとさ、俺の男としての部分が自然と反応するの。可愛いとか抱き締めてぇとか思っちゃうの。

 だからねシャルさんとしてはその姿を見たいのかもしれないけど、出来れば我慢して欲しいな。

 でもインする前の出来事を言わないでくれるのが1番です。

 なので、それと比較したらマイさんを辱める行為はいくらでもしてください。


「そう言えば……ついいつもの調子で呼んだじゃいましたが、シュウのことをシュウって呼んで大丈夫デシタカ?」

「ああ、問題ない。プレイヤーネームはシュウにしてるしな」

「なら良かったデス。ワタシもこっちではシャルなので、いつもどおり呼んで大丈夫デスヨ。なので気兼ねなく普段どおり話してください。今日のシュウはどこか落ち着きがないデス」


 落ち着きがない?

 そんなの当たり前じゃないですか。だって僕、あなたに弱みを握られている状態ですよ。いつ爆弾を投下されるかヒヤヒヤしているわけです。

 それを抜きにしても、あなた自分の恰好を見てみなさい。

 可愛い格好とか大人っぽい恰好したいのは分かるけど、あなたはまだ高校なのよ。なのに花魁みたいな格好して。両親が今のあなたを見たら何て思うと思ってるの……あの人達なら普通に似合ってるとか言いそうだよなぁ。


「あのなシャル」

「はい、何デス?」

「お前はお前が思っているよりもずっと美人で、凄まじい吸引力を持つグレートおのを装備しているんだ。俺も男だからその……目のやり場に困る」

「あーなるほど。シュウも年頃デスもんね。でもこういう恰好している方がお客さんは喜んでくれるんデスヨ。お客さんのために一肌脱ぐのも商売としては必要なことだと思いマス」


 いやまあそうなんだけど……君の場合、一肌脱いで人肌が見えちゃってるの。

 君がただの友達なら露出あざす! って感じで済むんだけど、残念なことに俺は君とは子供の頃から付き合いがあるじゃないですか。だからね、良心的に慎みを持ちなさいって言いたくなるわけ。


「それにこのゲームは、シュウが思っている以上にセクハラ対策は十分にされてるから安心デス」

「そうだとしてもだな……まあいい。お前が好きでやってるわけだし、俺が何を言っても変えるつもりないだろうしな」

「そんなことないデスヨ。シュウのお願いならもっとエッチぃ格好でもワタシしてあげマス」


 ……マジで?

 なら個人的に下は袴で上はさらしだけとか見てみたいんだけど。シャルならそういうのも似合いそうだし、グレートなお胸も最大限真価を発揮すると思うから。


「……シュウのエッチ」

「マイよ、今のはシャルが勝手に言ったことだぞ。それに俺はまだ何も言っていない。それなのにエッチ呼ばわりはひどいと思うんだが?」

「シャルの胸をガン見しながら言われても全然説得力ない」


 いやだって、ねぇ?

 シャルさんのバストサイズは本人曰くGカップですよ。グレートなカップなんですよ。それが上半分見えてるような状態で目の前にあったらさ、男なら誰だって見ちゃいますって。


「違うんだ……シャルの胸に向かって重力が発生しているだけなんだ。マイだって目の前にシャルの胸があったら見ちゃうだろ?」

「わたしに同意を求められても困る……まあ見ちゃうけど。シュウは……シャルくらい大きいのが好きなの?」


 え、そういう話になっちゃいます?

 考えろ俺……ここで答えを間違えると大変なことになるぞ。マイさん自分の胸を触ってるし。もしかして意外と気にしてるのかな? でも身長の割にある方だと思いますよ。マイさんはもっと自信を持っていいんじゃないかな。

 なんて考えている場合ではない。

 今俺が考えるべきなのは、シャルくらいの胸が好きかどうかだ。俺はシャルくらいの胸は……


「好きデスヨ」

「おい金髪メガネ、貴様は何を勝手に俺への質問に答えている? 俺がいつ貴様くらいの胸が好きだと言った? 根拠はあるのか、根拠は?」

「シュウの押しキャラって大体おっぱい大きいじゃないデスカ。最近買っているラノベとかの表紙も基本的におっぱいが大きい子の絵ばかりデス。何よりシュウの目線はよくワタシの胸元に向いてマス」

「いや、それはその……ラノベのサイズは基本プラス2カップとか言われてるし、流行りとかの関係で時期的に似たような絵が多くなることはあるわけで。お前の胸を見ちゃうのも男の生理現象というか……」

「シュウ、素直になった方が楽になりますヨ?」

「はい、好きです。大きいおっぱい大好きです」


 でも聞いて!

 大は小を兼ねるって言うし、大きくないとできないことってあるじゃん。

 おっぱいは人間が四足歩行から二足歩行に変わる際にお尻の代わりに成長したものだって言われてるじゃん。

 おっぱいが大きい人にいじめられたとかない限り、世の中の大半の男は大きい胸が好きなはずだよ。エッチぃ動画とかも大きめの人達が多いじゃん。だから俺は悪くない。どこにでもいる当たり前な性癖の高校生だよ!


「そっか……やっぱりシャルくらいが良いんだ」

「マイさん聞いて。あのね、胸の大きさなんてそう気にすることではないのだよ。そりゃあシャルの胸は魅力的だけど、マイさんくらいの大きさだって十分に魅力的。マイさんくらいの身長でそのサイズとか男の理想のひとつだから」

「……でもシュウの理想はシャルなんでしょ?」

「…………」

「シュウのバカ、エッチ、変態」


 定番の3連撃。

 でも実際に言われると凄い威力。シャルに言われたら何とも思わなかったというか、むしろそれが当てはまるのはお前だろって言い返してただろうけど。

 しかし、この話題になった瞬間に俺に勝ち目なくね?

 だって今のところでさ、「マイの方が好きだよ」って言ったところで信じてもらえないだろうし。仮に信じてもらってもそういう目で見てたの? から同じセリフが来たと思うんだ。

 ルートが一瞬だけ分岐するだけじゃ意味ないんだよ。結果が同じじゃ意味がないんだよ。

 ならせめて自分に正直に生きるしかないじゃないか。

 嘘を吐いてさ、あとでシャルサイズが良かったってバレたりしたら、その方がマイさん怒りそうだもの。意外と根に持つタイプだし。


「まあまあ、マイさんはこれから大きくなるかもしれませんし、シュウの性癖が変わる可能性だってありマス。だから今日のところはこのへんで許してあげて欲しいデス」

「……シャルがそう言うなら」

「ありがとうございマス。ところで、今日はどんな用で来たんデスカ?」

「シュウの武器のメンテ。シュウ、武器をシャルに渡して」


 断ったりしませんから若干睨みを効かせるのやめてもらっていいですか。

 なんて言ったところで我が師匠は「睨んでない」とより眼力を強めて返してくるに決まっている。

 なのでここは大人しくシャルに剣を渡しましょう。


「お~始めたばかりのはずなのにずいぶんと使い込んでマスネ」

「ん、シュウ頑張ったから。凄く激しかった」

「マイさん、頑張っただけでいいです。誤解を招くような発言は要りません」

「そ、そういう意味で言ってない。シュウのエッチ」


 え、俺が悪いの?

 てっきりそういうつもりで言ったとばかり思ったのに。似たような発言これまであったし。

 もしかしてマイさん、キスとかボディタッチまでは問題ないけど、一線を超えちゃうとダメなのかな。

 もしそうなると初心じゃないけど初心ってことに。これまた何とも男心をくすぐる性質ですね。

 地味にいじめたくなるけど我慢我慢。そういうこと頻繁にすると嫌われるかもしれないし。何より最短でアキラに近づくためにもマイさんとの関係は良好でいないと。


「マイさん、エッチくない男の子はいません。だからシュウもエッチなのは当然なのデス。人並みにエッチなんデス」

「シャルさん、それ全然フォローになってない」

「そうデスカ? 性欲魔人とか言ってないデスヨ?」

「普通の人にはエッチって単語だけでアウトです」


 過激な同人誌とか読んじゃうシャルさんはね、価値観とか考えがずれてるの。性欲に対して寛大になっちゃってるの。

 それは男からすれば良いことだけど、下ネタがダメな人の前で巻き込まれるのは困るんだよね。

 付き合いのない人間の評価とかはまあどうでもよくても、友人の評価は気にしちゃうから。

 シュウさんはあなたが思ってるほどメンタル強くないの。


「もうこの話はいいからさっさと仕事してください。今日のノルマ的に早めに行動しないと大変なので」

「仕方ないデスネ……でも仕事する前にひとつ確認デス。おふたりは今日どこに行くつもりなんデスカ?」


 そんなの僕が知るわけないじゃないですか。そこはマイさんに聞いてください。


「今日はガルガンデ鉱山。そこでアントやバットを中心に狩る」

「今日は人型じゃないんだな」

「人型ばかりだと今後何かしらのクエストを受けた時に困る」

「それは確かに」

「それに今日の最後にはわたしとの決闘デュエルを予定してる。だから対人戦も問題ない」


 ……ん?

 それって本気で言ってます?

 僕は過去にVRゲームの経験があるとはいえ、このゲームは今日で2日目の初心者ですよ。それなのに準最強剣士であるマイさんと戦えと? それってただのいじめじゃないかな。罰ゲームに等しくないかな。


「大丈夫、シュウなら今のステータスでも頑張ればわたしに一撃くらい与えられる」

「頑張っても一撃な時点でダメじゃん」

「ダメなんてことはない。強者と戦うことでしか学べないことがある。だから今日からプレイできた日の最後にはわたしと決闘してもらう」


 うちの師匠って優しいように思えて厳しいよね。

 俺のこと考えてくれてるんだろうけど、それ故にスパルタだよね。最後までちゃんと付いて行けるか不安になるよ。


「……今日の予定はそうなっているそうです」

「ふむふむ、じゃあワタシも付いて行っていいデスカ?」

「ん、オッケー」


 マイさん相変わらずの即決だね。普通理由とか聞くもんじゃないの?


「ありがとうございマス! 鉱石が不足気味だったので大助かりデス。すぐにこの子の修理終わらせるので少し待っててください」


 俺の気持ちを知ってか知らずか、シャルはそう言って奥の方へと歩いて行った。

 長い髪のせいで少し隠れちゃってたけど、シャルさんって胸だけじゃなくお尻も良いよね。大きくて張りがあるから凄くエロいんだもん。しかも歩き方が腰を振る感じだからさ、これがまたセクシーなんだよね。


「シュウ、シャルのこと見過ぎ」

「マイさん、それは仕方ないと思うんだ。シャルのああいう格好ってあまり見ないし。つい見ちゃうのは仕方ないと思うんだ」

「それは分かるけど、シュウの目線はシャルの一部を見過ぎ。見るならわたしのを見ればいい」


 え、マジっすか?

 でもマイさん、マイさんのお尻ってロングコートのせいで隠れてるじゃないですか。それをどうやって見ろと?

 だから見るとすれば胸の方になりますよ。そっちなら確かな膨らみが確認できるし、身長差的にマイさんの体勢次第では谷間が見えちゃったりするから。


「……インナーをもう少し胸元まで開いてるものにしてくれたら見る回数は増えるかな」

「インナー? ……む、胸ばかり見るのダメ。さすがに恥ずかしい」


 両手で胸を隠すマイさん可愛い。

 顔も少し赤くしているのがさらに可愛さをアップさせているよね。

 ただ……自分から見ろと言っておきながら恥ずかしがるって、マイさんの羞恥心ってよく分からないよね。まあ損はしてないからいいんだけど。


「お待たせしました、剣の修復終わったデス」

「早っ!?」

「ふっふっふ、ワタシはスキル熟練度だけみれば一流の鍛冶師デスヨ。これくらい当然デス。何より欲望を満たすためなら多少の無理難題は超えてみせマス!」


 いやいやいや、ゲームシステム的に超えられないものは超えられないでしょ。

 そう言いたくもなるけど、この金髪メガネならやりかねないと思う自分が居る。

 ただその考えは出来れば捨てたいので、ここは一流の鍛冶師だからということで納得しておこう。

 ちなみにこれは余談ですが、シャルが握り拳を作ってポーズを決めた時、彼女のグレートなものが揺れました。つい凝視しちゃったけど、これは仕方ないよね。


「というわけで、いざ出発デース!」



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