第7話 「行くよシュウくん」

 その後。

 俺は残りの試練をクリアするため、シリュウと共に巨木の湖から南西にある森林地帯へ移動した。ちなみに次に受ける試練は、技の試練である。

 その間、常にシリュウは俺の前を歩き会話らしき会話はない。

 この理由は言うまでもないだろう。事故とはいえ、俺がシリュウの胸を触ってしまったからだ。つい何度も揉んでしまったからだ。大事なことなので隠したりしない。

 だが個人的に悪い時間ではなかった。

 前に俺は幼馴染であるシャルがエロ担当だと言った。外国人である彼女は、胸はグレートだし、くびれも綺麗だし、お尻も大きくて、脚だってほど良い肉付きがある。


 何故ここまで言えるかって?


 忘れないで欲しい。

 我が幼馴染の夏場の服装は基本的に薄着。タンクトップやノースリーブにホットパンツという露出マシマシスタイル。

 ぶっちゃけ子供の頃からの付き合いがなければ、夜な夜なオカズにしていてもおかしくない服装なのだ。


 どうして真友の話をしているのにシャルの話をした?


 皆はそう思うかもしれない。だがこれは必要なことなのだ。

 今語ったようにシャルはエロい。性格はあれだけど、身体はエロい。中身はダメダメだけど、外見は非常にエロい。これは皆も分かってくれるはず。


 だがしかし、我が前を凛々しく歩くシリュウも負けていない!


 シリュウは爽やかで涼し気なイケメンフェイスのボーイッシュ女子であるが、上半身にはファンタジーのような夢が具現化したお胸がある。店の手伝いがあるので部活動をしている様子はないが、身体全体引き締まっていてくびれのラインも綺麗だ。

 加えて、お尻も実に張りのありそうな形をしている。

 そこからの足までの線も綺麗。端的に言ってしまえば、シリュウという存在は健康的なエロさの塊だ。

 シリュウはずっと前を歩いていた。

 故に素敵なお胸を見ることは出来なかった。

 だが俺の右手には、そのお胸を揉んだ感触が残っている。

 後ろを歩いていたことで、健康的なエロスを発するくびれやお尻をずっと見れていた。

 こんな時間を過ごせていたのにどうして悪い時間だったと言えようか。いや、言えるはずもない。

 しいて文句があるとすれば……背中にある槍が邪魔だった。それがなければ、もっと細かいところまで真友の後姿を見れたのに。


「……シュウくん」


 おっと、我が真友が急に立ち止まって話しかけてきたぞ。

 さらに振り返って真っ直ぐこっちを見ている。表情は険しくないし、視線も鋭くはないが怖いよね。だって女性って視線に敏感だって言うし。お胸の感触は忘れって約束したのに未だに余韻に浸ってたし。


「ここからもう少し進めば技の試練を受けられるはずだ。ただ、このまま試練に望むのはあまり良いとは言えない。試練の内容は分からないが、少なくとも協力し合わないといけないだろうからね」

「まあそうだな」

「だから……その、何というか……ここいらで仲直りをしておこう。君がやったことは褒められることじゃないが、私を助けようとして起きた不慮の事故。それは私も分かっている。それに君もここまでの時間で反省しただろう」


 ちょっと恥ずかしそうな顔をしているあたり、この子はあまり人とケンカしたことないんだろうな。仲直りするために謝ることはあっても、わざわざ仲直りしようとか言わないだろうし。

 まあこういうところは我が真友の良いところでもあるんだけどね。

 ただ……ごめんなさい。

 あなたの胸を揉んでしまったことに罪悪感は覚えていますし、今後気を付けようとは思っています。

 が、ここまでの時間の過ごし方はひどいものでした。決して褒められたものではありません。欲望に塗れてて本当すみません。


「すまないシリュウ……俺は」

「いや、その、改めて君を責めたいわけじゃないんだ。今後気を付けてくれればそれだけで良いというか、だからその頭を上げて」


 この子、良い子。良い子過ぎると言いたくなるくらい本当に良い子。

 絶対将来幸せになって欲しいね。だから良い人を巡り合いますように。もしもお前も弄ぼうとする奴が居たら俺がどうにかするから。出来る範囲で頑張るから。

 ま、今は未来のことより目先のことですが。なので……


「シリュウ、約束する。この先どんな試練が待っているとしても、俺はお前を見捨てたりしない。お前と共に試練を乗り越えてみせる」

「あぁうん、ありがとう。返事として重いというか、気合が入り過ぎてるけどお互い頑張ろう……というわけで、行こうか?」


 シリュウさんが俺の隣に来た。これは一緒に並んで進もうということですね。

 もしやずっと前を歩ていている間、俺に対してあれこれ思っていたのでは?

 人の良い我が真友なら十分ありえるぞ。同時に申し訳ない気持ちでいっぱいになるが。

 うん、この子のこと大事にしよう。良い真友になれるように頑張ろう。

 そのためにまずは……シリュウさんの歩幅に合わせましょう。歩幅的に俺がシリュウさんに合わせないと負担になっちゃうし。

 気持ちを入れ替えながら歩いていると、遺跡に居た老人によく似ているNPCの姿が見えてきた。おそらく同じように試練に関する情報をくれるのだろう。


「汝ら 試練に挑みし者か?」

「ああ」

「ここに至る前 巫女からも忠告があったであろうが 試練には大いなる危険が伴う それでも汝らは試練に挑むか?」

「挑む」

「よかろう ならばこの先に進め そこで行われるは技の試練である」


 このへんの流れは大方同じだな。なら心の試練の時のように先に進もうとすれば助言をもらえるだろう。

 と思った矢先、老人のNPCは続けてこのように述べる。


「試練に挑む前に助言を授けよう 心の試練では屈強な戦士との戦いとなる その一撃は岩をも砕くが 最も恐ろしいのはその肉体の強さだ 並の攻撃では傷ひとつも付かぬであろう」


 ここまでの助言を整理すると、形としてはボス戦に近いということか。

 そして、高い攻撃力を持つがそれ以上に防御力が高いと。並みの攻撃で傷が付かないってことは、アーツでしか有効打を与えられないのかもしれない。


「しかし その肉体も無敵ではない 時として戦士の肉体は柔肌にもなり得る 戦士を倒したくばその時を狙うことだ その時は汝らの死中にこそ訪れる」


 老人はそこで口を閉ざし、巨木のある湖の方へ意識を向けた。

 明確な言葉が出たわけではなかったが、ある程度ゲームに慣れている者なら今の話だけでも十分に推理は出来る。


「今の話を聞く限り、どうやら私か君のどちらかが、注意を引く壁役をしないといけないようだね」

「みたいだな」


 おそらく敵に有効打を与えられるのは、敵が攻撃に意識を向けている時のみ。

 作戦としては片方が注意を引いて攻撃を誘い、もう片方が敵が攻撃に移ったところを狙うというものになるだろう。

 注意を引く方がカウンターも狙えればダメージ効率は良くなるだろうが、高い攻撃力を持つ相手にそれを実行するのは危険の方が大きい。ここは無難に行くべきだろう。ただ……


「問題なのは俺とお前、どっちが壁役をするか……か」


 正直なところ、俺は壁役に向いていない。

 俺のスキル構成は《双剣》、《疾走》、《瞬歩》、《武器防御》、《反撃》、《見切り》、《剣技の心得》の7つ。

 装備も重たい金属系の防具は身に着けておらず、敏捷性に補正を掛けるものが中心になっている。

 つまり俺は基本的に素早い動きで敵の攻撃を避け、避けれないものは弾き、チャンスがあればカウンターを狙っていく攻撃特化仕様。師匠でありマイと同じスタイルなだけに壁役には向いていない。

 そのため、現状では俺よりも多少なりとも金属系の防具を身に着けているシリュウが壁役には向いている。

 ただシリュウの武器は両手槍。

 リーチを活かした広範囲攻撃と、突きによる一点集中攻撃を使い分けられるが、その名の通り両手で武器を構えるため盾を装備できない。よってシリュウも壁役には向いていないのが現実である。


「それに関しては消去法で考えて私がするしかないだろう。私は多少なりとも防具を身に着けているし、使う得物のリーチも長い。君がするよりは安全だろう」

「なら任せる。ただ壁役仕様じゃない以上、攻撃の余波でHPは削られるし、武器の耐久度も不安になるはずだ。状況応じて俺も壁役に回る」

「了解だよ。戦士という表現からして敵は人型なんだろうけど、重量級の武器でないことを祈りたいね」

「同感だ」


 斧やハンマーのような類だと、他のものより耐久力を削られやすい。

 その一撃を壁仕様でもないプレイヤーが防げば、早い段階で武器が破壊されることだろう。

 心の試練はともかくとして、この一連のクエスト……場合によってはクリアできないパーティーもあるかもしれないな。


「……じゃ、挑んでみるか相棒」

「悪くない響きだけど、そこは真友と言って欲しいね」

「はいはい。行くか真友」

「うん、行こうか」


 軽く拳を突き合わせ、森林の奥へと向かっていく。

 試練を行う会場となっているだけに奥までの道は整地されており、ただただ一直線だ。

 ある程度進むと視界が開ける。

 そこは周囲を背の高い木々に囲まれている平地。まるで天然のコロシアムだ。

 コロシアムに足を踏み入れると、木製の杭が降り注ぎ後方の道が閉ざされる。

 これが意味するのは一方通行。試練を行う場に足を踏み入れた以上、帰ることは許されない。そういうことだろう。


「シュウくん」

「ああ……」


 コロシアムの中央に無数のポリゴンが集まり、驚異的な速さで姿を変えていく。

 俺達に試練を与える者の名前は、《リザードウォーリア・トライアル》。

 背丈はおよそ2メートル。筋骨隆々の身体を見せびらかすかのように防具の類は何も装備していない。顔立ちは通常のリザードマンと比べると、あごが短くなったワニのように思える。このへんは水龍の眷属という意味合いかもしれない。

 戦士の手には、無骨なトマホーク。

 その巨大さ故に両手武器のように思えるが、片手で持っているということは分類としては《片手斧》なのだろう。

 俺達にとっては嫌な得物だが……敵は片手武器なのにも関わらず、盾を持っていない。その点だけは攻めやすくて助かる。

 まあ敵の設定を考えれば、盾を持つ必要性がないだけかもしれないが。


「グルラアアァァァアッ!」


 森林中に響きそうな雄叫び。

 それが意味するのは挑戦者を威圧するか、はたまた己に挑む者が居ることへの歓喜か。

 その真意は俺には分からない。分かることがあるとすれば、それは生き残れるのはこの戦いの勝利者のみということ。

 俺達は何度も生き返ることは出来る。またこの試練に挑めば、同じ戦士と戦うことは出来る。

 しかし、それは果たして今目の前に居る戦士と同じ戦士なのか?

 このゲームに個体というものが存在するのかは定かではない。ただ全ての敵が同じ種族であっても同じ行動を取らない以上、厳密に同じ存在はいないと言えるのではないだろうか。

 そう考えると、この手のボスには一段と負けたくないと思える。


「……あまり人のこと言えないのかもな」


 脳裏に浮かんだ人物と同じと思うと、自嘲的な笑みが浮かびそうになる。

 それを押さえるように両手でそれぞれ柄を握り、気持ちを切り替えるように一気に抜き放つ。

 右手には黒、左手には白。マイが俺のためにシャルに頼んで作ってもらった一対の剣が太陽の光を浴びて輝いている。

 今回のクエストに挑むに当たって武器の耐久値は全快させている。それだけに煌く刀身は頼もしいばかりだ。

 ただ、下手をすれば今回の戦いで破損する恐れがある。多少ならば修復も可能ではあるが、刀身が根元から折られでもしたら完全にアウトだ。

 もしもそうなったら……俺は師匠と幼馴染から何かしら言われるだろう。言われないは言われないで嫌なものだが。


「なあ真友、もしもこの戦いでこの剣が壊れたら俺はあとでどうなると思う?」

「何故このタイミングで聞く? と言いたいところだけど、多分あまり考えたくない展開になるんじゃないかい」

「だよな……一緒にクエストに挑んだお前も同罪になったりして」

「嫌なことを言わないでくれ。可能性がありそうなだけにこっちまで憂鬱な気分になる」


 この発言が俺と真友の中で、俺の師匠や幼馴染の認識がそれほどズレていない良い証拠だね。

 まあ真友に絡みそうなのは幼馴染の方だとは思うけど。あいつはすぐ真友をおもちゃにしたがるし。


「そういう未来を訪れさせない方法はただひとつ。武器も含めて俺達が生き残るしかないな」

「さらっと私にプレッシャーを掛けないでくれるかな。本来の私は壁役担当じゃない」

「それは分かってるって。たとえこの剣が折れたとしてもお前を責めたりしない」


 ぐったりとしてああだこうだ言うかもしれないが、最終的にはあの子達に土下座でも何でもして許してもらうだけだし。


「そう言われると余計にプレッシャーなんだが……まあいい。シュウくん、私はこの戦いで君を全力で守ろう。だからそれに見合った成果を見せてくれ」

「場合によっては俺がお前を守ることにもなるんだけどな。まあやれるだけのことはやるさ」


 それぞれ武器を構え、敵の動きを観察する。

 だが敵は一向に動こうとしない。中段に武器を構えてはいるが、その姿勢は挑戦者に先手を譲るチャンピオンのようだ。

 敵の役目は、俺達が水龍に挑める勇者か見極めること。猛者として勇者である俺達に胸を貸してくれると言うのなら、ありがたく貸してもらうことにしよう。


「行くよシュウくん」

「ああ」


 シリュウは敵の注意を引くために正面から突貫。俺は側面に回り込むように走り出す。

 この瞬間、俺達の技の試練。歴戦の戦士への挑戦が始まった。



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