第3話 「ワタシの王子様になってください」

 はい、ただ今下校中です。

 多少弱まっていますが雨は未だに降り続いております。なので間違いなく家に着く頃には足元がびしょ濡れになることでしょう。傘って上からの攻撃しか防げないし。背が高いと歩幅も大きくなるから濡れやすくなるし。

 まあ濡れるのは足元だけではないんですがね。隣を歩くシャルの方に傘を傾けてるので肩も絶賛濡れ濡れです。


「いや~相合傘なんて実に青春の謳歌。胸がドキドキしちゃいマスネ」


 あなたの表情と声からは全くドキドキが伝わってきません。

 ドキドキしてるって言うならもう少しそう聞こえるように言ってください。こちらとしてもリアクションが取りにくいので。


「というわけでシュウ、腕を組みましょう」

「何がというわけなの?」


 俺の両手はかばんと傘で埋まってるんですよ。

 組もうと思えば組めるけど冷静に考えて。腕を組みやすいのはかばんを持っている方、でもそっちで組むとシャルさんが傘から出ちゃうからびしょ濡れになる。

 逆に傘を持っている方で組まれると、傘を持っている身としては傘が差しづらく濡れる可能性が出てくる。


「考えるな、感じろ」

「俺は宇宙に出て進化した人類でもないし、変革もしてない。何か伝えたいなら言葉を使って。というか、互いが最も濡れずに帰るには現状を維持するのがベストなことくらいシャルさんも分かるよね?」

「それは分かりマス。しかし! せっかく相合傘イベントが発生しているんデスヨ。それにワタシの目的は、幼馴染は負けヒロインというジンクスの破壊。なら何かしら行動を起こさないといけないじゃないデスカ! ここは……ワタシの距離ですしおすし!」


 何か今日のシャルさん、いつも以上に残念だよね。

 特に最後のはないわ。どうせやるなら真面目に言い切って強引に腕を組みなさいよ。中途半端なのがお兄さんは1番いけないことだと思います。


「それに……シュウ、考えてもみてください。ワタシと腕を組むということは、必然的にワタシのグレートなオパーイの感触を楽しめるということ。相合傘という状況故に密着度は普段より5割増し。つまりオパーイの感触も5割増し!」


 なるほど。

 でも相合傘じゃなくても密着具合って変わらない気が。それに


「その5割って数字はどこから出てるんだ? バカ言ってないで普通に歩け」

「シュウはワタシのオパーイ触りたくないんデスカ!」


 そんなの……触りたいに決まってるじゃないですか!

 だって僕、男の子だもの。最近お尻とか太もももつい見ちゃうようになったけど、最も見ちゃう場所はオパーイだもの。

 触りたいか触りたくないかって聞かれたら触りたいに決まっている。大体オパーイを触りたくない男なんていない!

 とは言えないので性癖を押し殺した常識的解答をしたいと思います。


「女の子がそんなこと言うんじゃありません。時と場所を考えなさい」

「ちゃんと考えてマス。雨が降っているので辺りは暗いですし、雨音でこの会話はワタシ達以外には聞こえていません。ワタシが公園にシュウを連れ込んで押し倒してもバレません!」


 いや場所によってはバレるでしょ。

 というか、雨が降ってる日に外で押し倒すのはやめてもらえませんかね。制服が汚れるでしょ。

 汚したら親に怒られるんだからね……シャルに押し倒されたって言ったら笑顔で許される可能性はあるけど。赤飯どころかバウンディ家とパーティーするかもしれないけど。よし、考えるのはやめよう。見るべきものは現実現実。


「そうか」

「分かってくれましたか!」

「ああ分かった。お前がエロいことばかり考えている変態だってことだがな」

「シュウ、言っておきますが女の子は男の子が思ってるより綺麗な生き物じゃないデスヨ。エロいことだって考えますし、変態染みたことだってします。おっぱい揉んだり、おっぱい揉んだり、おっぱい揉んだり」


 何でおっぱいだけなんだよ、そこはおっぱいだけでなくお尻とかも触れよ!

 というのが俺を始めとした男子の気持ちだとは思うが、声を大にしては言えない。口に出すことも出来ない。だってここ外だから。人通りだってないわけじゃないから。


「ちなみにワタシは揉むことより揉まれることの方が多いデス」


 でしょうね。

 あなたのお胸のサイズはGカップ。見ただけで圧倒的な存在感を与える大きさだもの。学年どころか学校単位で考えてもトップクラスでしょうよ。


「ただやられてばかりではワタシの気が済みません。故に……時々悠里さんのお胸を堪能してマス!」


 おい金髪メガネ、俺の真友になんてことしてんだ!

 お前だけ揉むとかずるいぞ。俺だって思う存分揉んでみたいのに。でも事故でもないのにお胸を触ったら軽蔑どころか絶交されるかもしれないし。

 くっ、これが超えることが出来ない性別の差か……金髪メガネ、今日ほどお前が羨ましいと思ったことはないぞ。


「このまま順調に進めば、悠里さんの胸はワタシが育てたと言える日が……あれ? でも今以上に悠里さんの胸が育ったらワタシと同じランクになるのでは。そうなるとワタシの優位性がひとつ消えることになり、やはり幼馴染は負けヒロインというジンクスを……くそぅ! ワタシは……ワタシは知らない内に敵に塩を送っていたというのか!」


 いやいや、あっちからしたらセクハラされてただけだから。

 そもそも、お前はカザミンと誰を巡って争ってるんだよ。まあたまに真友のくせに幼馴染のワタシよりイチャコラしてんじゃねぇ! みたいなことはしてるけど。でも女性としてのバトルはしてないよね。恋の戦争とかしてなかったよね。


「シュウ、ワタシはいったいどうすれば……」

「どうするも何も見た目は悪くないというか、むしろ良い方なんだから中身を綺麗にすれば男も寄ってくるのでは?」

「なるほど、その手が……って、それはワタシの内面がダメダメって暗に言ってるじゃないデスカ!」

「いやいや、別にダメダメとは言ってない。俺が心の中でダメダメだって思ってるだけだ」

「今言った! たった今言葉にした! フォローすると見せかけて追撃を加えるとかシュウは鬼畜デス。悪魔デス。もっとワタシを罵ってくださいハァハァ」

「息を荒くするのやめてもらっていいですか。今のあなた、普段の3割増しくらいで気持ち悪いんで」


 今すぐやめないと傘から追い出すのも検討するよ。雨を浴びればそののぼせた頭も冷えるかもしれないし。

 なんて考えても実行はできないんですがね。

 それが元で風邪でも引かれたら困るから。放課後の待ち時間が無駄なものに変わっちゃうから。


「微妙に距離感のある喋り方にしないでください。ワタシはもっと粗雑かつ乱暴に罵られたいんデス」

「真面目な顔で何言ってんの? 青春がどうのって言ってたのにお前の青春でそういうことなの?」

「いやいや、さすがのワタシもそこまで狂ってません。こういうのも青春に含まれると考えているだけデス」


 確かに学生時代の性的体験は青春には含まれるだろう。

 でもさ、恋人でもない男に自分を罵ってくれって頼むのが青春と呼べるのかは微妙じゃない?

 ドMな少女がドSな性癖を持っている少年に自分をいじめるように頼む同人誌はあったりするけど。俺もその手のものを読んだことはあるけど。

 でもそれは創作だから興奮できるのであって実際に自分がやって興奮を覚えるかというと怪しいのが現実です。シャルが本気で言っているのなら俺はそれに応える自信はありません。


「お前の考えは分かった。だがここからはもう少し健全な話をしよう。健全な時間がなければ、ハレンチな話は真の輝きを見せない」

「確かにマンネリ化してシュウが女性に性癖興奮を覚えなくなったらワタシの未来にも関わりマス。いいでしょう、ここからは健全なトークをしてやろうじゃないデスカ」


 分かってくれてありがとう。

 でもあなたの未来予想図に俺を組み込むのをやめてね。頭の中で考えるのは自由だけど、俺には俺の未来があるから。

 なので、もしあなたの描く未来予想図を実現するつもりならちゃんと話し合いの席を設けてください。人の親を懐柔して逃げ道を塞ぐような真似は絶対にしないように。


「しかし……健全ってどの程度までが健全なんでしょう? 二次元を嗜むワタシ達にとってはおっぱいも日常的に使う言葉。そのへんがアウトにとなると二次元トークも出来ないのでは? もしやシャルさん絶体絶命なのでは!?」

「ひとりで盛り上がるのやめろ。テンションを落とせ。あれこれ考えず日常会話を心がけろ」

「あれこれ考えないとワタシの桃色の頭脳はすぐあっち方面に行っちゃいマス」


 断言するな。

 桃色の思考を排除する努力をしろ。

 その思考で許されるのは、エチ友100人作る野望を持った女子高生くらいだ。現実を生きるお前には許されない。お前自身が許しても俺は許しません。そんな不埒な子になっちゃったらパパさん達泣いちゃうから。


「はっ!? シュウ、健全な話が出来る方法をひらめきました!」

「正直信用できんが話だけは聞いてやろう。とりあえず言ってみろ」

「思い出話をすればいいんデス。思い出話とは過去の積み重ねがなければ出来ません。シュウと最も思い出を作っているのはワタシ。つまり幼馴染属性をフルに活用できる展開になりマス。それは必然的に幼馴染は負けヒロインというジンクスを」

「あぁそのへんの話はいいや」

「最後まで言わせてくださいよ! そういう雑な扱いが幼馴染という属性をダメにするんデスヨ!」


 幼馴染という気心の知れた相手だから雑な扱いが出来るとも言えるのだが。


「あんまり怒るなよ。別にお前の案を否定してるわけじゃないんだから」

「ワタシの破壊したいジンクスへの想いを言わせてくれない方が案を否定されるよりも激おこぷんぷん丸デス」

「で、何の話すんの?」

「スルー!? くっ、今日のシュウは鬼畜デス。悪魔デス。構ってちゃんのワタシに放置プレイとかド畜生もいいところ。どうせやるなら罵ったり、焦らしてくれればいいのに」


 そういう関係はもう幼馴染ではなく主従関係です。

 大体さ、俺はこんな幼馴染を見捨てることなく相手してるんだよ。部屋に無断で入っても怒ったりしないんだよ。そんなにひどいことしてないと思うんだけど。


「いつからシュウはこんな子に育ってしまったんでしょう……昔はワタシのことを大切にしてくれる王子様だったというのに」

「それはお前の中の思い出が美化されているだけでは?」

「いえいえ。昔のシュウはとても優しかったデス。手を繋いで登下校してくれたり、男友達よりもワタシを優先させてくれたり、ワタシが雨の日に傘を忘れた時はぶっきらぼうながらも一緒に帰ろうと言ってくれたり」


 最初とふたつ目はあなたがまだこっちに慣れてなかった頃の話だよね?

 最後のに至っては現在進行形で同じことをしていると思うんですが。つまり現在の俺と過去の俺の行動はさほど変わっていないと言える……のでは?


「まったく……あの頃のシュウはどこに行ってしまったのでしょう」

「さあな」

「あの頃のシュウを返してください」

「あの頃から成長して今の俺になってるんだが?」

「ワタシの王子様を返してください」

「無茶言うな。過去の俺だけ取り出せるわけあるか」

「ち、ああ言えばこう言い寄ってからに……」


 おい、何でお前が舌打ちするんだよ。舌打ちしたいのはこっちだし、ああ言えばこう言ってるのはそっちだろ。責任転嫁するな。


「どうすれば納得するんデスカ。ワタシのシュウを返してくれるんデスカ!」

「お前こそどうすればその無茶な要求を引っ込めるんだよ。ゲームでも買えば方向性を変えるのか?」

「え、買ってくれるんデスカ? いや~ちょうど欲しいものがあったんデスヨ。ただ文化祭の準備で先行投資という名の自己満足でお金を使う過ぎまして。なので非常に助かり……って、そんな手に引っかかりませんよ!」


 あと1歩のところまで行ったのに何を言っているのだろう。

 多分もうひとつ買っていいとか条件追加したら簡単に折れるよね。それくらいあなたの精神は二次元への衝動で脆くなってるよね。


「ふぅ、危ない危ない。物で釣ろうとはシュウも汚い大人になったものデス。そんなんじゃ貰い手がなくなりますよ」

「そういうセリフは普通男ではなく女が言われるものでは?」

「男女平等の時代に何を言っているんデスカ。というか、それは暗にワタシの方が貰い手ないだろって言ってますよね? 絶対言ってますよね!」

「言ってねぇよ」


 そういう被害妄想やめなさい。

 見た目や性格で考えれば俺よりそっちの方が貰い手が居る確率は高いでしょ。

 まあ結ばれてからどうなるかは知らんけど。もうお前にはついてけぇよ、って言われる確率もシャルの方が高そうだし。


「なら貰い手が見つからない時はシュウがもらってくださいよ!」

「何で今の流れで俺が責任を取ることになるんだ……」

「安心してください。タダでとは言いません。ワタシもシュウに貰い手がなかったらもらってあげマス」

「それって結局お前が得するだけでは? 大体お前が求めているのは今の俺ではなく、過去の俺じゃなかったっけ?」

「タイムマシンもないのにどうやって過去のシュウに会うんデスカ。もっと現実を見てください」


 どの口がほざきやがる。

 さすがに我慢の限界が近かったので、シャルから傘を外そうか本気で考えた。しかし、俺が行動を起こす前にシャルはグイっと身体を寄せ……


「だから……今のシュウがワタシの王子様になってください」


 どういう意味なのか分からなかった。

 いや正確には推測は出来た。だがその推測で正しいのか、別の解釈があるのではないかと考えてしまう。

 何故なら相手はシャル。これまで何度も適当な言動で俺を惑わせてきた幼馴染なのだから。


「おま、それどういう……」

「え? そのままの意味デスヨ。ワタシはシュウにもっと優しくされたい。尽くされたいんデス。マイさんや悠里さんとイチャコラするなとは言いませんが、ふたりにする倍くらいワタシとするべきと考えマス。だってワタシは幼馴染だから!」


 幼馴染とか全然関係ねぇ。というか、それって王子様じゃなくて下僕じゃん。


「というわけで、これから高校卒業まで毎日朝は起こしてください。そうすれば毎日夜更かししても問題ないので」

「問題あるわ。どう考えても体調を崩すのがオチだし、人の時間を奪うような真似をするならせめて自分でも起きる努力はしろ」

「えーいいじゃないデスカ。可愛い幼馴染のお願いなんデスヨ。せめて文化祭が終わるまでは起こしに来てください。絶対今日は熟睡して翌朝寝坊するんで」

「何の自信だよ……まあそれくらいならしてやってもいいけど」


 そもそも、言われなくてもやるつもりだったし。


「さすがシュウ、シャルちゃん感激デス。お礼にとびっきりのハグをしてあげましょう!」

「いい。俺に感謝するならその想いを胸にきびきび歩け」

「言葉にしないと想いは伝わらないんデスヨ!」

「それはそうだが、今お前がやろうとしていることは俺にとっては悪意でしかないんだよ。雨の日にそういうことしようとするな」

「ふむ、つまり雨が降っていないまたは室内でなら良いと」

「自分に都合の良い解釈をするな」


 ……って、聞いてねぇ。

 いや聞いてたとしても考えを変えるとも思えないけど。やれやれ、何で俺の幼馴染はこうなんだろう。


「シュウ、何だか疲れてマスネ」

「誰のせいだよ」

「その疑問、この名探偵シャルが解決しましょう!」

「お前の場合、名探偵じゃなくて迷探偵だろうが。いいから黙って歩け。そうすれば俺も元気になるから」

「ワタシはシュウと話したいんデス! この熱い想いに蓋をしろとでも言……ちょちょちょちょっ雨が盛大に掛かってマスヨ!? 傘がワタシの頭上から消えちゃってマス! このままじゃワタシ……濡れるッ!」


 それは雨に打たれてって意味ですか?

 それとも快感的な意味で言ってるんですか?

 何にせよバカなことばかりする子は雨で頭を冷やした方が良いと思います。


「え、あっ、ちょっ、シュウ置いてかないでくださいよ。さすがにふざけすぎました。謝りますからワタシを傘に入れてくださ~い!」


 と言いながらがシャルが追いかけてきたけど……どうしたと思う?

 答えはね、ずぶ濡れになる前にちゃんと傘に入れてあげました。だって風邪でも引かれたら困るもの。新しい弱みを握られるようなものだもの。

 そのあとはちゃんと家に送り届け、風呂にでも入って身体を温めろ。今日はさっさと寝ろよって言って別れたよ。

 何か今日はどっと疲れた。これで俺が体調崩したら……考えないでおこう。病は気からって言うし。というわけで、今日はおしまい。



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