第10話 「必殺! お兄さんガード♪」

 というわけで、川澄家にやってまいりました。

 正直に申しまして非常に緊張しております。

 以前アキラさんを送る過程で家の前まで来たことはあるんだけど……うん、相変わらず大きな家だ。うちより一回り、下手したら二回りは大きい。大きい家に来ると緊張するよね。

 それに……現状アキラさんとの関係を拗れてるわけで。

 しかもさ、チャンスを作ってくれた妹さんを悪く言うのもあれなんだけど。電話越しに色々聞いちゃったせいで余計にアキラさんとの関係が拗れた可能性もあるよね。

 なのでアキラさんと話すべきことは分かっていても、話の切り出し方が全然分かりません。


「……帰りてぇ」


 でも帰ったらアキラと仲直りするチャンスが……妹さんからも何か言われそうだし。だけど親御さんとか居たらどうしよう。俺、川澄家のご両親に会ったことないんだけど。

 何で俺ひとりで来ちゃったんだろう……。

 別にひとりで来いとか言われてないんだからシャルなりカザミンなり連れてくれば良かったじゃん。くそ、過去に戻れるなら戻りてぇ。

 でも……どうせ戻れるならアキラに告白した日まで戻りたいね。そしたら今みたいなことにはならないだろうから。この世界に修正力みたいなものがない限り。

 はい、バカなことを考えるのはここまでにします。

 だってもう家の前まで来ちゃってるし、真夏の昼間にいつまでも外に居たら体調崩しちゃうから。

 なので半ば諦めるように覚悟を決めてインターホンを押すことにしました。


『……はーい、どちら様ですかぁ?』

「鴻上と申しますが」

『あ、お兄さんじゃん。いらっしゃ~い、すぐ行くからちょっと待ってて』


 いやー妹さんで良かった。

 初っ端アキラさんというのも気まずいし、親御さんが出てきても「娘とはどういう関係ですか?」的な流れになると面倒だもの。

 まあでも……このあと最低でもアキラさんとは向き合って話すことになるんだけどね。そう考えると妹さん以外が出てても大差なかったのかな……

 乾いた笑みを浮かべて待つこと数秒、川澄家の玄関が開く。


「どうもどうも~」


 にこやかな顔で近づいてきたのは、150センチ前半の少女。声からしてこの子がアキラの妹のアカネだろう。

 小柄なのは先ほどの電話は分かっていたが、身長を抜きにしてもアキラとはずいぶんと雰囲気が違う子だ。

 まずは髪色。アキラは綺麗な黒髪だが、この子の髪は亜麻色だ。長さも雨宮やカザミンより長いが、アキラほど長くもない。肩に着くか着かないか……ギリギリでショートヘアーと呼べる長さだろう。

 服装もインナーの上に薄紫色のパーカーを着崩しており、胸が強調される感じになっている。何でもきっちり着るタイプのアキラとは真逆だ。

 あまり外を出歩かないのか肌も日本人にしては白く……何というか全体的に色素が薄い印象を受ける。


「今日は来ていただいてありがとうございます。さっき電話で話しましたけど、こうして顔を合わせるのは初めてなんでもう一度自己紹介を。わたしが川澄玲の妹のアカネでーす」

「これはどうもご丁寧に。鴻上秋介です」

「うんうん、わたしに合わせて真面目な対応。さすがお兄さん分かってるぅ~♪」


 妙にテンション高いなぁ。

 まあ俺はこの子について知らないことばかりだから、これがこの子の普通なのかもしれないけど。


「ささ、中に入っちゃって。今日も暑いからねぇ、早くクーラーの効いたリビングに行きましょー」


 マイペースなアカネさんを追って川澄家の中へ。

 予想出来ていたことだけど実に豪華。庶民の俺からするとエリート感を感じる内装ですね。

 クーラーの効いたリビングは火照った身体には魅力的だけど、緊張やら気まずさで足が重くなっちゃう。


「どったのお兄さん? もしかして怖気づいたとか。ダメだよぉ、ここまで来たんだから覚悟決めないと」

「いやまあ、そうなんだけどね」

「もうしょうがないなぁ、じゃあアカネちゃんが一緒に行ってあげよ~」


 そう言ってアカネ氏は俺の腕に抱き着くように腕を回してきた。

 なので着崩したパーカーによって強調されているお胸が当たっております。

 アカネ氏の年齢はアキラさんのひとつ下。つまり中学3年生。電話で聞こえてきた情報によると、少し前までD寄りのCだったらしい。なら今はDあってもおかしくない。

 さらに中学3年生という年齢を考えると、まだまだ発展途上という可能性は大いにあるわけで。実に今後が楽しみですね……じゃなくて。


「あのーアカネ氏」

「うん?」

「一緒に行ってくれるのはありがたいんだけど、この状況は色々と不味いと思うのですが。その、アカネ氏のも当たっちゃってるし」

「ちっちっちっ、違うよお兄さん。当たっちゃってるんじゃなくて当ててるの」


 そっか、当ててるんだ。ならしょうがないね、で済む相手じゃないんだよな。これから会う相手。


「年頃の女の子があまりこういうことするべきじゃないと思うな。男なんてすぐ勘違いしちゃうんだから」

「普段はしないよぉ。今回はお姉ちゃんのことで迷惑も掛けただろうから応援の意味でやってるだけで。ま、この状態を見たお姉ちゃんの反応が知りたいってのもあるけど。わたしの中のお姉ちゃんってマジ汚ネェちゃんだから」


 最後のお姉ちゃんは絶対ただのお姉ちゃんじゃないよね。

 何か意味合いとしては、どこぞの『O★HA★NA★SHI』並みに本来のものから変わっている気がするんですが。


「あぁそうですか。でも出来ればリビングに入る前にやめて欲しいな。ただでさえ気まずいのにこんな姿見られたら空気が張りつめちゃうから」

「え、やだ」

「何故に?」

「だってわたしが面白くないもん」


 ……なるほど。

 外見や口調は違うけど、根っこの部分は俺の幼馴染に近いものがありそうだ。アキラがシャルのこと気に食わないのって、意外とこの子が関係しているのでは?

 なんて考えている間にリビングに到着しておりました。


「お姉ちゃん、お兄さんが来たよぉ」


 アカネが明るく話しかけた先には、間近な記憶にある女を捨てた状態のアキラ。ではなく、髪もきちんと手入れされ、隈もなくなって健康的な顔色のなった彼女の姿があった。

 俺と視線が重なるとすぐさま顔を背けてしまったが……徐々に目線をこちらに戻す。目つきが鋭くなっているところを見るに妹さんと引っ付いていることがアウトのようだ。


「人の妹をはべらせてご登場とは良い趣味ね」

「えっと、これはですね……」

「わたしがお兄さんLOVEだからだよぉ」


 予期せぬアカネ氏の爆弾発言。それと同時に行われた腕から胴体へのハグ変更。

 ふわっと香るアキラに似た女の子の匂い。発展途上の推定Dカップの感触に俺は思わず固まった。

 冷静なアキラまでも今起こっていることを見て驚愕の顔で固まっている。


「実はぁ、今日のこれもお姉ちゃんのためとか言ってわたしがお兄さんに会ってみたかっただけだったり」

「……ア……アカネ、今すぐその人から離れなさい」

「何で?」

「あんたが初対面の相手を好きになるはずないでしょ」


 アキラさんって妹さんには少し口が悪くなるよね。まあ家族だから普通のことかもしれないけど。でもアキラさんの「あんた」ってちょっと新鮮。


「確かにお兄さんとは初対面だけど、お姉ちゃんから色々話は聞いてたもん。それで趣味も合いそうだなって思ったし、実際に話してみたら結構わたし好み。なので全然おかしくないと思います!」

「また適当なことを……あんた、もう子供じゃないのよ。付き合ってもない男とそういうはしたないことするのやめなさい」

「中学生はまだまだ子供ですー」

「あんたね……!」


 アキラさんの瞳の鋭さが一時的にランクアップ。

 この流れ非常に良くないと思います。アカネちゃん、これ以上お姉ちゃんを煽るのは悪手だと思うなぁ。お兄さんはこのへんで終わらせて欲しいのですが……


「必殺! お兄さんガード♪」


 え、あの、ちょっ!?

 アカネ氏、俺を盾にしてもアキラさんを倒すことは出来ませんよ。せめてアキラさんの魔の手からあなたを守ることくらいしか出来ないんですが。

 でもそれは俺としては断固として望まない状況であり。それに必殺というのは必ず殺すという意味であってですね、その意味からこの行動は外れてしまっているので今すぐ解除することをご提案したいのですが!


「秋介くん……今すぐそこを退きなさい」

「はい……あのー妹さん、このままだとお兄さんの命が危ないから放してくれないかな?」

「それは無理。そんなことしたらわたしがお姉ちゃんに殺られる」


 そのニュアンス、完全にやられるの『や』が『殺』になってますね。

 まあ目の前に迫るアキラさんの形相を見てると納得の表現だけど。でもアキラさんのこの状態にしたのは君であって僕ではないよね? だからこの責任は自分で取るべきだと思うんだ。


「秋介くん、退かないならあなたごと殺るわよ」

「うん、アキラさん少し落ち着こうか。俺には退く意思がある。しかし、あなたの妹さんがそれを許さない。つまり俺はあなたに殺られたくてこの場に留まっているわけではなくてですね……アカネ氏、マジで今すぐ離れてくれない? このままじゃお兄さん死んじゃう」

「大丈夫、死ぬときはわたしも一緒だよ。がしっ」


 より強い力で抱き着かれてしまった。

 このノリ……まるで口調の違うシャルさんがここに居るみたいだね。アキラさんと仲直りするためにここに来たのに、俺はアキラさんに殺されるのか。これもある意味因果応報というやつなのかな……。


「……なーんておふざけはここまでにして。はいお姉ちゃん、怒りを鎮めてイスに座りましょう」

「アカネ、それが通ると思ってるの?」

「思ってるよぉ。それとも……お姉ちゃんはわたしに逆らうの?」


 絶対強者。

 一見無邪気な笑顔を浮かべているだけなのに、そのように感じられる冷たく重いどす黒い何かがアカネ氏の笑顔には感じられた。

 それを向けられたアキラさんは、まさに蛇に睨まれた蛙状態である。

 この家のヒエラルキーが1発で理解できるね。あの笑顔がこっちに向いたらって思うと、俺も正直怖いです。似たような笑顔はシャルからも向けられるけど、それよりももっと怖いです。


「別に……そういうつもりは」

「そっか、じゃあ座っても問題ないよね。ささ、お兄さんも適当に座っちゃって。わたしは飲み物を準備するから」


 表情自体はあまり変わってないのに発する雰囲気が真逆だ。

 この子の切り替わる幅マジで激しい。ゼロから100じゃない。マイナス100からゼロを超えて100になるくらいの激しさだよ。

 故にアカネ氏の機嫌を損ねるのは不味い。

 そう直感した俺は、気まずさにグッと耐えながらアキラさんの向かい側に座りました。

 うわぁ……アキラさん、露骨に俺から顔背けてるよ。この状態からどう話を切り出せばいいんでしょうね。


「はいどぞー、粗茶ですが」

「あぁどうも」

「いえいえー、はいお姉ちゃんも」

「ありがと……ねぇ」

「うん?」

「何であんたのだけお茶じゃなくてココアなの?」


 俺としてはそこよりもアカネ氏の座った場所に疑問があります。

 普通こういうときって俺の隣じゃなくてさ、姉であるアキラさんの隣に座るものじゃないの?

 俺は今日が初対面みたいなものですよ。年上の異性ですよ。それなのに俺の隣に座るって……今時の中学生ってこんな感じなのかな。それともこの妹さんが変わってるだけ?


「それはココアの気分だから。もしかしてお姉ちゃんもココアが良かった?」

「別にそういうわけじゃ」

「またまたー、甘いもの好きなくせに。お兄さんの前だからって大人ぶるとかお姉ちゃん可愛い♪」


 自然体で姉を褒める妹。

 この構図だけ見れば綺麗なものだ。だがこの妹、笑顔で姉を辱めているようにしか見えない。

 でも恥ずかしさを我慢している赤面アキラさんって可愛いですね。普段の凛とした感じとのギャップが堪りませんよ。フラれた今でも心の底からそう思います。


「……秋介くん、何か言いたいことでもあるの?」

「いえ別に……仲の良い姉妹だなと」

「別に仲良くなんてない」

「えーひどーい。わたしは常日頃お姉ちゃんのためにご飯を用意して、お姉ちゃんの服を洗濯して、お姉ちゃんのゴミ部屋の掃除までしてあげてるのに」


 確かにひどいね。女性だからどうこうって言うつもりはないし、俺も母親にやってもらってる身ではあるけど。

 でも自分の部屋の掃除くらいしますよ。だってエッチぃ同人誌とか母親に見られたくないもん。そんなもので欲望を発散するならシャルちゃん襲いなさいとか言われそうだし。

 あのね母さん、二次元には二次元の良さってものがあるんだ。二次元で発散したい時があるんだよ。あまり身近な人間で発散してると罪悪感も感じちゃうから。


「その事実を人前でさらりと言うあんたの方がひどいと思うんだけど」

「だったら炊事・掃除・洗濯、全部お姉ちゃんがすればいいんじゃないかなぁ?」

「…………」


 アキラさん、そこはせめて何か言い返そうよ。

 やろうと思えばできることでしょ。今時の洗濯機は全自動だし、ご飯だって誰でも簡単に作れるようにインスタント食品が大量にある時代なんだから。


「さてさて、雑談はこのへんにして。お兄さん達に何があったのかはお兄さんが来るまでにお姉ちゃんにざっくり聞いたけど、ぶっちゃけわたしが口出すことでもないしね。わたしはそのへんで何かやってるんであとはご自由に」


 うわぁ……この妹、この場を乱すだけ乱して放り投げやがった。

 アキラさんと話せる場を作ってくれたことには感謝するけど、妙な空気にして明け渡すのはやめて欲しかったよ。話の切り出し方が本当に分からなくなっちゃったから。

 出来れば進行役を務めるとか最後まで責任持って欲しいんだけど。自分がやったことに責任を持つのは立派な大人になる第一歩だと思うし。

 なんて考えても仕方がないので、自力でどうにかしたいと思います。ただ少し時間が掛かると思うので、ここから先は次回にさせてください。



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