第4話 「こんな格好するとか聞いてない!」

 さて、ついに文化祭を迎えた。

 本来ならどこを見て回るか、何を食べるか、誰と一緒に過ごすのか。そんなことで胸がいっぱいになる日だ。

 しかし、俺を含め一部の人間にはそれ以上に考えなければならないことがある。

 それは……ずばり自分のクラスの売り上げ!

 何故ならうちのクラスとシャルのクラスは勝負を行うからだ。

 と言っても勝ったクラスにご褒美があるわけではない。単純に雨宮とシャルが自身の所属するクラスの売り上げで勝負するだけ。勝者に与えられるのも俺とのデート権という一般には需要がない代物だ。

 承諾したわけでもないのに賞品にされた俺としては、ぶっちゃけどっちが勝とうとどうでもいい。下手にどちらかに肩入れすると変な噂が流れるだけだし。

 でも……俺、雨宮さんと同じクラスなんだよね。

 だから必然的に雨宮さんの味方をする羽目になるというか、うちの文化祭実行委員からは基本的に雨宮さんとセットで扱われるの。

 その証拠に


『中で来客数とか数えるの面倒だから整理も兼ねて廊下で受付やって。雨宮さんにちょっかい出す人が居たらちゃんと守らないとダメだよ』


 と言われ、現在雨宮さんの隣に座っております。

 まあ文化祭ですし、クラスの一員ですから受付をするのは構いません。サボって白い目で見られると今後の学校生活過ごしにくいし。

 だけど、これだけは言わせて。

 雨宮にはボディーガードとか不要だと思います。だって強いから。とっても強い女の子だから!

 いやね、俺も分かってはいるんですよ。普通に考えたら女子より男子の方が力は強いし、俺も男子だから人並みには女の子は守るべき対象だって思ってます。

 でもね……世の中には規格外の人間も居るんですよ。

 そのひとりが雨宮さん。男子だろうと一撃で沈めることが出来る雨宮式戦闘術の使い手であるため、単純な戦闘力は俺よりも上です。

 それなのに俺が助けに入るとかただの足手まといというか、かえって怪我をしに行くようなものな気がするんだ。

 故に何もできない人間は何もすべきではない。

 このケースには置いては、鴻上さんはこう思います。


「鴻上、どうかした?」

「いえいえ、どうもしてません。ただ雨宮さん可愛いって思ってるだけです」

「ん、ありがと。でも鴻上、わたしの方を見てない」


 え、いや、見てましたよ。

 あの小さな身体から想像できない馬力があるんだよな。あの小さな拳が凄まじい凶器になるんだよな。

 なんて思いながらチラチラと見てました。

 何で直視しないのかって?

 ふ……この肉体に刻まれた恐怖はそう簡単に消えないのさ。


「今日までにどれだけ雨宮を見てきたと思ってるんだ? 今の雨宮の姿はたとえ目を閉じていたもちゃんと見える」

「今日も最終調整で少し制服が強化された。わたしとしては過去のわたしよりも今のわたしを見て欲しい」


 そ、そうなの?

 そっか、じゃあちゃんと見ないとね。見とかないとあとでクラスの女子に何言われるか分からないし。

 ……てか、本当に変わった?

 全体的なフワフワ感が強化されたようにも思えるけど、変わってないと言われれば変わっていないような。もしや頭に付いているリボンが……でも前からあったしな。いったい何が強化されたって言うんだ……


「どう鴻上」

「……良いと思います」

「どこが?」

「全体的に」

「特に?」


 何だろうね。

 この彼女から「今日のわたし、いつもと違うんだけど分かる?」って言われてる感じ。精神的に凄い圧迫感を覚えて苦しいよ。雨宮の無表情フェイスが迫ってくる幻覚まで見えそうな気分。


「えーと……」

「鴻上」

「いや違うよ、違いますよ。決して答えられないとか、興味がないとかそういうわけじゃなくてですね」

「ならどういうわけ?」

「それは……正直雨宮さん自体が可愛いので制服なんて二の次と言いますか。制服あっての雨宮じゃなくて、雨宮あっての制服みたいな?」


 俺、何を言ってるんだろう。

 でもさ、仕方ないじゃん。大きな変化があるなら俺も分かるけど、毎日微妙な変化をずっと見せられてたんだよ。途中で空白があれば違和感も覚えるかもしれないけど、毎日見てたら逆に分からなくなりますって。

 大体さ雨宮さん自体が可愛いんだから何を着ても可愛くなるって。顔しか見えないようなぬいぐるみを着てても俺は可愛いと思うし。まあ女の子らしいというよりはマスコット的な可愛さになるけどね。

 なんて考えている場合ではない。今はどう雨宮との会話を乗り切るかが大事だ。今みたいな適当な答えで納得するとは到底思え……


「そ、そういうの反則……」


 納得するどころか照れたぁぁぁぁッ!?

 心を込めて言ったわけでもなかったのにこれはなかなかのガチ照れだぞ。もしや雨宮さん、普段よりテンションが上がって感度上がってる?

 いやまあ何にせよ乗り切ることが出来て良かった。

 もうすぐ生徒や外部の人間が文化祭を楽しみ始めるだろうし、そうなれば雨宮の意識も自分の仕事の方に向くはず。そうなれば安全な時間が流れ始め……。


「さあ悠里さん、ワタシ達の力でバンバン客を呼び込みマスヨ~!」

「ちょっシャルさん、放して!」

「放してと言われて放す人物がどこにいるんデスカ。往生際が悪いデスヨ」

「悪くていいよ。こんな格好するとか聞いてない!」


 一際騒がしい声に意識を向けてみると……思わず言葉を失った。

 どこぞの金髪メガネが存在意義と自称しているメガネを外し、美人度を増した状態で黒のゴスロリ衣装を着ているのはどうでもいい。

 いや本当はどうでも良くないけど、露出は少ないのに凄いエロみはあるけど、でも今はそれ以上に重要なことがある。

 それは……あの爽やか系イケメンフェイスなカザミンが、誰もがボーイッシュ系だよねって言うであろうカザミンが、ザ・女の子みたいな恰好をすることに羞恥心を覚えるあのカザミンがだよ。


 フリルたくさんのゴスロリファッションしてるぅぅぅぅぅぅううぅぅぅッ!


 色はシャルと対となる白。

 爽やかな色合いだけにカザミンには似合う色のはずだが、フワフワなゴスロリな衣装のせいか……何ていうか見ちゃいけないものを見ている気分になる。

 だけど見ちゃう。

 だってカザミンのゴスロリとか貴重だし。たとえゴスロリでもカザミンのお胸の存在感は健在だし。こんな格好は自分には似合わないって思って恥ずかしがってるカザミン可愛いし。


「え~悠里さんには衣装用意してるってちゃんと言いましたよ」

「確かに衣装があるとは聞いたよ。でもこんな衣装だとは聞いてないから。何で私の衣装がこんなフワフワしたものなのさ。もっとこう色々とあるでしょ。私に似合うのが」

「男装系デスカ? ふ……そんなものたとえ用意したとしても悠里さんに着せるわけないじゃないデスカ。今日はお祭りなんデスヨ。誰もが普段とは違う何か、つまりギャップを求めているんデス!」

「だからってこっちのギャップを誰が求めてるって言うのさ!」


 はい、僕は求めています! ここにそのギャップに満足している者がいます!

 ……失礼。ちょっと興奮し過ぎたようだ。落ち着くためにここで少し解説をしようと思う。

 今カザミンとシャルが着ているのは、国民的少女向けアニメ『魔砲使いゴスピュア』の主人公達の衣装。

 この作品、主人公のキャラデザや衣装は凄く可愛い。

 だがタイトルに魔砲とあるとおり、どこぞの白い魔王様ばりの極太ビームを放つ。故に一部の人間からはゴスじゃなくてゴリじゃん! と言われているとかいないとか。

 いや、正直そんな雑学はどうでもいい。

 今大切なのは、あちらの衣装のクオリティはうちの衣装を遥かに凌駕しているということ。つまり客の意識はあちらのクラスに向きやすく、売り上げはこちらよりもあちらが上回る可能性が高い。

 だがしかし、それ以上に!

 たとえゴスロリファッションに身を包もうとも、あのFとGのツインマウンテンは圧倒的な存在感を醸し出している! これが重要だ!


「少なくともあそこにひとり求めてマス!」

「誰! ……よよよよよりによって君か!」


 そう俺だ!


「何も言われてないけど、何か凄くムカつく! それ以上に恥ずかしいからこっちを見ないで!」


 えぇーこれから大勢の人に見られるのに。

 俺くらいの視線でそうなってたら今日1日持ちませんよ? だから見ます。だって見たいから!


「シュウ、悠里さんばかりに熱い視線を送ってないでワタシのことも見てください。今日のワタシは輝いてマス!」


 キラ☆ みたいなポーズするなら前かがみになるんじゃありません!

 今にもはち切れるんじゃないかって思われるお山の方に意識が行っちゃうでしょ。

 あと自分で輝いてるとか言うのもどうかと……いや確かに目と周りの空間は輝いてるように見えるけど。日光の射し方のせい? それとも俺が疲れてるだけなのかな。

 というか、何でシャルはあんなにウインクを連射してるんだろう。アニメだったらハートが飛んできそうな感じだけど、さすがにここは現実……


「――ん」


 思考を遮るのに鳴り響いたのは風の唸り。

 野球部顔負けの発生源は、雨宮の手に持った客寄せ用の看板だった。

 えー雨宮さん、その看板は振り回すものではないよ。そもそも、あなたのフルスイングに耐えられる強度はなかった気が。そのへんは持ち前の技術で解決ってことなんですかね。でもそれ以上に


「雨宮さん……何で今空間を叩き斬るように看板を振ったの?」

「どこぞの女狐達がうちの受付に色目使ったから」


 これ解答としてオーケイ?

 オーケイとするなら雨宮さんには俺には見えない何かが見えてたことになるんだけど。俺に対してハートの矢でも放たれてたのかな。

 色々と気になる点はあるけど、これ以上は怖いので聞けません。

 だってあの友達を大切にする雨宮さんが、友達を女狐とか言ったんだよ。

 つまり雨宮さんは勝負に勝つ気満々で対抗心バリバリ。シャルとカザミンは敵だって認定してるってことでしょ。

 その状況であっちを庇うような発言は危険。死を意味すると思うんです。俺はまだ死にたくありません。だってまだ今日何もしてないから。


「ねぇシャルさん、何か私まで凄く睨まれてる気がするんだけど!? シャルさんが雨宮さんと何か勝負してるってのは聞いたけど、何で私まで敵視されてるの!」

「それはデスネ……まあ簡潔に言えば、ワタシと同じクラスだからでしょう。今回の勝負、勝利条件は相手のクラスよりも売り上げが良いことですから」

「いやいやいや! だとしても、だとしてもだよ。それなら他の子だって敵視されても良くない? でも雨宮さんの雰囲気からして敵視してるの私とシャルさんだけだよね?」

「それはほら、うちのクラスの客寄せの筆頭ってワタシ達じゃないデスカ」


 筆頭がふたりっておかしくない?

 まあどこぞのゲーマー兄妹のようにふたりでひとつなら問題ないですけど。

 今のカザミンにはこんなことを考える余裕もないんだろうな……カザミンかわいそう。でも頑張って。俺は別のクラスだから。


「その話、今初めて聞いたんだけど。今すぐこれを他の子に渡していいかな!」

「それはダメデス」

「何で!」

「だってワタシの衣装と悠里さんの衣装はワタシ達専用デスシ。完全にオーダーメイドなんで他の人には装備不可。主に胸が理由で」

「どおりで着やすいと思った! というか、何でシャルさんは私のスリーサイズ知ってるのかな!」

「そんなの決まってるじゃないデスカ……この手で確認したからデスヨ~」


 こら、シャルさん。

 せっかくメガネ外して美人度上げてるんだから気持ち悪い顔するんじゃありません。今すぐその顔やめなさい。美人度が上がってる分、残念度も上がってるから。

 あとそのウネウネしてる両手もやめて。とても卑猥だから。その手が何度もカザミンの胸を触ったと思うと鴻上さん嫉妬しちゃう。

 でも……胸を隠すように自分を抱き締めるカザミン(ゴスロリ)可愛い。普段の3割増しくらい可愛い。写真を撮っておきたいくらいだ。そういう意味ではシャルさん良い仕事してくれてありがとう!


「鴻上」

「見てません、何も見てません」

「まだ何も言ってない。その反応はむしろ暴露」


 くっ、謀ったな。謀ったな雨宮!

 ……なんて現実逃避してる場合じゃないか。さて、どうやって乗り切ろう。下手に嘘吐くのも危険だし、かといって正直言うのも危険な気がする。

 つまり俺に残されているのは黙秘権を行使……それが1番危険だなぁ。魔王の如き威圧感で追い詰められそうだし。


「鴻上、鴻上はどっちの味方?」

「そ、それは……雨宮さんに決まってるじゃないですか。カザミンがシャルに協力するとなると人数的にフェアじゃなくなっちゃうし」


 これなら雨宮さんとデートしたいから味方するって解釈にはならないよね。

 そう解釈されたら困るのかって?

 そりゃ困るよ。非常に困りますよ。一部の黄色い声を度外視するにしても、シャルより雨宮を選んだなんてシャルに解釈されてみなさい。それを親に伝えられたらシャルちゃんの何がいけないの? みたいな展開になるでしょ。

 ならない可能性もある?

 バカ、なるんだよ! うちの親は俺よりもシャルの味方なの。今よりも未来のことを考えて


『シュウが結婚もできない生涯を歩むくらいならシャルちゃんの味方をしてた方が良いわよね。その方が孫の顔も見れるし。シュウは嫌な顔するかもしれないけど、これもあの子のため。シャルちゃんが適当なこと言ってるだけとは思うけど、ここは乗っておきましょう』


 みたいな選択をしちゃうの。

 見方を変えれば俺のことを考えてくれる親切な親だよ。

 でも俺の気持ちをないがしろにしないで。シャルと結ばれるにしても俺の意思をちゃんと介入させて。その方が結ばれた時に愛せるから。


「その言葉に嘘はない?」

「はい、本心でございます」

「ならこの勝負が終わるまであっちの女狐達にデレデレしたらダメ」

「そんなにデレデレしてないと思うんだけど。少なくとも表向きは……あ、いえ何でもありません。それって自由時間もダメなんでしょうか?」

「ダメ、とは言わない。文化祭を楽しむのも学生の本分。でもデレデレしたいならわたしにすればいい」


 その言葉だけで今すぐにでもデレデレしちゃいそうなんですが。

 でも……今の雨宮よりあっちのカザミンの方がレア度高いしなぁ。羞恥に悶えるカザミンって可愛いしなぁ。何より雨宮よりカザミンの方がおっぱい大きいし。


「鴻上、どこ見ようとしてるの? 今はまだ自由時間じゃない」

「分かっております隊長! この鴻上、全力を以って任務に当たらせていただく所存です」

「ん」


 よろしい。

 そう言われた気分だ。

 雨宮と一緒に何かするのはこれまでに何度もあるが、今日が最も緊張しているかもしれない。

 それもこれも雨宮式ストライクをもらったことがあるせいだ。それがなければこんなにビクつくこともなかっただろうに。

 雨宮、いったいお前がどこへ行こうとしている? 昔のお前はどこに行ってしまったんだ。

 人は時間と共に変化する生き物なのだろうが、今お前が進もうとしている道を俺は喜べないぞ。だって迂闊な発言は死を意味するし。

 恐怖で支配する、されるみたいな関係は友達なんかじゃない。優しかったあの頃に戻ってくれ!

 ……いや、戻ってしまうとせっかく育ったお胸も小さくなってしまうかもしれない。元々負けず嫌いな上に勝負では熱くなるタイプだし、今もきっとその特性が発動しているだけ。なら勝負が終われば元に戻るはず。

 よし、というわけでこれ以上考えないようにしよう。文化祭開始の放送も流れているし、自分の仕事をしましょうかね。


「鴻上」

「今度は何でしょう?」

「自由時間じゃなくてもわたしのことは見ていい。デレデレしていい」

「なるほど。じゃあ客が来るまで雨宮さんだけを見てよう」

「それはダメ。仕事はちゃんとすべき。何より……あんまりじっと見られると恥ずかしい」


 水着みたいに露出が激しいわけでもないし、今日までに何度も見られてるのに何を言ってるんだろう。この子の羞恥心はよく分からん。

 でもそんなことは口にしません。

 だって言葉を発しなければ危険も降りかからないから。それに可愛いは正義。

 雨宮がよく分からないポイントで恥ずかしがったとしても、雨宮が可愛いという事実に変わりはない。ならそれでいいじゃない。

 思考の放棄してるだけかもしれないけど、今日という日を乗り越えるためにはそういうのも必要だと思う。

 だから今回はここまでとします。これからのために少し僕を休ませて。この後のことはちゃんと語るから。




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