第13話 「真の友達と書いて真友」

 俺は風見の部屋に通された。

 別にリビングとかで良かったのでは、と思ったりもする。

 だって風見と店番を変わった彼女のママさんに意味深な顔で「ごゆっくり~」なんて言われたから。これって何か勘違いされている可能性が高いよね?

 まあ誤解されても誤解である以上は説明すれば問題ない。今はまず何故風見が俺とアキラの関係性を知っているような発言をしたのかを追求すべきだ。

 その決意の元、風見に対して追求していくと彼女も顔色を伺いながらだがしっかりと話してくれた。


「……つまりお前は、あの日屋上に居たと?」

「はい」

「屋上に居た理由は、ふと風の当たる場所で趙雲のようになりたいから槍術の練習しつつ二次創作の続きを考えたかったから?」

「……はい」

「そしたらそこに俺とアキラが来て、一部始終を見聞きしてしまったと?」

「…………はい」


 なるほど、なるほど……。

 屋上に居た理由が凄まじく中二病全開のバカだって思うけど、一部始終見られてたんじゃ言い訳のしようがない。まさかあの告白を見られていたとは……


「け、決して覗こうとかそういうつもりはなかったんだ! ただ位置的に出て行けば間違いなくバレるし、告白するぞって雰囲気が出ている中で出ていくのも空気が読めないというか」

「いやまあ、君の立場で考えればそうだろうけど……」

「本当に悪気はなかったんだ。あの時間に屋上に来る人間なんてほぼいないし。人の告白なんて初めて見たから妙に興奮したけど。鴻上くんフラれた? 今のってフラれたの? って感じだったから慰めにも行けなかったけど」


 悪気がないと言いながら興奮だのなんだの。

 でも……うん、あんなフラれ方じゃ対応にも迷うよね。きっぱりと断られていたならいいんだろうけど、実際はまさに「え、俺ってフラれたの?」みたいな感じだったし。


「それでも落ち込む君の姿を見て切ないと思ったというか。一声くらい励まそうと思っていたんだけど、何か教室で雨宮さんとイチャコラしたら元気になってたみたいだし。その姿を見てまるで劉備のようだって思ったりもしたけど」


 それは負けることが多かったのに意思が折れなかった英雄といった意味合いですか?

 それとも必死に生き抜いて天下に王手を掛けておきながら、最後は弟の仇討ちのために夢破れてフルボッコ。報われないダメ男みたいな意味合いですか?


「……お前の言い分は分かった。ところどころムカつく発言があったが、こちらにも落ち度はある。だからこれ以上はとやかく言わない。その代わり」

「あぁ分かっているとも。全力で君の恋を応援させてもらうよ!」


 うん、全然分かってない。

 俺としては誰にも言いふらしたりせず、何もしなければそれでいいんです。


「いや、そういうのいいから。これは俺の問題だし」

「遠慮しないでくれ。私達は友達じゃないか」

「え……友達だったの?」

「え……違うの?」


 それはその……難しい問題かと。

 お互いに名前で呼び合ってるわけでもないし、基本的に顔を合わせるのはここでだし。それを考えると


「店員と常連客みたいな関係では? ほら、俺達って一緒に遊びに行ったりしたこともないわけだから」

「それは……でも気軽に話が出来る関係なのだから友達と言っていいのでは?」

「いやまぁそうなんだけど……」

「君は……私が友達では嫌なのか? 中二病が抜けなくて腐りかけの女子高生とは友達になれないって言うのか!」


 何でこんなにも必死なんだろう。

 もしかして……風見って友達少ないのかな。カッコいい系だから人気ありそうなんだけど。それに今のご時世、中二病に理解がある人間や腐っている人間だってたくさん居るだろうし。


「別に嫌だとか、なれないとかではないけど」

「けど、何なんだ?」

「友達ってなろうって言ってなるものではないのでは? 風見はあれですか、名前を呼べば友達といった感性の持ち主で?」

「友達は名前で呼ばなくても友達だよ。私をどこぞの魔砲少女と一緒にしないでくれ」


 さすがカザミン、理解してくれて助かるよ。

 お話ししよう→お話ししてくれないの? →なら倒した後でお話しするから。

 みんなはこんな考えを持っちゃダメだよ。


「そもそも友達がなろうと思ってなるものでないのなら、私達はすでに友達と呼んでもいい関係なのでは?」

「……まあ友達にも知られていなかったことを知られているわけだしな」

「そうだろう、そうだろう。だが私は君のただの友達ではない。恋の相談すら出来る友達、つまり真の友達と書いて真友なのだ!」


 つい先日そんな友達が欲しいと望んだ気がするけど、それがカザミンなのは俺としては不安なんですが。

 だって俺は男でカザミンは女だよ。男女間での友情って成立しないとか言うじゃない。相談している内にその相談相手を好きになる、みたいな展開ってよくあるじゃないですか。

 だからこの関係ってあまり良くない気がする……

 それはさておき、カザミンの胸ってやっぱりでかいよね。中二病のおかげでポーズ取りたがるせいか、よく揺れるし強調されるし。あんまり主張が激しいと俺は前かがみになっちゃうかも。


「鴻上くん、君が男の子なのは私も理解しているよ。男子高校生なら異性の身体に興味があるのも当然だ。しかし……人の胸をあまりジロジロと見るのはダメだと思う。真の友に欲情するなんて許されることじゃない」

「そうか……なら真友関係は終わりにしよう。俺はこれまでどおり、カザミンとは店員と常連客という関係で良い」

「え、いや、その、何でそういう話になるの? 私は一般的に良くないよってことを言いたかっただけで。それ以上に私がどんな気持ちでこの話題を切り出したと……じゃなくて、カザミンとか変な愛称で呼ばないでくれないかな。そういうのちょっと恥ずかしいから。あ、いや君が真友で居てくれるのならその呼び方でも良いんだけど」


 ……何でこの子少し泣きそうになってるんだろ。

 もしかして友達が少ないどころかひとりも居なかったのかな? もしそうなら普通に同情しちゃう。真友ごっこに付き合ってもいいかなって思えてきちゃう。だって俺、善人とも言わないけど悪人でもないから。普通に良心は痛みます。


「分かった、分かった。もういいよ真友で」

「そ、そうか。良かったぁ……さすがは私が見込んだ男、君は本当に私の真友にふさわしいよ。はっはっは!」


 うん、何ていうか風見って面倒臭い子だったんだな……


「鴻上くん、何だそのこいつ面倒くさって目は。面倒臭くない女の子なんていないんだぞ」


 いやいや、そんなことは。

 だってアキラさんなんて完璧主義で負けず嫌い、だけどそれに見合った能力が……それが災いしてゲーム廃人に進み始めてるけど。それに肝心な時ははぐらかすというか中途半端な物言いが多い気が……。

 でも待て、雨宮さんならどうだ。

 彼女なら言動は素直だし、面倒臭くないのでは。聞いてことには丁寧に教えてくれるし……でも胸の話題になると途端に不機嫌になるよな。それどころか自分のことを卑下するというか、勝手にこっちの性癖を決めつけてきたりするよなぁ。

 だが俺にはシャルさんも……いや、あいつはどう考えても面倒臭いな。基本的に自分が楽しくなるように振る舞うタイプだし。

 冷静に考えると、全員どこかしら面倒臭い部分がある気がする。

 そう考えると風見の面倒臭さはそうでもないのでは? むしろ俺に実害がなさそうなだけに可愛げがあるのではないだろうか。


「ど、どうしたんだ鴻上くん。そ……そんなに見つめられるとさすがの私も恥ずかしいんだが」

「……よし」

「よ、よし? まままままさか君という男は、私が自分の部屋に通したのを理由に本当は誘ってるんだろう? とか言って私のことを抱くつもりなのか!? ダ、ダメだ、そんなのはダメだぞ。さっきも言ったが私達は真の友達であってそういうことをする関係では……!」

「いや、単純に家に帰ろうと思っただけです」

「え……」


 風見は呆気に取られた顔を浮かべ、徐々に頬を赤く染めていく。

 羞恥心があるようで何より何より。ただ明るい内からエッチな目で見るなとか、抱くつもりなのかって考えるあたり、カザミンはむっつりなのでは?

 であれば、確かに俺とカザミンは真の友なれるかもしれない。人によってはエロ魔人同盟などと呼ばれるかもしれないがな。


「そそそういう紛らわしいことをしないでくれ!」

「勝手にカザミンが勘違いしただけじゃないですか」

「カザミン言うな!」

「さっき言っていいって言ったじゃん」

「そうだが、恥ずかしいものは恥ずかしいんだ。君は突然女子をあだ名で呼んで恥ずかしくはないのか?」

「……別に」


 だって別にカザミンのことアキラのように特別に思ってるわけじゃないしね。

 それにカザミンとの関係が壊れても、精々この店に足を運びにくくなるだけで凄まじい被害が出るわけでもないし。


「き、君は見た目に反してリア充というか、友達があまりいない雰囲気のくせに女の子慣れし過ぎだぞ……」

「失礼な奴だな。単にお前を女の子扱いしていないだけだ」

「君の方が失礼じゃないか! 分かった、いいとも。君が私のことをカザミンだとか言うのなら私にだって考えがある。君のことをシュ、シュウちゃんって呼んじゃうぞ!」

「どうぞ」

「何で!?」


 いや、だって……小さい頃はそれで呼んでくる大人も居たし、シャルのママなんて今でもその呼び方ですよ。

 同い年から言われるのはあれだけど、そこまで恥ずかしくはありません。何よりそんなこと気にしてたらシャルさんとは付き合えないしね。ここがポイント!


「……もういいっすか? ちゃんとこの三国志ラノベは買って帰るんで」

「そんなに私と一緒に居るのは嫌なのか! お買い上げどうもありがとう!」

「いや別に嫌というわけでは……ただ家に人を待たせてるんで」


 この調子でカザミンの相手をしているとね、シャルさんの無邪気な笑顔からどす黒い輝きが湧きそうなの。すでに湧いてるかもしれないの。だからね、僕は一刻も早く家に帰らないといけないんです。


「そう言われるとこれ以上呼び止めるわけにも……しかし、まだ君の恋路に関する話が」

「そのへんは特に何もしてくれなくてもいいです。もし何かあれば、そのときは愚痴でも聞いてください」

「その程度のことじゃ真友だとは言えないじゃないか!」

「お前の中の真友の定義がこっちは分からないんだよ!」


 恋愛での本気の愚痴を言える相手は十分に友達の中でも上位のはずだろうが。

 そこから先は男と女の仲だろうが。

 大体エッチなのはダメって時点でな、俺からすればお前の望んでるラインはハードルが高すぎるんだよ! 真友って何だよ真友って!


「とにかく俺は今すぐ帰る。そうしなければ今後の話なんて出来なくなるかもしれないんだ」

「そこまでの話なのか!? 君はいったい誰を待たせているというんだ? というか、それほどの人物を待たせてまでラノベを買いに来るとか君はバカなのか?」


 ちげぇし、待たせてる人物が買ってこいって言ったんだし!


「あぁバカだ、この際もうバカで構わん。それでいいから俺はもう行くぞ。安心しろ、お前が推したこのラノベはちゃんと読む。熟読する。主人公の趙雲のことはカザミンだと思って読むと約束する」

「最後のは必要ないよ! 君は私を辱めて楽しいのか、恥ずかしがっている女の子を見るのが好きなのか。あぁいや、答えなくていい。君が急いでいるのは理解している。だからもう止めはしない。今後の君の恋路についてはあとで電話で話そう」

「俺、カザミンの連絡先知りませんが? もう行っていい?」

「今書いてるでしょ! もう少しだけ待って……はいこれ、ちゃんとあとで電話してよ。しなかったからオコだから!」


 そんな元気が残っていればな!

 と、心の中で言い残して一目散にカウンターへ。にやにやした風見ママに本を手渡し精算。あの子と仲良くしてあげてね、という言葉を受けつつ頷きながら颯爽と外へ。

 家までの距離は徒歩10分。走れば……考えている場合ではない!


「――待っていろシャル」


 すぐにこのラノベを届けてやるからな。

 だから……どうかお仕置きとかいたずらの類はしないでください。俺も炎天下の中で頑張ったんです。だからね、どうか僕をお慈悲を……

 その想いを胸に、俺は風になったのだった。



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