第12話 「姉妹だからって比較すんなっての」

 先日、アキラさんとは今後お互いに前のような関係になれるよう努力しよう……みたいな感じになりましたね。

 それをお世話になった方々に報告したところ、以下のような反応を頂きました。

 まず我が友人であり師匠でもある雨宮舞さんですが……


『……そ』


 このように簡潔なお答えをもらいました。舌打ちしかねない雰囲気だったのは、きっと僕の勘違いでしょう。

 だってアキラのことは気に入らない、みたいなことを言ってたけど、友人である俺に友達が増えるのは良いことじゃん。雨宮さんなら普通喜んでくれるじゃないですか。だからきっと気のせい……そういうことにしておきましょう。

 続いて我が幼馴染であるシャルロット・バウンディさんですが


『それは良かったデスネ! これでシュウを巡るヒロイン達の争いも加速していくはず。俺の青春ラブコメは失恋だけじゃ終わらない、ってタイトルで創作したくなってきました。あのネタとこのネタを使って……デュヘヘ』


 みたいな感じでした。

 何か訳の分からないこと言ってるなぁ、と思いましたがスルーすることにしました。

 だってシャルさん相手に迂闊な発言したらさ、ダメージ増加の引き金になりかねないんだもの。触らぬ神に祟りなし、です。

 最後に我が行きつけの本屋の娘であり真友である風見悠里ことカザミンは


『良かった……本当に良かった。これで私は大切な顧客をふたり失わずに済むし、私の身体を君に好き勝手される心配がない。鴻上くん、本当に大切なのはここからだ。私は今後も君の力になるつもりだ。何かあればいつでも頼ってくれ。気にすることはない、我らは真友なのだから!』


 と言われました。

 いや~カザミンは本当に良い奴だよね。色々と頑張ってくれたから最初の方に関しては突っ込まないことにしたよ。

 そもそも、俺とカザミンは真友。細かいことは気にしないさ!

 ……と自分を鼓舞したものの、俺の周りってまともな奴いないのかな。

 いやね、友人って関係に打算があっちゃダメとか言うつもりはないよ。損得を考えるのは当然のことだと思うし。

 でも……アキラさんとの一件は結構重い話だったじゃないですか。そういう時くらい真面目に対応して欲しいって思うのは俺の身勝手なのかな?

 なんてことを考えたりもしていたんですが、ここ数日それ以上に考えなければならないことが出来てしまっております。それが何かと申しますと……


「ねぇねぇお兄さん、わたしちょっとお腹空いちゃったぁ。ポテチとかない? あと出来れば飲み物も欲しい。出来ればココア」


 アキラさんの妹であるアカネ氏が毎日のようにうちに来ていることです。

 会って間もない年上……しかも異性の家に頻繁に来るのは、安全面で考えると良くないと思うんです。

 こんなこと言うと妹さんにエロい目を向けてるって思われそうだけど、別に襲うつもりとかないからね。

 今も無防備な格好で俺のベッドの上でラノベ読んでるけど。胸とか太ももとか、スカートの中とか気になっちゃうけど。

 でもこれは男として当然の反応なだけであって、俺はキスとかエッチは好きな人……最低でも互いの合意があってすべきだと思ってます。なので妹さんを襲うつもりはありません!

 そんなことしたらアキラさんとの関係がまだ拗れるというか、壊滅的に終わっちゃうんで。

 それがなくても……この妹さん、怖い一面をお持ちなので手を出したいと思わないし。俺、気が付けばリビングに行って注文されたもの持ってきてたもん。いや~俺ってマジお兄さんの鏡だよね!


「はい、ご注文の品」

「どもどもぉ……お~この子おっぱいデケぇ」

「アカネさんアカネさん、女の子が堂々とおっぱいとか言わない方が良いと思うよ」

「何で? おっぱいなんて日常的に使う言葉じゃん」


 日常的に使う言葉かな?

 まあ俺の周りに居る女の子は割と使ってるけど。中身があれな連中ばかりだし。


「お兄さんが思ってるほど女の子って綺麗な生き物じゃないよ。女の子だけで話したら下ネタだって普通に言うし、彼氏持ちの子達なんて彼氏のサイズがどうのって話すんだから」


 やめて。

 彼女いない歴=年齢の俺にそんな現実を突きつけないで。突きつけるにしてももっとマイルドな話にしてください。

 というか、サイズがどうのって話すってことはその子達はすでに経験済みということですよね? 彼氏の方も卒業してるってことですよね?

 最近は初体験の平均年齢が下がってるとか聞くけど……くそ、何で俺は未だに童貞なんだ。あのときカザミンが来なければ俺だって卒業出来ていたというのに。卒業してたら今の状況とは全く別物になってただろうけど。


「そっか……今時の子って俺よりも大人なんだな」

「今時ってお兄さんも今時の子でしょ。わたしとひとつしか変わらないんだから。それと誤解がないように言っとくけど、わたしはまだ処女だからね」


 この子ってとんでもないことをさらっと言ってくれるよね。

 ねぇみんな、女の子から私はまだ処女って言われた時はどう返したらいいの? どう返すのが正解なのかな? 童貞の俺には分かんないよ。


「彼氏も未だに作ったことないし」

「出来ないんじゃなくて作らないんですね」

「あ、もしかして上からな発言とか思ってる? でも事実だから仕方ないもーん。わたし、こう見えて告白とか結構されるし」


 まあされるでしょうね。

 だってアカネ氏、普通に可愛いもの。お胸だって育ってるし。背は低い方だけど、小さい子って保護欲を刺激するからね。

 きっと学校の多くの男子にはアカネさんはとても魅力的に映ってると思います。中身がちょっとあれな部分はあるけど、それは多分見せてないだろうし。


「その中に良い人はいなかったんですか?」

「顔って意味ならそこそこは居たかな。でもわたしにとっての良い人はいなかったんだけどね。告白してくるのって運動部の子ばっかだし」

「運動部は嫌なんですか?」

「嫌か嫌じゃないで言えば嫌。だってわたし、あんまり運動とか得意じゃないし。一緒にスポーツやろう、とか誘われたら最悪も最悪」


 今俺に見せてる顔、告白してきた相手には見せないであげてね。高校1年目の俺が言うのもなんだけど、中学の時って多感な時期だから。そんな汚物を見るような顔されたら多分トラウマになるだろうし。


「だから付き合うなら文化系か帰宅部、これ絶対! でもそういう子ってわたしみたいなタイプには告白してこないんだよねぇ。何か高嶺の花って思われてるみたいだし」

「自分で自分のこと高嶺の花とか……」

「いやいや、自分が周囲にどう思われてるとか大体分かるっしょ。お兄さんはさ、どう見ても可愛い人が『え~わたしが可愛い? わたしなんて大したことないよ。〇〇ちゃんの方が可愛いって』とか言ってたらどう思う? 舐めてんのかって思わない?」

「そりゃあ……思います」


 でも……アカネさんも割とそういう発言しそうだよね。

 これを言ったら何をされるか分からないから絶対に言わないけど。俺まだ死にたくないし。


「でしょ? 自信満々で高飛車な感じはダメだけど、容姿が良い人間は多少なりともそれを自覚するべきなの。謙虚な言動が癪に障る時だってあるし、優しさが人を傷つけることだってあるんだから」

「中3でそう言えちゃうなんてアカネさんは大人っすな」

「なりたくてなったわけでもないけどね……色々苦労してきたし。見た目が良い姉なんて持ちたくないよねぇ。周りが勝手に特別視して、女子力皆無なことってあまりバレないし。姉妹だからって比較すんなっての……」


 ふてくされた顔で自分の髪を弄るアカネを見て、俺はある疑念を抱いた。

 アカネの髪は亜麻色。濡れ羽色とでも言うべき綺麗な黒髪をしているアキラと比べると、アカネの髪色はかなり白い。

 このへんの地域で髪色にうるさい学校はほとんどないが、学生の多くは黒髪か茶髪。金髪もいるにはいるだろうが、割合としては少ないはずだ。

 人間という生き物は集団から外れた存在を嫌ったり疎ましく思いやすい。

 俺がこのように言えるのは、幼馴染であるシャルが小さい頃いじめに遭ったことがあるからだ。

 それはシャルの髪や瞳の色、日本語が上手くしゃべれないことをからかう幼稚なものだった。が、幼稚だろうがいじめはいじめ。やっていいことではない。

 もしもこの子が似たような経験をしていたのなら。誰にも頼れず、たったひとりでそれを乗り越えてきたのだとすれば……

 そう考えた時、俺の手はアカネの頭へと自然と伸びていて……気が付いた時には彼女の頭を優しく撫でていた。アカネもこの展開は予想していなかったのか、表情を固めたまま瞬きを繰り返している。


「……え……えっとお兄さん、急にどったの? 何でわたし、お兄さんにナデナデされてるわけ?」


 慰めて欲しそうだったから。俺が慰めたいと思ったから。

 なんて言ったらアカネ氏は機嫌を損ねかねない。いや下手をすれば心の傷を抉ることになってしまう。

 そうならないようにするには明るい話に持って行きやすいように。俺に対して小言や文句を言えるような発言をしなければ。


「それはだな……単純に俺が撫でたいと思ったからだ」

「……それだけ?」

「それだけ、ではない」

「ではないんだ」

「当然だ。いいかアカネくん、君はさっき自分の可愛さを自覚しているような発言をしたな? なら俺がどういう気持ちで君を見ていたか分かるはず。自分のベッドで可愛い年下の女の子が無防備にゴロゴロしているんだぞ。頭くらい撫でたくなるだろ」


 とっさに嘘を吐いた割にすらすらと出てくるものだ。

 ……すいません。今のも嘘です。嘘を吐こうと思ったのは本当だけど、ゴロゴロするアカネちゃんにあれこれ思っていたのは嘘ではありません。本心です。ほぼ本心を口にしただけです。

 なので……セクハラだと訴えられたら負けます。確実に負けます。裁判を起こそうという気すら湧きません。


「……お兄さんってホント欲望に忠実だよね。お兄さんのエッチぃ」

「男は誰しもエッチぃです」

「そかもしれないけど、お兄さんほど開き直す人はそうそういないよ。というか、わたしに女の子がどうこうって言ってた人がこれってどうなの? お兄さんの方こそ男の子としてどうなのさ。こんなんじゃ全然説得力がないよねぇ~」

「お兄さんは異性から告白もされたことないザコ男子だから。女の子との接し方に不備があるのは当然です」

「それもそっか」


 ここで笑顔で納得されるのって地味に傷つくよね。自分で言ったことではあるけど、絶対この子こっちの思惑を理解した上でやってるし。


「ならわたしがお兄さんに女の子との接し方を教えてあげないとね。ただその前に……お兄さんはザコ男子じゃないよ」

「ほほぅ、よくそんなことが言えたものだ。俺は彼女いない歴=年齢かつ告白された回数ゼロの童貞だぞ?」

「そんな男子いくらでもいるじゃん」


 ……まあそうだけど。そうなんだろうけど。

 ただ今のを聞かれると俺以外の誰かも傷つくかもしれないからさ。そういう発言は俺だけをターゲットにしてやってくれないかな。くれぐれも同級生に言ったらダメだぞ。お兄さんとの約束。


「なら……何故アカネくんは、俺をザコではないと断言するのかな?」

「それはねぇ、わたしがお兄さんのこと気に入ってるから」


 またまたさらっととんでもないことを言われてしまったぞ。これはどういう解釈をするべきだろうか。

 ひとりの男としては、アカネ氏が俺に好意を持っていると捉えたいところ。しかし、俺とアカネ氏の間には劇的な出会いなんてなかった。数回あっただけで告白じみた発言をされるとは思えない。

 よって今の発言に特別な意味合いはない。あったとしても俺が文化系や帰宅部な感じで良いなってくらいのことだ。勘違いしたらダメだぞ秋介。相手はアキラさんの妹さんだし、何かあったらまた色々と拗れるからな。


「それは下僕的な感じで?」

「うーん……まあそれもあるけど」


 あるんだ。やっぱりあるんだ……まあ俺って友人達からも尻に敷かれてること多いから仕方ないね。


「普通に男の人ってことでも気に入ってるよ」

「……うん、分からん」


 この子に気に入られるようなことをした覚えは全くない。


「何でそんなに君の俺に対する好感度は高いの?」

「それはまあ……お姉ちゃんからお兄さんのことは色々と聞いてたし」

「何だと……ちなみに色々とは?」

「それは色々だよ。あのポンコツのお姉ちゃんにわたし以外に相談できる相手が居ると思う?」

「それは……いないでしょうね」


 だってアキラさんって人に弱いところを見せようとしないし。相談できる相手なんてアカネさんだけだと思う。


「でしょ。わたしのお兄さんへの好感度が高くなってるのはそれが理由。ま、もうひとつないこともないんだけど……聞く?」

「いえ別に」

「ぶっぶー、その答えはダメで~す……こほん。いいかね兄くん、女の子は聞いて欲しくないことを聞きたいかなんて聞かないのだよ。ここは素直に聞くのが正解なのだ」


 年下からさっそく女の子との接し方をレクチャーされてしまった。

 ただそれ以上に……ノリノリでこんなことやってくれるアカネ氏可愛すぎかよ。アキラさんにはこんな可愛さなかったよ。

 特に自分の中にある恥ずかしさを誤魔化すように一度咳払いしちゃうあたり、ちょっと頑張ってくれた感じがして良いよね。


「てなわけで、このままもうひとつの理由も発表しちゃいます。その理由は……まあ認めたくはないけど、わたしとお姉ちゃんが姉妹ってことでーす」

「急激にやる気がなくなるくらいなら無理して言わなくても……というか、姉妹って関係ある?」

「あるある、超絶に大有りだよ~。わたしとお姉ちゃんって割かし好みとか違ったりするけど、話しやすい人のタイプは似てるんだよねぇ。だからお姉ちゃんと仲良くできるお兄さんはわたしとも相性が良いんですー」


 なるほど。だから最初からあんなにグイグイ来れたんですね。こっちとしてもあの積極性の理由が分かってすっきりしました。でもスカートの中身が見えそうなことも相まってちょっとドキドキしちゃってます。

 この子、俺のこと本当に男として見てるのかな?

 出来ればもう少し全体的にガードを固くして欲しいよね。目のやり場にも困っちゃうし。


「というわけで、今からお兄さんに罰を与えまーす」

「うん、何がというわけなのかな?」


 というわけで、の前にあったのは好感度に関する説明だよね。なのに何でそこから俺に罰を与えるって話になるの。それはおかしくない?


「わたしの頭を勝手に撫でたのにタダで済むと思ってる?」


 ……それに関してはタダで済むとは思ってませんね。


「えーと……出来ればお手柔らかにお願いしたいのですが。溜まったアカネちゃんポイントを使った割引とかで」

「そんなサービスはありませーん」

「ですよねー」

「なので……お兄さんには罰としてもう少しの間、わたしの頭をナデナデしてもらいます」


 アカネは自分の近くに来いと言いたげにベッドを叩く。

 だがしかし、俺は先ほども言ったが彼女いない=年齢の童貞だ。女子から隣に来て頭を撫でろと言われ、すぐに実行できる胆力はない。

 ただそれはアカネも理解しているのか、こちらを急かすようなことはせず、ラノベを読みながらポテチやココアを口に運んでいる。


「……えっと、触ってもよろしいでしょうか?」

「ん、どうぞ……あっ、やっぱちょっと待って。お兄さん、あぐら」

「何故に?」

「いいから早く。お兄さんはわたしに言われたとおりにすればいいの」


 わーお、何て暴君的な発言。

 シャルだったら「美少女に命令……ハァハァ」とかしそうだけど、あいにく俺はMじゃないんだよね。だからちゃんと理由を聞かないと納得できない。

 でも……ここで逆らったら状況が悪化するのは分かる。なので素直に従うことにしました。

 すると、俺の太ももにアカネさんが頭を乗せてきた。はたから見れば、俺がアカネさんに膝枕してるように思われそう。


「うんうん、高さもちょうど良いし、肉の硬さも良い感じ。お兄さんの足は良い枕だね」

「全然褒められてる気がしない」

「そんなこと言う暇があるならさっさと頭撫でて」


 のほほんとした口調だけどマジで暴君。今後タイラント・アカネとでも呼んでやろうかな。

 と思いもするけど、人に甘えたいだけな気もするし……我が侭な妹が出来たと思えば悪い気もしない。多少のことは大目に見てやるか。



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