第10話 「染めたくはないんデスカ?」
メガネ。
それは目の屈折異常の補正や保護を目的とした目の周辺に装着する器具である。
また近年ではオシャレとして使われるアイテムでもあり、ギャップ萌えの代表格としても知られている。
そのメガネを手に入れるべく、俺はシャルと共にショッピングモール内のメガネ店を訪れたのだった。
「……何故に?」
シャルに言われて腕を組んだ状態で、シャルのグレートなお胸の感触を味わいながらここに来たわけですが。俺はこの展開に非常に困惑しております。
何故なら……どうしてシャルはメガネを買おうとしてるの?
メガネ掛けてる人間がメガネを買うのはおかしくないだろ。そう言いたくなる人は居るでしょう。でもね、それは俺も理解している。
だけど……シャルさんってメガネたくさん持ってるの。
普段は黒ぶちしか使ってないくせに多種多様なメガネを所持しているの。
コスプレする際に色んなメガネがないと困るんだって。
ほとんどの使用目的はあれだけど、まあ俺も二次元には理解がある方ですよ。メガネひとつにもこだわりを持とうとするシャルの志は理解できますよ。
だけども……何で視力が落ちたわけでもないのに新しいの買うの? そこだけはどうしても理解できません。
「シュウ、どうかしたんデスカ?」
「お前が更なるメガネを求める理由が理解できない」
「何を言ってるんデスカ。メガネはワタシの存在意義デスヨ」
あなたこそ何を言ってるんですか?
俺にとってシャルさんはメガネがなくてもシャルさんだよ。メガネが本体と言われるのは、二次元のツッコミ担当のあの方くらいなものです。
今の科学ではどう足掻いても人間はメガネになれません。
アバターが無機物とかいうマニアックなゲームでもあれば別だけどね。
「なら今掛けてるメガネを粉砕したらシャルさんは消えるの?」
「消えませんが非常に困りマス。メガネがないとシャルさんの視力は0.7くらいなので」
「……それって少し悪い程度では? 非常って言葉を使うほど困りはしないと思うんだけど」
「何を言ってるんデスカ! 例えばシュウがムキムキな方と歩いているとして、手を繋いでるとしましょう」
「何でムキムキな奴と俺が手を繋ぐの?」
そもそも、何でそういう例えになるのかな。例えるにしても相手は雨宮とかで良くない?
ちなみに雨宮ってマイさんのことだからね。彼女の苗字は雨宮だからね。ゲーム外では俺は彼女のこと雨宮って呼んでるから。
だからみんな、このこと忘れないでね。忘れられると雨宮って誰だよ……もしかして新キャラか? みたいなことになっちゃうから。
「メガネがあればふたりがどういう繋ぎ方をしているのかまで見えるかもしれません。デスガ、裸眼だと並んで歩いているなぁ、くらいしか分からないかもしれないんデスヨ。非常って言葉を使いたくなるじゃないデスカ!」
「力説しているところ悪いけど、俺は別に腐ってないから。そういうことの同意を求められても困るから。何より俺を腐った話に出すのやめて」
脳内でどう扱おうが構わないからさ。あなたが言葉にしなければ俺には分からないわけだし。
「シュウだってワタシをエッチな話に出すことあるじゃないデスカ」
「俺がいつお前をエッチな話の例えに出した? 勝手に人の過去を捏造するな」
「シュウはワタシでエッチなこと考えないんデスカ?」
「……そんなことより早くメガネを選びなさい」
別に話を逸らしたわけじゃないよ。ここ以外でも買い物するんだろうし、円滑に物事を進めようとしているだけです。
だ、誰が小さい頃から一緒だったシャルさんでエッチなこと考えますか。シャルんは私の幼馴染ですよ。金髪巨乳メガネなんて二次元にも居るわけだし、オカズにするならそっちを使いますって。
でも……たまにはリアルな人間でも考えたくなるよね。
だってマンネリは嫌だもの。実際に行為に及ぶ時は人間が相手なんだもの。人間相手に興奮できなくなったら終わりだから。
「シュウが選んでください」
「何故に? 自分のメガネなんだから自分で選びなさいよ。そもそも何でメガネ買うの? 家に馬鹿みたいにあるでしょ」
「家にあるのはブルーライトをカットしないタイプなんデス。今回はカッとするタイプを作りに来たんデス」
あーシャルさんの家にあるメガネの多くはコスプレ用だもんね。
コスプレの時って写真を撮ったり撮られたりするもんね。そのときにブルーライトカットのメガネだと青く光って写るとか聞くし。
作業用のメガネを買いに来たってことなら新しいメガネを買うことも納得です。だがしかし
「メガネを買う理由は分かった。でも自分で選びなさい。今の理由じゃ俺が選ぶ理由にはなりません」
「え~いいじゃないデスカ。ワタシとシュウの仲ですし、一部とはいえワタシをシュウの色に染められるんデスヨ。シュウは……ワタシを染めたくはないんデスカ?」
「ないね」
「少しくらい迷ってくれてもいいじゃないデスカ。ワタシにシュウの性癖を教えてくれてもいいじゃないデスカ!」
いやいや、だってシャルさんはすでに二次元一色に染まってるじゃないですか。それを俺が上書きできるとは思えません。
それに性癖を教えるわけないでしょ。ここショッピングモールよ? そういうのが聞きたいなら俺かあなたの部屋で聞きなさい。
その意思を貫こうと思ったけど、シャルさんのメガネを選んであげることにしました。
でも別に幼馴染に甘いとかじゃないよ。
このままシャルさんに騒がれると周囲からの視線が痛いから。俺はシャルさんと違って常識かつ節度のあるオタクだからさ。そういうの気にするんです。
「……普段が正方形に近いタイプだし、この手の横長のタイプとかどうだ? 多少な知的に見えそうだが」
「なるほどなるほど、シュウは知的なお姉さんが好きなんデスネ」
「誰もそんなことは言ってません」
まあ嫌いではないがね。
「人に選ばせてるんだからとりあえず掛けてみなさいな」
「了解でありマス!」
そういうノリは求めてません。
敬礼とかしてないでさっさとメガネを取り換えなさい。今掛けてるのは持っててあげるから。
「……どうデスカ?」
「ふむ……これはこれであり」
「キリッ」
「やっぱないな」
キリッて顔されると何かムカつく。普段の3割増しで馬鹿にされてる気分になる。シャルに知的さなんて似合わない。
「も~真面目に選んでくださいよ」
「真面目にするのはそっちでしょ。真面目な顔とかしなくていいから。普段のだらしない顔でいいから」
「シュウ、それはいくら何でも失礼デス。だらしない顔なんて自分で自分を慰めてる時くらいしかしてません」
それってマスターうんたらしてるって宣言してます?
……想像してみるとエロいな。息遣い荒くなって汗ばんでるシャルさんってかなりエロいな。これまではシャルさんで色々考えるのは避けるようにしていたけど、これはなかなかに刺激的だぞ。
「馬鹿なこと言ってないでメガネのこと考えなさい。個人的にこれみたいな円形を掛けると面白いと思うんだが?」
「シュウはワタシに何を求めるんデスカ? 普段用のメガネに面白さなんて求めてません……似合いマスカ?」
否定の言葉を言ったのに流れるような動きで円形メガネ掛けてくれるシャルさんってノリが良いよね。
「……思ったよりも面白くない」
「ワタシが滑ったみたいに言わないでください」
シャルは少し不機嫌そうな顔をしながら円形のメガネを外す。
必然的にメガネのない状態になったわけだが、改めて見てみるとやはり美人だ。元が良いだけにどんなメガネでも似合ってしまう。おそらく面白さを感じなかったのはそれが理由だろう。
「何デスカ、急にワタシの顔をじっと見て。あ、もしかして惚れちゃいました?」
「内面綺麗にして出直せ。メガネ掛けない方がモテそうだと思っただけだ」
「メガネを買いに来ているのに本末転倒なこと言わないでくださいよー」
話の腰を折ってる回数は、そっちの方が多いじゃないですかー
「でも……シュウがメガネのないワタシの方が好きと言うなら、シュウの前では外してあげてもいいデスヨ?」
「結構です」
「何でデスカ? ワタシはこんなにもシュウの需要を満たすために施しをあげようとしているのに」
「その上から目線が気に食わん。それにメガネを外したせいで怪我でもされたら面倒だ」
まあでも……すでにシャルさんには色々弱みを握られいるんですけどね。
パイタッチのこととか、今日の買い物とかね。
だってシャルさんとは腕を組んじゃったし。そのせいでシャルさんの胸の感触とか堪能しちゃってるし。俺から望んだことではないけど、マイさんの機嫌を損ねそうな話にはなっちゃうよねー
「……何でニコニコしてんだよ」
「別に大した意味はないデスヨ。ただ、シュウはワタシのこと大事にしてくれてると思っただけデス」
「勝手に美化しないでもらえます? 視力を理由に扱き使われたくないだけです」
「自分でメガネを外してるのにそんなことしませんよー。そもそも、シュウを扱き使うならこの胸を使いマス!」
胸を張って言わないで!
誰かに聞かれたら誤解されちゃうでしょ。シャルさんには羞恥心ってものがないのかな。一緒に居る俺のことも考えてよね。
でも……やっぱりシャルさんの胸って凄いよね。今日はいつもより露出は少ないけど、だからこそチラリと見える谷間が凄くエロいというか。
何か最近俺っておっぱいのことばかり考えてる気がする。ここまでおっぱい星人じゃなかったはずなんだけどなぁ。高校生になって性欲強まったのかな。
「本当にそれで俺が釣れると思っているのか? シャルの胸なんか日頃から見慣れているというのに」
「大丈夫デス。何かお願いする時はタッチまで許しますから」
な、何てビッチめいた発言を……
そこまで許されたら大抵のお願いは喜んで承諾するしかないじゃないですか!
「なので……ちゃんとメガネ選んでくれたら今度タッチしても良いデスヨ?」
両手を胸の下で組んで谷間を強調しつつ少し屈んでの上目遣い。
あざとさ満載だが、シャルさんがやるとかなりエロい。そのへんのグラビアアイドルなんて目じゃないくらいエロい。
幼馴染で彼女の中身がダメダメだってこと知らなければ心を撃ち抜かれていたかもしれない。それくらいエロい。シャルさんはもう俺の中のエロ担当だね。
「年頃の女の子がそんなこと言うんじゃありません」
「シュウくらいにしか言わないので大丈夫デス」
「それは逆に俺の心が大丈夫じゃないでしょ……形は普段と同じ感じで良いとして、色合いをこういう赤系にしてみたらどうだ?」
「王道というか無難な選択デスネ。でもシュウが選んでくれたわけですし、これにしちゃいましょう」
これまでの流れが何だったんだ、と思うくらいにあっさり決まりました。
レンズの度は今使っているものと同じでいいので、この後の工程はスムーズに進みました。店員さんも仕事が出来る人だったので本当に早かったです。
ただ、ひとつ問題があったかな。
それは「今日は彼氏さんとデートですか?」なんて発言があったの。
私はシャルさんと交際はしておりません。なのにシャルさんは満更でもなさそうな笑みを浮かべて肯定気味な発言をしたんです。
相手に話を合わせるのもいいですけど、どこの誰がアキラさんと繋がりがあるか分からないんだからそういう発言は控えて欲しいよね。
幼馴染だってことは知られてるから、一緒に買い物してるところくらいなら見られてもどうにかなるけど。付き合ってるらしいよ、なんて話まで付いたらアウトなんだし。
「メガネも無事に買えましたし、次に行きましょう!」
「はいはい、分かったから大声出さないで。それで次はどこに行くの?」
「上の階に行って水着を買いマス。せっかくの夏休みですからプールとかにも行きたいですし、去年買ったのはきつくなっちゃったので」
……シャルさんの胸やお尻は未だに成長していると言うのか!?
いったいどこまでグレートな存在になるというのだろう。俺がおっぱい星人になってしまったのは、多分シャルさんのせいな気がしてきた。
「……ちょっと待って。もしかして水着も俺が選んだりする?」
「もちのろんデス!」
「そこはひとりで選ぶなり、今度同性の友達と一緒に選んでくれないかな。さすがにあの空間に俺が行くのはどうかと思うし」
「大丈夫デス。ワタシとイチャイチャしていれば、はたからは彼氏が彼女のために水着を選んでるとしか思いませんから」
確かにそうだけど、そうなんだけど。
学校の生徒に見られてそう思われたら俺の恋が完全に終わっちゃうじゃん!
その展開だけは俺としては困るの。非常に困るの。俺の人間関係を弄んで楽しいんですか。楽しんでるならシャルさんは悪魔だよ、魔王だよ!
「水着が嫌なら下着でも良いデスヨ。それも断るなら……ついうっかり色々と誰かに言っちゃうかもしれませんけど♪」
「水着でお願いします。ぜひ私にシャル様の水着を選ばせてください」
「ふふ、良いデスヨ。そこまで言うならシュウにワタシの水着を選ばせてあげマス。ちゃんと選ばないとメッ! ですからね」
「分かっております!」
「そうデスカ。じゃあ、行くとしましょう」
そう言ってシャルは再び俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
つまり、再び俺にはシャルさんのグレートなお胸の感触が。でも何も言うまい。下手な発言は自分の身を滅ぼすだけなのだから。
……ハハハ、何だかどんどんアキラさんのハッピーエンドから遠ざかってる気がする。俺とアキラさんは結ばれない運命なのかな。もう別の人に切り替えた方が良いのかな。
それ以上に……今日という日を無事に終えられるだろうか。
今日を境に変な噂とか立ったらアキラさんとの恋どころか他の人間関係すら崩れかねないし。
どうか神様、シャルさんにどれだけ振り回されてもいいのでその展開だけはやめてください。本当マジでお願い!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます