第9話 「濡れちゃったらどうするんデスカ」

 やあ皆さん、今日はお日柄も良く実にデート日和でございます。

 時刻は午前10時45分。私こと秋介は近所の商店街に来ております。

 私の住む街はこれぞ都会! という印象はないんですが、田舎という印象もなくてですね。それなりに繁栄しております。

 それもこれもアニメやゲーム、漫画にアニメ……と、二次元を扱う専門店が多いからでしょうね。やはり二次元は日本の文化。うんうん、実に素晴らしい。

 ……嘘です。本当はそこまで思ってません。

 むしろ何故こんなに専門店が多いのって思ってます。客の奪い合いしまくってない? 一気に潰れたりしないよね、大丈夫だよね……と疑問なくらいです。

 まあそのへんの話は置いておくとして。

 俺が今居るのは一般客向けの商品や店が多く入っているショッピングモールの前。二次元に関するものは本屋や玩具程度……それだけに俺はこう思っている。


「……何で俺はこんなところに居るんだ?」


 シャルさんの買い物に付き合うからだろ?

 とお思いの皆さん。それは俺も分かっているのです。

 でもね待ち合わせの相手はシャルさんだよ?

 二次元に染まりまくった挙句、自分は日本育ちで将来は日本人と結婚するからイギリス生まれだけど日本人なんだ、と当然のように言っちゃうシャルさんだよ?

 そのシャルさんが二次元要素の少ない場所で待ち合わせとかおかしくない?

 そもそも……待ち合わせする意味あるのかな。俺とシャルさんの家、徒歩で1分も掛からない距離ですよ。どっちかの家の前で待ち合わせする方が早くない?


「お~さすがはシュウ、待ち合わせの15分前に来ているとは……うんうん、シャルさん的にポイント高いデスヨ」


 どこからともなく現れて何言ってんだろ。

 褒められてはいるんだろうけど……何か微妙にムカつくな。一人称がシャルさんだからかな。それとも勝手にポイント付けられてるからかな。


「シュウ、どうかしたんデスカ? ……はっ!? もしやワタシの方が遅かったから怒っているとか! 待ち合わせの時間には間に合っているはずなのに、俺よりも遅く来るとか舐めてんの? と理不尽な怒りを抱き、ワタシにお仕置きしたいと考えているんデスネ!」

「確かに怒りは抱いてますよ。ただし、今のあなたの勝手な想像に関してですが。何より嬉々とした顔でそういうの言うのやめてくれない?」


 ここは二次元専門店が並ぶオタクの聖地じゃないんだよ。どちらかと言えば、普通の方々が多い一般向けの場所なの。

 だから君の変態発言は俺を巻き添えにする形で、むしろ俺だけを追い詰める形で周囲には捉えられちゃうからね。


「いや~それは失礼しました。どうも最近シュウから冷たい言動を取られると喜びを感じちゃうもので。簡単に言えば、ワタシの身体はシュウにメロメロな感じデス」

「せめてそこは心と言って欲しかったな」


 身体だと俺がシャルさんを肉奴隷にしている感じじゃないですか。

 いやね、別にそういうの嫌いじゃないよ。そういうネタのもので欲望を発散することはありますよ。

 だけど僕は童貞なの。現実でそのネタを実行したいとかは思ってないの。

 ヘタレとか思われるかもしれないけど、最初のうちはノーマルなことからやっていきたいんです。


「ところでシュウ、ワタシに何か言うことないんデスカ?」


 そう言ってシャルはくるりと回る。若干勢いが付き過ぎてメガネが落ちそうになった点に関しては触れないでやろう。


 問題 シャルさんはいったい何を言って欲しいのでしょう?

 答え 服装に関する感想が欲しい


 おそらくこれで間違いないでしょう。

 だってそうでもない限り、全体が見えるように1回転しないだろうから。恋人いない歴=年齢の俺でもこれくらい分かります。

 ちなみに今日のシャルさんの服装は、普段とは打って変わって白のジャケットにジーンズとかなり決めております。

 背が高くてスタイルも良いから非常にカッコいいです。

 ジーンズはストレッチ素材なので、大きなお尻が非常に際立ってとてもエッチぃです。シャルさんのグレートなのはおっぱいだけじゃなかった!

 という話は置いといて……普段との服装の差が激し過ぎて俺は困ってしまいます。

 そういう恰好が出来るんならうちに来るときも多少は外着な感じで来てよ。露出多めのラフな格好はやめてよ。年頃の男子の心を弄ばないで。


「……非常に似合っている。が、正直お前らしくなくて若干引いてもいる」

「思ってた以上に正直な感想デスネ。シャルさんだってやるときはやるんですからもう少し認識を改めて欲しいところ……デスガ、まあ似合っていると言ってくれたので良しとしましょう」


 何で最後にメガネをクイっとしたんですか?

 いやね、とても決まっていました。きっとはたから見ればカッコいい女性に見えたことでしょう。

 でも……俺は普段のシャルさんを知っているの。

 だからあのシャルさんが格好つけてるよ……、と思ってしまって似合わないと感じてしまうというか。ちょっと苛立つというか……よし、考えるのやめよ。


「それにしても……シュウはもう少しラフな格好で来ると思っていましたが、結構気合入れてくれたんデスネ。ワタシ、率直に言って嬉しいデス」


 ただジャケット羽織ってるだけなんですがね。

 正直なところ、夏だし暑いし半袖だけでいいかなと思いました。

 でも俺も恋する高校生じゃないですか。好きな人のためにダサい恰好は出来ないとあれこれ考えた時期があるわけですよ。

 だからね、街に出かける時は多少は身なりに気を遣いますって。だからシャルさんのためかというとそうではないんですよね。


「色合いも似ているのでペアルックみたいデス」

「シャルさんのペアルックの幅広過ぎない? というか……暑いんで早く移動したいんですが。最初はどこから行くんですか? さっさと行ってさっさと帰ろう」


 こんなこと言うと相手から「女の子と出かけると早く帰りたいとか最低!」なんて罵られるかもしれない。

 でも大丈夫。俺だって相手を選んでる。今日の相手はシャルさんだよ。ツンデレは好きでもツンデレではないシャルさんだよ。だから問題ありません。きっと笑って受け流してくれます。


「それもそうデスネ。ワタシも夕方には戻ってICOにインしておきたいので、ちゃっちゃと行っちゃいましょう。まあ最初の目的地はここのショッピングモールなんデスガ」


 そうなんですかー。

 なら待ち合わせは外じゃなくて中でも良かったんじゃないですかね?

 今の季節は夏ですよ。なのにわざわざ外で待ち合わせさせるとか、シャルさんは俺に地味に嫌がらせしたいんですか? もしそうなら温厚な俺もオコですよ。


「……ねぇシャルさん」

「何デスカ?」

「どうして腕を組んでくるんですか?」


 僕達は恋人同士でもなければ、迷子になるような子供でもありませんよね。腕を組む必要はないと思うんですが。

 だったほら……シャルさんってグレートなものをお持ちじゃん? 腕とか組んだらその当たっちゃうじゃん。鼻血を出したりはしないけど、俺も男だから多少なりとも意識しちゃうよね。弾力とか楽しんじゃうよね。


「シュウにワタシのおっぱいを感じて欲しいからデス」

「マジで言ってます?」

「冗談デス。本当はおっぱいで足元が見えにくいので転ばないための保険デス。他にもナンパされないための防御手段でもありマス。最近ひとりで街を歩くとよく男の人から声を掛けられるんで」


 まあシャルさん、中身はあれだけど見た目は美人でスタイル良いからね。

 まともな格好して歩いていれば、ナンパやスカウト目的で色んな人が声を掛けてくるでしょう。


「理由としては納得だが……俺が相手役だと役不足では?」

「大丈夫デス。シュウは背が高いのでちゃんとした格好していれば雰囲気イケメンに見えなくもないんで」

「あまり褒められてる気がしないんだが」

「褒めてマスヨ。でもシュウの顔面偏差値は、女子の中では良くても中の上ですから。本当のイケメンには勝てないんデス。ワタシとしては上の下くらいあげてもいいと思うんデスガ」


 それは身内補正みたいなものが入ってそうだから正当性に欠けると思います。

 まあでも中の上ね。自分のことイケメンだとは思ってないし、それで中の上の評価をもらえるなら高評価だと思うべきだろう。まあ背が高くなかったらその評価はなかった気もするが。


「ちなみにワタシは付き合うならイケメンよりもシュウの方が良いデスヨ。ワタシの趣味を何でも許してくれますし」

「何でもは許しませんよ?」

「ワタシが働かなくても養ってくれそうですし」

「収入が少ないなら働かせるよ。せめて家のことくらいしてもらうよ」

「性欲旺盛なワタシが何度求めても、どんなプレイをお願いしても嬉々としてやってくれそうですから」

「お前の中の俺はどうなってる?」


 俺は調教好きなドSじゃないぞ。

 まあオカズとして調教ものを見ることはあるがな。だっていつも同じネタだと飽きちゃうし。


「何より……いえ、これは言わないでおきましょう」

「シャルさん、言わないでおくなら何で意味深な感じで呟いちゃったのかな。言わないならさらっと流すか、そもそも言わないのが優しさってもんじゃない? つまり……何を言おうとした? さっさと答えろ金髪メガネ」

「きゅ、急に威圧するのやめて欲しいデス……濡れちゃったらどうするデスカ」


 公衆の場所でそういう発言やめなさい!

 もう、何でそんなにふしだらな子に育っちゃったの。もう少し常識のある言動をしてよ。

 じゃないとさ、俺がいくらやめようと思ってもつい言葉が強くなったりするでしょ。シャルさんが悦ぶから悪循環になっちゃうでしょ。


「シャルさん、そういうのはいいからさっさと本当のこと言いなさい。じゃないと怒るよ?」

「それはですね!」

「わざと怒らせるようなことは言わなくていいから」

「……今日のシュウはちょっと冷たいデス。いつもはもう少し付き合いがいいのに。……でもこれはこれで」


 この子、もう手遅れなんじゃないかな。

 俺のような存在では太刀打ちすることすらできない天才ならぬ天災なんじゃないかな。


「まあ本当に何でもないデスヨ。ただシュウくらいのサイズがワタシとしては最も好きというだけで」

「……うん? 何かなその今のもうひとりの俺を知っているような発言は」


 俺の記憶が正しければ、シャルさんと一緒にお風呂に入ったことがあるのは、小学校に上がる前くらいまでだったはずですよ。今の俺のサイズを知っているのはおかしくないですかね。


「シュウが寝ている間に部屋に入ったらもうひとりのシュウが元気だったので、興味本位で採寸した……なんてことはしてないので大丈夫デス」

「もしそうなら絶交どころか警察に突き出すところだが……なら何故俺のを知っているような発言を」


 ……まさか。

 母親経由で伝わったのか?

 もしかして俺は母親に欲望を発散している瞬間を目撃されていたのか?

 成長した息子のムスコをバウンディ家に女性陣に報告されたりしたのか?

 もしそうなら……しばらく家出したい気分だ。家族だろうとプライバシーを侵すような行為はダメだよ。男にとってムスコの話はデリケートなんだから。


「まあまあ、その話はもういいじゃないデスカ。早く中に入りましょう」

「俺にとっては人生を左右しかねない話なんですが……ここでいったい何を買うわけ? シャルさんの好きな二次元はあまり置いてないよ」

「ふっふっふ、それはデスネ……ずばりメガネ、デース!」



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