第6話 オットとツマとそれから……

 日本の漢字は中国からやってきた。無論、中国にはひらがながなく、言語のすべてを漢字で表現するため、日本人には読めない字や知らない字も多々ある。それでも知っている漢字もあるので、漢字自体を知らない欧米人よりは中国語を理解する上で有利だとも思える。筆談ができる。地名だって日本語読みでならできる。レストランのメニューだって「炒」「揚」「蟹」「魚」などの字を見つければおおよその料理の見当はつく。ただ、「豚肉」は「猪肉」だし、「麺」は「面」など若干違う字のこともある。


 ただまったく違うこともある。漢字が。意味が。


 まずは夫のこと。さまざまな言い方があるが、「老公ラオゴン」という。どんなに若くてイケメンのダンナでも「老公」。


 そして妻。こちらは「太太タイタイ」。どんなにスーパーモデルのようなスタイルのいい奥さんでも「太太」。ワタシはこの「太太(奥さん)」と声かけられるのがキライでなかった。まあ、その字にふさわしい体型でもあるし、発音が可愛らしいのである。


 そして「愛人」。


 どんな意味だと思います? 





 日本でいういけない関係の人だと思いました? 日本でならそうですよね。いわゆる浮気相手。


 それが中国では「伴侶」「配偶者」の意味なのである。「愛人アイレン」という。男性も女性も使う。愛する人。読んで字の如し。


「結婚しているの? 奥さんはいるの?」

「あそこにいるのが、アンタのだんなさん?」


 こんなときに中国人は「愛人」を使うこともある。聞かれた日本人は複雑になる。「アイレン」と中国語の発音を聞いていても、頭の中には「愛人」の漢字が浮かんでいるからね。


 ……奥さんいるけど、アイジンではなくて……

 ……たしかにあれはダンナだけど、アイジンではなくて……


 そんなニュアンスは当然中国人にはわからない。戸惑っているのは日本人だけだ。当たり前だが日本人がこの単語を使って配偶者の話をすることはないと思う。みな、前述の「老公」や「太太」など別の単語を使えばいいだけだ。まぁ、それも少し笑えるが「アイジン」よりはよっぽどいい。


 どうしてそんな不謹慎に派生させたんだ。日本語で。いつからそうなったんだ。まったく真逆の意味じゃないか。出てこい、責任者。


 じゃあ、中国語で浮気相手のことはなんて言うかって? 敢えてここには書かないでおく。興味のある方は調べてみて。それはそれでなるほどね、と納得する漢字を使ってるから。




 同じ漢字なんだから同じ意味で使おうよ。そうしたらワタシの中国語習得ももう少しラクになったかもしれないのに。



 オットとツマとそれから……。

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