第22話 ミラクル! カンフー茶芸

 さて、お茶がらみでエピソードをもうひとつ。

 カンフー茶芸というものを見たり、聞いたりしたことがありますか?


 通常の中国茶の茶芸というものは、茶盤チャーパンといわれるお盆の上で日本のお茶で使われるような急須(中国では紫砂壺ズシャフー)や蓋付のお湯呑(中国では蓋椀ガイワン)などを使って、品茗杯ピンミンベイと呼ばれる日本の御猪口のような大きさの茶杯チャーベイにお茶を淹れてもらい、そのお茶をいただく。その淹れてくれる作法は流れるようで美しい。動作にも四文字熟語の名前がついていたりととても優雅で、中国四千年の文化の一端を伺い知ることができる。


 そんな美しい茶芸のお話はまた別の機会ということにして、今回はカンフー茶芸のお話を。


 まず使うお道具がすでに違う。

 注ぎ口が1メートルほどもあるおやかんをカンフーの型のようにくるくる回して、いろいろな姿勢からお湯のみにお湯を入れてくれるのだ。

 さすがカンフーの国!

 茶道とコラボするなんて!!!

 ただ、これをやってもらえるまでの道のりは遠くて……(笑)。


 家族で旅行中にカンフー茶芸を見ようとお茶館に入りました。


 中国茶の国なので、お茶館はどこの街にでもあるのだけれど、普通のお店ではカンフー茶芸は見られない。ガイドブックで調べたお店を探す。お店の入り口にカンフー茶芸で使う茶器をもった銅像? を見つけた。

 念のためそれっぽく少林寺拳法のようなジェスチャーをしながら、

功夫ゴンフーチャOK?(カンフー茶OK?)」と聞くと、「ああ」とやや不愛想な返事。以前にも話したが、店員の愛想の悪さは中国では至極当然なので、気にせず店内に入る。


 おお、置いてある。置いてある♪ カンフー茶芸用のおやかん(茶器)。


 メニューを見せてもらうが、お茶館なので、お茶のメニューのみ。さまざまな種類のお茶の名前が書いてある。

 お茶を頼むとテーブルに置いてあるドライフルーツなどのお茶請けは食べ放題。お店によっては簡単な麺類など軽食を揃えているところもあるが、ここはドライフルーツとナッツのみだった。まあ、今日はそれよりも重大な目的があるのでお茶請けはそれでよし。

 オーダーするときも、さきほどの茶器を指して、ジェスチャーも交え、

「功夫茶。功夫」とお店の人に訴える。

 お店の人はメニューから3つほど指差したので、それをオーダーした。


 ほどなく、お茶が運ばれてきた。

 フツーにお湯のみに淹れられて……。(日本のお湯呑サイズ)

「カンフーは?」と聞くと、

加水ジャーシュイ」とだけ言って去っていった。

 加水とはお湯の追加、つまりおかわりということである。

 訪れたのは5月の初旬だというのに、気温は35度!!

 お店にエアコンはなし!!!

 そんな中、ホットの龍井茶ロンジンチャーをふーふーしながら飲む。


 汗だくだくで飲み終える。

 お店の人に

「加水♪(おかわり(^_-)-☆)」と伝える。

 すると、フツーのおやかんを持ってくる。

 いやいや! 違うでしょっ! 

 あれでしょ? あれやってよ! 

 必死に壁際に飾ってあるカンフー茶芸用の茶器を指差して、またまたカンフーの真似をして、もう日本語で訴える。

 こんな暑い中、汗かいてお茶飲んだのに、ふつうにおやかんでお湯を足すなんてありえないでしょ?! 


 ようやく、「ああ」と支度を始めてくれる。


 やっとやってもらえた~♪♪

 お湯のみに茶葉は入っているので、お湯だけ足してもらう。

 本当に少林寺拳法の型のような動作をしながら、まるで茶器を剣のように見立てて(当然だがお湯の入っているやかんである。もちろんお湯はこぼさない)、クルクルと舞い、最後は決めポーズをしながらお湯のみにお湯を注いでくれる。まるでジャッキーチェンの蛇鶴八拳のようなポーズから注がれるお湯。ワタシ達は3種類のお茶をオーダーしていたので、3とおりの型でお湯を注いでもらえた。お茶館なんてつまらない、と言っていた子供たちも目の前の妙技にビックリ。スゲーと思わず漏れる本音。


 すると周りのテーブルの人たちも、「こっちでもやってくれ」とお兄さんにリクエストが始まる。

 お兄さんは各テーブルで何度も何度もいろいろな型でお湯を注いでくれた。

 見事なカンフーと茶芸のコラボレーション。すごい。すごい。店内が拍手に包まれる。


 でも……、

 なんであんなにやってもらうまで、もったいつけられたんだろ?

 なんか段取りがあったのかしら? 

 チップ? うーん、キホン中国はチップのない国だし。お茶代は払ってるし……。やってくれる時間帯とか決まってたのかな? 特にどこにも書いてなかったような気もするけれど。

 謎である。


 日本語のガイドブックを手にした日本人グループもいた。

 お茶にあまりキョーミがない人やお子様にもウケはいいと思う。

 どうやら本場は四川のようだけど、ワタシ達が訪れたのは別の街。

 あまり多くはないけれど、もしお出かけになった中国の街にそれがあったなら、話のタネにいかがですか? 

 正式な(?!)お願いの仕方は今でもわかりません……。

 ひとまずジェスチャーやガイドブックを見せるなどしてお願いしてみましょう。

 中国まで出かけなくとも、動画等々日本でも楽しめるようです。

 有名な動画サイトでも検索できますよ。


 ほんとうに……、



 ミラクル! カンフー茶芸。




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