第57話 愛も洋服もたくさん着せて? でも……
寒い冬が巡ってきました。皆さん何枚くらいの洋服を着て出かけますか? 各メーカーから着るだけで温かくなるインナーや防寒用の各種アイテムも出ています。少ない数の重ね着でも温かく過ごせるようになってきているかもしれませんね。
「子供は風の子、大人は火の子」
こんなことを子供の頃に母親から言われました。なるべく薄着で過ごすようにしてきたかもしれません。
これが国が違えば習慣も考え方も変わってきます。とにかく中国の人はよく着込んでいます。大人も子供も。見るからにパンパンに着ぶくれしています。おまけにレストランやショッピングセンターなど屋内でもキホンコート類を脱ぎません。でもあるときレストランで隣り合わせた家族連れのお子さんが洋服を脱ぎ始めました。暑かったんだろうね。
毛糸の帽子や手袋を外して
コートを脱いで
ジャンパーを脱いで
あれもう一枚ジャンパー
分厚いセーターを脱いで
え、まだセーター着てたのね
そりゃ暑いでしょうよ。何枚着ていたんだろう。帰るときにまたそれだけの洋服を親に着つけてもらってモコモコと出て行きました。
ワタシが住んでいた地域は真冬は零下になりますが雪はあまり降らず(東京のように雪が積もれば交通網がパンクしてパニック)、キンキンの冷気が足元から体を冷やします。
ひとりっこ政策で大抵の家族に子供はひとりです。大切に大切に育てます。愛情も期待もひとりっこに注ぎ込みます。都会では受験競争も激化していると聞きます。
暑い! と言える年齢の子ならまだいいのですが、ベビーカーで着ぶくれた赤ちゃんが真っ赤な顔をして泣いているのを見ると心配になります。大丈夫かしら? 暑いんじゃないのかしら?
そんな着ぶくれ文化の中国で異彩を放ったのがワタシのムスコです。
当時小学生のムスコは気温0度の真冬でも短パンでした。トップスは長Tに薄手のダウン(ユ〇クロのライトダウン)ですがボトムは年中短パンでした。
すれ違う中国人が息をのみます。知らない人同士がムスコを指さして何やら言います。
「見てよ、あの子ったら足出してるわよ」
「狂喜の沙汰だわね」
たぶんそんな内容かと思われます。
マンションのエレベータで乗り合わせた中国人にも言われました。
「オマエのムスコか? なんでこんな格好なんだ?」
(いやあの、なんでかって言われても……)
「オマエはそんなにぬくぬくと暖かい恰好をしているのにどうして子供に着せてやらないんだ?!」
ダウン屋さんでオーダーしたダウンコート、革市場で買ったファーの帽子とマフラー、ダウンの中はユニ〇ロの保温インナーにこちらでオーダーしたカシミヤセーター。真冬の防寒対策バッチリのワタシ。
言って聞いてくれるのなら苦労しないのです。ママコーディネートをおとなしく着てくれる年齢ではないのです。寒くないの? 長いのもあるよと言っても「これでいい」の一点張り。
「ですよねぇ。言っても聞かないんですよぉ」
エレベーターを降りながら日本語でそう言いました。恐らくハハのワタシが薄着にさせていると思われたようです。虐待にでも見えたのでしょうか。そうなると道ですれ違う中国人のひとたちにもそんな風に思われていたのかなぁなんて思いました。まあいいのですけれどね。体調を崩すこともないし本人がそれでいいと言い張っているのでハハとしては見過ごすというか見逃していました。だって言うこと聞かないんだもん。
真冬になるとさすがに日本人ママたちにまで
「寒い! 見ているだけで寒い!!」
と言われる始末。日本人の子供たちはやっぱり中国の子供たちよりはるかに薄着です。ワタシのムスコほどではないですけれどね。でも誰が最後まで半袖でいられるかなんてしょうもない争いを繰り広げていた男子たちいませんでした? 「半袖部門」(笑)の優勝は誰だか知りませんが、「短パン部門」の優勝はウチのムスコだったのでしょうね。中国の男の子たちはやらないのかしら?
ムスメの卒園式に参列するのに無理矢理長ズボンをはかせたときなど、一日中つらそうな仕草であげくスーハ―スーハ―と深呼吸。キミは膝やふくらはぎで呼吸しているんかい? なんて笑いました。そんなムスコも日本に帰国後は中学高校の制服のおかげで長ズボンをはくようになりました。
なんて話は置いておいてもう一度中国のお話に戻しますね。そう着ぶくれさんのお話です。老若男女問わずの着ぶくれさんですので赤ちゃんだって着こんでいます。けれども一か所だけ薄着、というか身に着けていないアイテムがあるのです。何かわかりますか?
パンツ、です。あ、全員じゃないですよ💦 赤ちゃんです。日本でならおむつをする年齢のお子さんです。
股われパンツという言葉を聞いたことがありますか? よかったら検索してみてください。ズボンの股の部分が縫われていなくて空いているのです。パンツをはいていないので、そのまましゃがむとズボンのおまた部分が割れて用が足せるのです。中国ではよちよち歩きができるようになるとこの股われパンツをはかせるようです。ワタシも初めて見たときは驚きました。いつでもどこでも用を足してしまうのです。おっきいのもちっさいのも……。そしてよちよち歩いているときには割れたおズボンから見え隠れするおしりさん。
日本ではおむつで育ててトイレトレーニングを始めるのが2~3歳でしょうか。その後もおねしょ対策に夜だけおむつをはかせたりと長年おむつのお世話になります。おむつも年々研究開発が進み、おしっこをしてもムレなくて快適なようでおむつ離れには時間を要するかもしれません。でも正直パパママもおむつのほうがラクですしね。いずれはとれますし。
中国では股われパンツのおかげなのか早い月齢で自分で用を足すようになります。なりますが、衛生上の問題が出てきます。屋内でもトイレに連れていかずその場でさせていたのには閉口しました。
「そんなに大きいのにまだおむつなのか? うちの子(孫)はとっくに用を足せるぞ」
なんて言われることもあります。まぁね、価値観の違いでしょうね。おむつが早くとれるのがいいのか、ところかまわず用を足すのがいいのか。使い捨てのおむつは経済的負担がかかるから股われパンツを選ぶとも聞いたこともありました。
そして全身だるまさんのように着ぶくれる冬も股われパンツなのです。ええ、冬でも道端でしゃがんでおしっこです。そして寒風にさらされるおしりさん。
……そこは寒くないのだろうか。冷えないのかしら? いくら脱がせなくても用が足せるといっても気温0度……。日本人としては首をひねるばかりです。ワタシが中国を離れてから5年以上経っていますし、都会ではもう見られないかもしれません。でもおそらくまだはかせている地域もあると思います。
最近「北京ビキニ」なんて言葉を耳にしました。暑い夏に中国のオジサンがランニングのすそをまくりあげてお腹を出すのです。公衆の面前で。SNSで世界中に広まったようです。旅行中の西洋人の女の子の自撮り写真に「北京ビキニ」のオジサンがうつり込んでいたんですって。その写真が北京だったようでこんな名前になったんだとか。
下品だと世界中で話題になったようです。中国ではパジャマ姿で外を歩いている人もいます。上海万博の時は「パジャマで出歩かないように」とお達しが出ました。
日本や西洋諸国ではそうした習慣は受け入れにくいものです。ワタシが住んでいた街でもお腹を出したおじさんを見かけました。ワタシも確かにどうかなぁとは思います。
でもだからと言って日本や西洋諸国の価値観が「世界の総意」でもないとも思うのです。
「信じらんない!」
「アリエナイ!!」
叫んで非難するのは簡単だけれど、そんな文化も習慣もあるのね、と苦笑しながらも受け止めてもいいのかなとも思います。受け入れはしませんけれどね。
……股われパンツ文化もね。受け入れませんよ。受け入れないけれどそういう習慣もあるのね、とエッセイに書いてしまいました。
世界は広い。価値観はさまざま。自分の見方考え方なんてほんの一方向。
愛も洋服もたくさん着せて? でも……
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