第15話 パンダの国は卓球王国

 リオデジャネイロオリンピックが閉幕した。連日の日本人選手の活躍はいつもの夏休みをより興奮させてくれた。多少の寝不足と引き換えに。


 毎日のようにメダルを獲得した選手のニュースが流れる。本来の実力を発揮できた選手も思うような成績を残せなかった選手も、血のにじむような努力をしてきたんだろう。一般人のワタシには想像もできない世界と精神に敬服する。


 さて、数多くのメダリストの中に我が家の子供達が会ったことがある選手達がいる。卓球の選手達である。卓球は中国が本場だ。そのせいか、中国でもよく大会が開催されるらしく、ワタシ達の街で大会が行われると、日本人選手は日本人学校を訪問してくれた。女子選手は中学生とラリーをしてくれたそうである。もちろん、手加減をしながら。男子選手は選手同士で文字通り世界レベルの「ガチ」のラリーを見せてくれたそうである。子供達には何よりの体験だ。


 そんな「生」で見たことのある選手がメダルをとった。嬉しくないわけがない。もうそれこそ選手が親戚の子のように思える。会ったことのある子供達にしてみれば「俺の(私の)友達!」くらいの気分だろう。

 赤の他人の我が家でも彼らの勝ち上がっていく姿に歓喜し、プレーが決まると一緒に吠え、メダルを獲得したときには子供たちとハイタッチした。その後のインタビューを見たときは「えらかったねぇ、頑張ったねぇ」と我が子を見るように涙した。


 さて、今回のオリンピックで男子卓球団体の決勝は日本対中国だった。さすが卓球大国。すでに男子個人、女子個人、女子団体で中国が金メダルを獲得していた。白熱した試合の最中に実況のアナウンサーが紹介する。

「男子団体で前回中国が負けたのは2000年のことです」

 ??? じゅ、じゅうろくねんも前? ですよ?

 そんなに強いんだ? すごい。


 でもそれもなんとなく頷ける。

 街のいたるところで卓球場を見かけることができるのである。

 子供の習い事の関係でよく通ったところにも卓球場はあった。いつも賑わっている。老若男女問わず、その誰もが上手なのである。テレビで見る卓球選手と同じようなフォームで同じようなショットを打っている。こう言っては失礼だが、恐らく普通のおじさん、おばさん、お兄ちゃん、お姉ちゃんだろう。まさかこんなところで国の代表が練習しているとも思えないし。となると市民レベルがすごいことになる。日本人が温泉で楽しむピンポンとはわけが違う。


 街中の公園にも石やコンクリートで作られた卓球台がある。ラケットとボールがあれば誰でも卓球を楽しめるようになっている。裾野が違う。こうした頂上に16年勝ち続けるトップチームが君臨しているわけである。素晴らしい。

 そしてそんな大国に真正面から勝負を挑んだ日本人選手も素晴らしい。


 じゃあ、日本は? 日本の国技は相撲だけれど、日本人がみんな相撲をしたことがあるだろうか? 国技というけれど、せめて学校の体育くらいでも体験したことがある人がどの程度いるだろうか。

 今回のオリンピックで数多くの競技で日本人選手が活躍しているのを見ると、トップのレベルアップのためには国も関係者も支援も指導もしているのだろう。次はいよいよ東京だしね。


 裾野は? 全員がオリンピック選手を目指さなくてもいいけれど、中国の卓球のように誰もがお気軽に楽しめるスポーツがあるだろうか。今どき公園では安全面や騒音から球技を禁止するところも少なくない。子供達が興味を持ったなら、スポーツにせよ、文化・芸術にせよ、気軽に体験ができる環境があればいいのに。



パンダの国は卓球王国。

 

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