第32話 2011年3月11日
その日は金曜日だった。
スクールバスの当番だったワタシは家を出る前にテレビで第一報を知った。
日本で地震があったらしい。
相当大きな被害が出ているらしい。
日本人学校の駐車場には各マンションからのスクールバスが何台も並んでいる。当番の母達はそのバスの前で帰ってくる子供達を待つ。
いつもなら同じ当番のママや近くのバスの当番に友達を見つけては子供達がやってくるまでしばしのおしゃべりに興じる。
でもこの日はとてもそんな雰囲気ではなかった。
日本が大変なことになっているらしい。
子供達が校舎から出てバスへとやってくる。
金曜日の下校。
普段なら一週間の学校のスケジュールを終え、子供達はいつもよりもハイテンションでバスの中でも大騒ぎだ。
「席は立たないっ!」
「静かに――!!」
当番のママ達の叫びにも似た声がバスの中に響く。
「その声がうるせぇよ」
なんて子供達のツッコミをうけながら。
でもこの日は違った。
誰も話をしない車内。
子供達も学校で知らせを聞いていたのだ。
日本人学校には日本各地の出身の子供達が集まっている。
東北地方に住んでいた子、親戚や家族、親しい人がかの地に住んでいる子、ここで友達になり転校で東北に帰っていった子、被災地に縁のある子や家族が大勢いた。
マンションに到着してもいつものように中庭で遊ぶ子も立ち話をする母達もおらず皆自宅へと帰った。時間を追うにつれてあの凄まじい被害のニュースと映像が中国にも流れてきた。
私達はNHKやネットニュースで日本の状況を知ったが、当然のことながら中国のテレビでもこのニュースは取り上げられた。
「日本が地震らしいが家族は大丈夫か?」
「この前帰国したあの人は大丈夫か?」
中国人の友達、マンションの守衛さんたちや掃除の人たち、日本食スーパーの店員さんなど顔を合わせる中国人がみな心配して声をかけてくれる。
地理感がないからこそ日本中を心配してくれる。
ワタシの実家は被災地ではない。
先に帰国した友達は九州だ。
日本は今大変だからご両親やご親戚をコッチ(中国)に呼んであげたら? なんて言ってくれる中国人の友達もいた。
週末が明け、学校が月曜日で始まった頃ようやく皆の状況もわかってきた。
ご実家と何日も連絡がつかず心配している友達がいた。
中にはご家族が避難所生活をされている友達もいた。
折しも3月。学校の卒業式、終業式を終えれば春休みに帰省する予定の人達も大勢いた。
けれども被災地の東北地方はもちろん、帰省先が関東である人たちにも
「今は大変だから帰ってこないほうがいい」
とご家族やご親戚から言われた。
心配なのに帰れない。
連絡はとれているけれどやっぱり心配だ。
何かの助けになりたいけれどどうすればいいのかわからない。
離れているからこその辛さがそこにはあった。
毎年この時期がくると思い返す。
あの日の混乱や戸惑いを。
そして天災が引き起こす恐ろしさと悲しみを。
どうしてこんなに辛く悲しいことが起こるんだろう。
忘れてはいけない日。
2011年3月11日
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