第55話 緊急じゃない救急車が迷子になった件
医療がらみのお話を何回かしていますが、前話「イチバンの心配事」でご紹介したオットの入院がらみのエピソードがもうひとつ。
具体的には書きませんが怪我をしてしまい近くの病院にタクシーで行きました。仮にA病院としますね。日本語の医療通訳さんもいる病院でしたが、オットは自分の会社の日本語のできる中国人スタッフにも連絡をして来てもらいました。
その日は休日で外科の先生はおらず、緊急の呼び出しを受けたセンセイはお酒の匂いをぷーんとさせてご登場なさいました。
「あー、これは手術だわな」
赤ら顔でそうおっしゃいます。手なんぞ震えております。
手術は誰が担当するのかオットの会社の中国人スタッフさん(Sさんと呼ぶことにします)が尋ねるとそのよっぱらいセンセイがワシがやってやるとおっしゃる。
「嫌だ! 別の病院に行く!!!」
オットが叫びます。まあそうでしょうな。
そのA病院のよっぱらいセンセイには丁重にお断りをしてご帰宅いただきました。そして手術をしてくれる病院を探すことに。会社が加入している医療保険会社に連絡をとります。保険会社は自社オフィスがあるB病院での手術・入院を勧めてきます。SさんはSさんで会社の中国人スタッフたちと連絡をとりどこの病院がいいか調べてくれました。医療技術、入院施設等いろいろな情報からC病院がいいのでは、という結論に達しました。
A病院の医療通訳さんにC病院での治療を希望する旨を伝えます。保険会社にはA病院からC病院への搬送とC病院での受入を依頼しました。30分ほどしてどこからか救急車がやってきました。寝台車じゃなくて救急車で行くのね。
その救急車に乗り込んでC病院へ向かいます。A病院からは高速を使って30分くらいの距離らしいです。救急車内は思ったより広く運転手の他にスタッフが数人と患者のオットとワタシとムスコとムスメ。C病院で保険会社の日本語通訳さんが待機していてくれているとのことで会社のSさんにはここでお帰りいただきました。(休日に急に呼び出したのにすぐに来てくださりありがとうございました)
高速を下りたのでそろそろ着くかなと思いきや結構走っています。ちなみに緊急でないのでサイレンは鳴らしておらず信号も守っての走行でした。(オットの怪我も命にかかわるものではありませんでしたので)
にしてもなかなか着きません。ワタシたちはC病院の正確な場所を知りませんでした。気がつけば救急車はレストランやお店などの
「??? こんなとこに病院ある??」
するとなんと運転手は車を停めて道往く人に声をかけました。
「C病院ってどこだ?」
「!!!」
まさかと思いました。うそん。アナタたちも知らないの?!
聞かれた人はなにやら道を説明してくれています。しばらく走るとまた車を停めて尋ねます。
「…………」
すでにA病院を出発して1時間は過ぎています。
「オレの命はどうなるんだ!!」
オットが日本語で叫びます。いや、命までは大丈夫だと思うけれど早く病院にたどり着きたい気持ちはわかります。
その後も何回か道を尋ねてようやくのことでC病院に到着。その後は待機していた保険会社スタッフさんと病院の皆さんで診察・手術と滞りなく進めてもらいました。
あとから聞いた話では救急車は各病院の所属なんだそうです。ワタシたちの依頼を受けた保険会社のスタッフはオフィスのあるB病院の救急車にA病院からC病院への搬送をさせたのです。
だからC病院を知らなかったのね。B病院の救急車の運転手にとってA病院からC病院への移送なんてレアケースだったのね。
でもさ、一応同じ市内の病院なんだしなんとなくは把握してないかなぁ。(まあまあ大きな総合病院です)ショッピングモール内をのどかに走りながら道聞かないとたどり着けないもんかしら。まだその頃はカーナビも普及してなかったかもしれませんでしたけれどね。にしてもさぁ……。
トコロ変われば事情はサマザマ。アメリカでは救急車が有料だと聞いたことがあります。日本では緊急事態でもないのにタクシー代わりに救急車を呼んだり、逆に一刻を争う容体なのに受け入れ先の病院が見つからず最悪の事態になってしまうことも社会問題となっています。
今回の我が家のケースではオットの怪我が深刻なものでなかったので半ば笑ってお話もできるしこのエッセイでもこうしてご紹介できますが、少しでも状況が違えばタイヘンなことになるところでした。
世界中の医療従事者の皆さん、緊迫した命の現場でのお仕事ご苦労様です。
どうかどうか安全に安心にお仕事なさってくださいね。
緊急じゃない救急車が迷子になった件
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