第54話 イチバンの心配事
海外で暮らすことになり最も心配することは医療のことかもしれません。誰だって病気になるだろうし、ケガだってするかもしれない。言葉の通じる日本でも「いい診療」を受けるには病院探しが重要なのに、コトバも習慣も違う海外で病院を探すなんてどうしたらいいかわかりません。そもそも不自由な外国語で病院に行く勇気も度胸もありません。
カタコトの外国語で
「胃もたれがする」
「しくしくと痛む」
「キリキリと差し込むよう」
「熱はないけれど咳と鼻水がヒドイ」
こんな作文とっさにできません。
以前こちらのエッセイ、第35話(夕暮れのタクシーはせつなくて)で中国に引っ越して数日後に起きた病院騒ぎのお話をしました。多くの日本人が世界で暮らしているので日本語で医療を受けれられるサービスもいろいろとあります。このとき(ムスメが頭を切って二針縫った)はローカルの病院の外国人専門病棟で日本語の通訳さんに付き添ってもらい中国人のお医者さんのお世話になりました。
その後同じマンションの日本人ママとも知り合い、日本人が通う診療所があることを教えてもらいました。中国人の先生ですが日本語が堪能で使う薬も機材も日本から輸入していて診察方法も日本のそれとまったく変わりません。それにこの街に住む日本人のほとんどがこの診療所に通うので日本人学校で流行っているインフルエンザの統計などがとりやすいのです。
「何年何組? 今日はあなたでもう8人目ね」
もちろん日本人学校の校医さんも担当していらっしゃいました。子供だけでなく大人も診察してもらうので家族中がお世話になります。ファミリードクターってよく言うけれど、この先生は日本人コミュニティ―ドクターといったところでしょうか。
基本的に内科の診療ですが、とりあえずこの診療所で診てもらい必要があれば専門の病院を紹介してもらいました。専門の病院はローカル病院なので医療通訳サービスを利用します。病院によっては日本語通訳を常駐させているところもありました。第26話(リフォーム? リノベーション?)でご紹介した病院は日本語通訳さん常駐の病院でした。ムズカシイ医療用語もすらすらと日本語で通訳してくれた中国人の女性に感心したものです。
とはいえ中国で医療行為を受けるのに抵抗がないわけではありません。深刻な症状ならなおのことです。具合が悪くて検査をしてもらっても原因がわからずに日本に帰国して病名が判明して治療をしたという話も聞きました。子供さんが全身麻酔での手術が必要との診断を受けたのですが、親御さんが中国での手術に不安を感じ、日本に緊急帰国して日本で手術を受けたということもありました。
他のお子さんは骨折でローカルの病院に入院したら、その病院に日本人が入院したのが初めてらしく次から次へと看護師さんたち医療スタッフが用もないのに病室に(見物に?)やってきたなんて話も聞きました。その子が退院するときにはスタッフ全員で記念写真まで撮られたとか。
我が家でもオットが怪我で入院したのですが、これがいつまで経っても退院できないのです。見た感じ経過観察なので自宅療養でいいんじゃないの? と思ってオットが会社の中国人スタッフに聞いたところ、病院としては入院させておいた方がお金になるから病院側からは退院を切り出さないなんて言われました。あわてて退院したい旨を病院に伝えて自宅に戻りました。相手が日本人だからお金になると思われたらしいです。日本ならベッドが足らなくて早々に退院せざるを得ないケースもあるのに、ホントにところ違えば事情はさまざまです。
そして中国にはリハビリがありませんでした。オットの怪我も日本なら治療と同時にリハビリが進められるのですが、大きな病院でもリハビリ施設がありませんでした。数年前のことなので今は違うかもしれませんけれどね。オットはネットで調べて通販でリハビリ用ギプスを買って自力で「リハビリもどき」をしていました。
そういえば針治療やお灸は中国が本場ですね。あるとき友達が歩けないほどの腰の痛みに苦しんでいて泣きながら針治療を受けに行ったのですが、スタスタと歩いて帰ってきたのには驚きました。
生活習慣病などは漢方薬の先生に専用のお薬を処方してもらっている人もいました。通訳さんを介して問診を受けたんだとか。なんせ四千年の歴史の国です。古くからの伝統的な治療や漢方薬ははなにやら効きそうな気がします。
あるとき友達が絆創膏を巻いた指を見せてくれました。
「この絆創膏ね、近くのスーパーで買ったんだけど、成分のところに『国家機密』って書いてあるの。だからかな、すんごい効き目なの。傷跡が速攻で消えちゃうの!」
成分が『国家機密』って……、それで済ませていいのか不安に思った記憶があります。その友達は子供の怪我があっという間に治る! 包丁とかの切り傷が跡形もなくなるよ! と絶賛していましたけれどね。
ウチでは軽い怪我の処置ができるように一時帰国時に絆創膏や湿布などを大量に買い込んでいました。特にムスコはスポーツでよく怪我をしたので学校の保健室の先生にニホンの絆創膏を寄付しましょうかと打診したほどです。(もちろん辞退されました)
そうそう、湿布といえば日本ではねんざ等でよく使いますよね。ひとまず湿布を貼って様子を見る。湿布を常備しているご家庭も多いのではないでしょうか。ウチもそうです。怪我以外にも筋肉疲労や肩こりなどにも有用な湿布ですが、どうやら愛用しているのは日本だけらしいのです。
以前ワタシはヨーロッパの某国を旅行中にすっころんで足の薬指を骨折してしまいました。すぐに救急病院で処置してもらったのですが、折れた指とその隣の小指をテーピングで固定しただけ。足自体が熱を持って腫れているので湿布を処方してほしいと通訳してもらいました。するとそんなものはないと。通訳をしてくれた日本人の添乗員さんがおっしゃるには世界中添乗しているけれど、湿布(medical wrap)はあまり見かけないっておっしゃっていました。
第38話(地獄でホトケ 異国でニホンジン)でお話したように世界中に困ったときに助けてくれる日本人の方や日本語サービスがあります。
同じ怪我や病気でも世界では処方や対応はさまざま。それでも言葉に不慣れなワタシたちをサポートしてくれるサービスが世界中にあることは本当に有難いし、とっても心強いです。
外国に出かける時、その国(その街)にある日本語対応の病院や日本語通訳サービスの連絡先などを調べておくといいかもしれません。
もちろん、それらを使わずに済むのがイチバンいいのですけれどね。
イチバンの心配事
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