第34話 美味しいお茶市場

 以前にもお茶に関する話は披露させてもらった。

(第21話 6色のお茶のおはなし)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881499923/episodes/1177354054881703556

(第22話 ミラクル! カンフー茶芸)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054881499923/episodes/1177354054881688808


 ものすごくお茶に関して造詣が深いかと言えば、茶芸を学んで資格をとったわけでもなくそれほどではないと思う。

 茶器に関しても陶芸の知識があるかと聞かれればそれはNOだし、自分の好き嫌いはあるが茶器の良しあしはわからない。


 そんな感じのワタシだがお茶市場へ行くのはとても楽しかった。これも前にお話したのだが、それ専門の業者ばかりが集まる商業施設である。


 茶城と呼ばれるその一角は茶葉や茶器を取り扱う店が集結していた。3階建てで主に1階が茶葉で2階が茶器の専門店が何十もあった。3階はあまり行かなかったのでよくわからない。いつ行っても開いていない骨董品屋があったような気がする。


 以前のエピソードでご紹介したように数々の種類に分けられる中国茶なのだが、それぞれの店が専門の茶葉を扱っている。烏龍茶専門や普洱プーアール茶専門などである。茶葉は産地や等級によって値段が違う。どこのお店の人も

「まぁまぁ、一服飲んでいって」

 と店に招きいれてくれ、茶芸の道具がセッティングされているテーブルにつくよう案内してくれる。


 目の前でワタシ達にお茶を淹れてくれるための準備を始めてくれる。それがなんとも優雅で美しい。ひとりひとりの茶杯チャーベイ(おちょこのような茶器)や茶器(日本でいう急須)にお湯をかけて清めたり……。流れるようなその所作はまるで太極拳か舞を踊っているかのようなのだ。こういっては失礼だけれど、どこにでもいそうな中国人のおじちゃんやおばちゃんだ。でもお茶を専門に扱っているからか、中国人なら誰でもそうなのかわからないけれど、とにかくキレイな所作でお茶を淹れてくれた。


 中国茶の茶杯はおちょこくらいの大きさなのでひと口で飲み干してしまう。すると次から次へとお茶を足してくれる。

「今飲んでいるのは一斤イージン(500グラム)◯◯元ね」

 茶葉のパッケージを見せてくれる。

 少し話はそれるけれど、グラム単位でいくらという話をするときに中国では一斤イージンが基準になることが多い。一斤は500グラム。二斤リャンジンなら1キロ、半斤バンジンなら250グラム。もちろんグラム単位も通じるけれど。

「じゃあ、こっちのは?」

 少し高めのもの、リーズナブルなものなどリクエストに応えて何種類でも試飲させてくれる。高級な茶葉も飲ませてもらえた。

 どれも味わいが違う。のどごしが違うし、香りも違う。

 値段の高いものを気に入るかといえば、そうである場合もあったし、そうでない場合もあった。それにどんなに美味しくても不相応の値段のものは買えなかったし。


 ワタシは鉄観音茶が好きなのだが、ワタシに茶芸のお作法を教えてくれた友達と一緒に鉄観音茶専門店へ行き、2種類の鉄観音茶を淹れてもらった。

 友達は値段の高い方の茶葉を気に入り購入するという。

 ワタシは何度飲んでも安い方の鉄観音茶の方が好きだと感じてしまう。ワタシ味覚音痴? 舌が貧しいの? 友達が高い方が美味しいっていってるから高い方を買うべき?

「自分が好きなものを買うべきよ」

 はたから見ても迷っているのがわかったのだろう、友達がそう言ってくれたのでワタシは安い方を購入した。


 茶器も歴史の教科書で登場する陶器の名産地景徳鎮の焼き物や青茶、黒茶を淹れるときに使用する紫砂ズシャと呼ばれる土の焼き物のお店など眺めるだけでも楽しい。まあ、有名な焼き物の景徳鎮の茶器にはやっぱりというかなんというかニセモノもかなりあるらしいけれど。本当にホンモノが欲しければ景徳鎮の窯まで行かないとね、なんてお店の人が笑う。そんなことは無理だし、高級なホンモノを購入して転売しようだとか鑑定してもらおうなんて考えもないので気に入った景徳鎮茶器を購入することにする。


 ワタシは日本でこんなに比較検討してお茶を購入したことがない。茶器にしても同様だ。それはいつでもどこでも買えるからだろうか。中国のように専門店が集合しているような施設がないからだろうか。ひとつの商品(食品)を購入するのにここまで時間を費やさない。

「この茶葉の産地は安徽省だよ」

「どこそこの村の畑でとれた茶葉なんだよ」

「ちょうど今は新茶が入ってきたんだよ」

 そんな風に誇らしげに商品の説明をしてくれるお店のおじさんやおばさん。

 申し訳ないことにすべてを聞き取れていないんだけど、商品に愛着をもって勧めてくれていることは十分にわかる。筆談でのやりとりも楽しい。


 お気に入りの茶葉を決めると包装してもらう。ありがたいことにお願いすると1煎で使う容量ずつに個包装してくれる。自宅でそのまま淹れることができるし、外食するときもその個包装を持って行ってお店でお湯を入れてもらうこともできる。

「じゃあ個包装を30個お願いね」

「私は100グラム入りでいいかな」

 それぞれの好みで気に入った茶葉を購入する。


 今でも中国茶を飲むとあの市場の光景を思い出す。

 シュンシュンとお湯の沸く音。

 お茶を淹れる美しい所作。

 みんなでこっちが美味しいだの、あっちの方が香りがいいだのとワイワイと話しながらの試飲。

 お店の人たちとのカタコト中国語でのやりとり。


 そんな情景も含めて飲み干すお茶の喉越しはちょっぴり切ない味がする。

 ちょっぴりね。

 懐かしい味ってこんな味なのかも。


 今は春。新茶の季節。




 美味しいお茶市場

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