第49話 値切りは誰のため?

 二ホンって定価で買い物するのが基本で「値切り」はなかなかしないものですよね。


「なあ、にいちゃんちょっとまけてぇや」

「ちょっとでいいし、べんきょうできひん?」

 なんてね、関西弁でのやりとりは聞かなくもないけれど、基本は定価でのお買い物です。だから「セール」とか「バーゲン」「◯割引」「〇〇%オフ!」なんてコトバに弱い。


 中国でもスーパーなど大型商店などでは定価です。大型でなくともバーコードを読み取ってレジで会計するようなお店は定価で買い物が当然です。


 ただ二ホンよりは圧倒的に「値切り」の機会が多いのも事実なのです。毛皮市場など業者も買いつけに来るようなところは「値段交渉」が基本になります。


 まずは「多少銭ドゥオシャオチェン(いくら)?」と聞いてみる。その言い値では買いません。たとえ安いと思っても、「このくらいのお金ワタシ出せるわよ」と思っても最初の言い値で買ってはいけません。


 まずは「很貴ヘングィ(高いわねぇぇ)……」としかめっつらをします。

便宜ピェンイー可以吗クーイーマ(安くならない)?」と聞いてみます。

多少ドゥオシャオ(いくらだったらいいんだ)?」

 たぶんこんな風にお店の人が聞いてきます。こちらを試しています。目指す購入金額の目標を「最初言われた金額の半額の八がけ」くらいにします。最初の言い値が1000円だったら400円くらいかな? なのでいくらだったら買うのかと聞かれたら、目標金額以下の値段を言います。

 たぶんこちらの「言い値」で即決にはなりません。ここからお店の人とワタシたちとの攻防戦が始まります。


 客「これいくら?」

 店「1000円」

 客「たっか、もう少し安くならない?」

 店「いくらがいいのか?」

 客「んーとねぇ、200円」

 店「んな安くなるわけないだろ! 800円だ」

 客「えー、まだ高いじゃん。250円」

 店「600」

 客「300」

 店「500」

 客「じゃあ400! ねっ!!」

 店「まあいいか」

 客「ありがとう! 友達も連れて来るね(^_-)-☆」


 なぁんてカンジでお互いの主張した値段の真ん中あたりに落ちつけます。こんなにポンポン話は進みませんけれどね。あまりに安すぎる値段を言うと「お前には売らん! 帰れ!!」なぁんて怒られたりもしますが、「だったらいくらにする?」と再度交渉に持ち込みます。逆にあまりに高い値段をふっかけられたらこちらが帰るフリをします。「わかった! 帰るな! 〇〇円でどうだ!!」と引き留めてくれるのなら心理戦の開始です。


「あんたらニホンジンだろう? これくらい出せるだろう?」

 ニホンジンカネモチ

 この認識は浸透してしまっています。今やGDPなどでも中国の方がカネモチだと思うのですけれどね。


「この値段にしてくれたらワタシたち5コ買うよ♬」

「安くしてくれたら今度また友達連れてくるけどな(^_-)-☆」

 こちらもなんとか折り合いをつけようとします。

 言い値なんかでカワナイカラネ


 ふう、まあこれでも飲むか? とミネラルウォーターやお茶を出してもらったこともありました。そうなると椅子に座っての長期戦なんてことも。


 以前、トルコのバザール(市場)ではお店の人とお客がトルコ珈琲を飲みながら1時間くらい値段交渉をして買い物をするなんて紹介している番組を見ました。

「日本人観光客はすぐにお金を払って次のところへ行ってしまう」

 とトルコのお店の人は言っていました。値段交渉を含めて「お買い物」の楽しみなのかもしれません。

 中国でもそうした交渉をしながら「これはこんなところが素晴らしいんだ」とか「キレイな仕上がりでしょう?」と商品を紹介してくれます。そんな仕事ぶりを讃えつつの値引き合戦は楽しいやりとりなのかもしれません。


 日本人観光客のようにぱぱぱっとお金を払って次から次へと買い物していくスタイルは味気ないかもしれませんね。


 このように1個単品の値段を値切るのもいいのですが、もっと効果的なのは数を増やす方法でした。

 例えばTシャツ1枚1000円と言われたら、1000円で3枚買えるように交渉するのです。こちらの方が意外と交渉がラクだったりしました。

 あるときなんてフェイクファーのマフラーを買おうとしたら最初の言い値で(確か1個2000円程度)最終的にマフラー10本買えたことがありました。そう、1個200円です。こうなると原価はいくらなんだ? と首をひねりたくなりますが、こちらが外国人なのでお店の人もふっかけてきているんだと思います。


 それからせっかくの交渉が成功したらお店の人に名刺ショップカードをもらうのがオススメです。その名刺に今日買ったモノと値段をお店の人に書いてもらいます。そうすると次回そのお店に行ったときに「前はこの値段で買ったよん♬」と見せることができます。1回しか来ない観光客じゃなくてリピーターだとアピールもできますし、一から値段交渉する手間がはぶけます。


 値引きなんてみっともない。

 お金なら持っているし、大して高くもないから最初の言い値で買えるわ。

 そんな方もいらっしゃるでしょう。

 でもひとりの人が最初の言い値ですっと支払いをしてしまうとお店の人は次からもっと高い値段を言ってきます。


 前に行ったお店で値段を聞くと前回の2倍3倍の値段を言われます。そこで名刺の登場です。

「この前この値段だったよ。今日はね、友達も連れてきたよ」

 と名刺を見せるとやれやれ降参と苦笑しながら応じてくれます。

「そうはいってもな。あの頃より物価が上がって材料費も上がってんだ。同じ値段はムリだ」

 なんてことも言われたりしますが、リピーターをアピールしての攻防戦がまた始まります。


 情けは人のためならず、なぁんて言いますけれど、値切りは自分のためならず、です。(自分のためでもあるけれど)

 みんながいいお買い物ができるよう。ちょっと時間はかかるけれどお店の人との交渉は楽しいです。決してケンカごしにならないように。あちらもお商売ですし、なるべく穏便にお互いの着地点を探りましょう。

 お店の人との相性や人柄もありますしね。同じようなものはいくつものお店で売られているので聞いて回るのもいい作戦です。するとどうしても売りたいお店は「アッチはいくらって言ってた? ウチの方が安くするわよ」なんてお店に引き込んでくれます。

 フツーに定価で買う日本にいるとふとあのやりとりが懐かしくなります。


 最近ではカード払いはもちろん、スマホ決済などで現金を使わない生活になりつつあります。どうやら中国(北京、上海などの大都市)の方がキャッシュレスでは先行しているみたいですね。ワタシが住んでいたころはクレジットカードすら使えず現金しか使えませんでしたけれどね。時代は急速に変わりつつあるようです。


 値段交渉してからスマホで決済するのかしら?

 何やら新しい時代ですね。

 値切り文化はこれからどうなるのかしら?


 なにはともあれ

 エンジョイショッピング♬





 値切りは誰のため?


 

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