第46話 不祥事は友達同士でかばい合い?

 中国のマンションで暮らすようになって、ときおりやってしまったミス。


 インナーロックである。

 日本ではホテルなどで起こりうるが、一般家庭でオートロックの玄関というのは少なくともワタシは聞いたことがない。

 中国のマンションがこれであった。


 つまり、ドアを閉めてしまえば自動的に鍵がかかってしまうのである。

 ということは、鍵を家の中に置いたままドアを閉めてしまうと……インナーロックである。

 自分の家でも入れない。


 日本のホテルで仮にインナーロックしたとしても、さほど問題ではない。

 フロントに言ってスペアキーで開けてもらえる。


 中国へやってきてまだ間もない頃、朝バタバタしながら子供を送り出すために家を出る。

「忘れ物はない?」

「もう時間だから!」

「え? おしっこ?」

 上の子を急かしながら、下の子のトイレにつきあい、バタバタバタと玄関を出る。

 バタン! とドアを閉めて、さあエレベーターで下へ。


 ん? ポケットを探ってみる。ない。鍵がない。

 あああああ、家の中だぁ。やっちゃったぁ。

 でも、ま、日本のホテルみたいにフロントにでも言えば。


 子供を送り出して、ママ達にのんきに聞いてみた。

「インナーロックしちゃったんですけど、フロントみたいなとこってあります?」

「?????」

 みんなが顔を見合わせている。

「ないわよねぇ、そんなとこ」

「仮にあったとしても、そんなとこに鍵をあずけておくなんて物騒だもんねぇ」

 えええ? そうなの? そういうもの? 


「不動産会社にスペアのキーがあるかもしれないから聞いてみたら?」

 と言われるが、当時はローカル不動産会社と契約をしていて、中国語に不自由なワタシはとりあえず会社のオットに電話した。

(ケータイは持っていたのである! ファインプレイ!! グッジョブ!!!)

 オットに聞くと不動産会社にも鍵は預けていないらしい。

 となると家に置いてきてしまったワタシの鍵以外にはオットの鍵しかない。

 会社の中国人運転手さんに鍵を持たせるからしばらく待てと言われた。会社からマンションまで小一時間かかる。


 真夏の8月。

 朝8時といっても、じりじりと太陽が照り付け始めていた。

 心配そうに見守ってくれていたAちゃんが言ってくれた。

「鍵が届くまで、ウチにどうぞ。暑いでしょ?」

 地獄にホトケ、インナーロックにAちゃん♪

 まだお会いして何日も経たず、ろくにお話したこともないワタシとまだ幼稚園の始まっていなかった下の子をお家に呼んでくれた。


 1時間ほどして会社の人が鍵を持ってきてくれて、Aちゃん家を辞して、やっとこさ家に帰れた。



 このインナーロック、気をつけてはいるのだが、時々やってしまうのである。

 そのたびにオットの

「またかよ……」

 という無言のため息が聞こえてくる。

 それはワタシが特別ではなく、どのママ達も。

 人間、バタバタしていると何かしら忘れてしまうものである。そういうものなのである。そこは断言させていただく。それでも毎回ケータイを持っている自分はエライとも思うのである。ケータイと鍵をまとめて置いてきたことのないワタシを誰か褒めてくれないかとさえ思う。


 それはさておき、鍵問題。そこでみんなで考えたのが、友達同士合鍵を預けあおうということ。

 不動産会社に鍵を預けると、犯罪に使われる可能性もゼロではないので、安全ではない。

 いちいちオットに電話をして鍵を届けてもらって、叱られたりイヤミを言われたりするのも避けたい。

 なら、同じマンションの日本人のママ友同士で鍵を預けてたらいいじゃん♪

 行動パターンは似通っているし、同じマンションだからすぐに取りにいけるし。


 こうして、ワタシはAちゃんと鍵の預けっこをすることになった。

 これでインナーロックをしてしまっても、オットにバレずにAちゃんに助けてもらえる。

 お互いに何回か救世主となり、また中国ココでの住み心地がよくなった。



 銀行のATMは、ある一定時間キャッシュカードを取らないでいると、機械がカードを回収してしまう。盗難防止のためである。 

 ある日お金をおろし、カードを取らず、お金を財布にしまったり、バッグの中をごそごそと探っているあいだにカードが吸い込まれてしまった。ありゃりゃ。

 すぐに窓口でジェスチャーやら筆談やらでカードが吸い込まれたから返してほしいと言ったのだが、返還の手続きをしろと言われる。ふと見ると、その人の後ろのデスクに今回収したてホヤホヤのワタシのカードがある! そう、それよ! それワタシの! というかオット名義の口座だけど、ウチの!! 

 何度も懇願したが、今はダメだと言われてしまった。

 あ――、またやっちゃったわ。困ったわ。


 このときも返還の手続きはお友達についてきてもらった。そのときは知らなかったのだが、この友達は同じことをやってしまっていて、ダンナさんからキャッシュカードを没収されたという逸話の持ち主だった。

「キャッシュカード! タイヘン!! ついていってあげる!!!」

「返還の手続き? 大丈夫! 慣れてるから!」

「ダンナさんにはナイショにしとこうねっ(^_-)-☆」



 日本では考えられないトラブルに多々巻き込まれるけれど、大概のトラブルは誰かしらがいるので我が事のようにフォローしてもらえる。もちろん自分がなら率先して対応する。

 オットへのカクシゴトを友達同士で共有してニンマリする。罪の上に罪を上乗せして圧縮して隠して平常運転を装う毎日。


 頼もしいお友達のおかげでますます中国ココの住み心地がよくなる。




 不祥事は友達同士でかばい合い?




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