第19話 想い出の?! 家族写真。
日本人のお友達のお宅にお邪魔するとよく飾られているモノがあった。家族写真である。しかも普通のではない。中国の民族衣装を身に着けた家族写真である。
「変身写真ね」
友達が教えてくれる。男の人は秦の始皇帝や唐の玄宗皇帝のようだったり、女の人は楊貴妃やラストエンペラーに登場するお妃さまのようである。子供達も男の子も女の子もとても可愛らしいチャイナ服姿である。確かに変身である。ここでしか撮れないし、駐在のいい記念になる。
友達に紹介してもらったお店でワタシ達家族もその写真を撮ってもらうことにした。そのお店は完全に外国人観光客向けでお店の人たちはみな日本語ができた。日本で例えるなら浅草で外国人がゲイシャやサムライの恰好をして写真を撮るようなものである。
まずは衣装選び。今回は家族4人で2パターンの写真を撮ってもらうことにした。一番乗り気だったのはムスメで、彼女が子供用の衣装からきゃあきゃあとはしゃぎながら2着を選んでくる。
「そうなると、残りの方々はこれのどれかになりますね」
どうやらムスメの選んだ衣装と同じ時代のそれでないとおかしいらしい。特に大人の女性用の衣装は数え切れないほどあったのだが、選択肢が一気に狭まった。その中から2着を選ぶ。オットとムスコは2者択一くらいの選択で衣装が決定。
さて、着替えの前にメイク。ムスメとワタシのメイクから始まる。男子組はそんなにかからないからとしばらく待たされる。友達のアドバイスで男子は暇つぶしのものを持っていくように聞いていたので、彼らはゲームやら読書を始める。
さて、女子組。ワタシはもちろんだが、ムスメも一丁前のメイクをしてもらう。ワタシのリップを塗って遊ぶくらいしかしたことのないムスメにしてみれば初体験だ。女優さんかモデルさんのようにライトがたくさんついている鏡の前で変身が始まる。ムスメがじっと座っていられるか心配したが、鏡に映る自分の変身ぶりにうっとりである。このムスメ、ちっちゃいけれどオンナである。
隣でワタシの変身も始まる。壁を何枚も塗る。それから何より時間をかけたのが目である。もうワタシの原型は黒目だけかもしれない。アイラインやらマスカラやら何やら使える武器をすべて駆使してメイクさんの理想とする目が造られていく。もう変身というよりは製作である。視界にバーコードのような縦線が入る。つけまつげだ。まばたきの度に微風がおきるんじゃないかと思えるほどである。2つか3つつけられた。そこへいくと口元はリップとグロスを塗る程度であっさりしていた。メイクと並行してしてくれていたヘアアレンジも終了。もちろん一部カツラも使った。
最初は清の時代の衣装だった。ムスメは水色のチャイナドレスに髪はサイドでお団子を結ってもらいそのお団子から三つ編みのつけ毛が肩にたれていてとても可愛らしい。ムスコは足元まである男の子用のダークグリーンのチャイナ服(ラストエンペラーの子ども版?)で、髪は普段の髪型だったのだが、撮影用にメイクをされて怒っている。オットはというと、スタジオに入ってきたときは「どなたですか? この後の予約の方?」と聞きたくなるほどの変貌ぶりだった。普段眼鏡をかけているので、それを外しただけでもう他人さまである。こちらも見たことのないメイク顔……。そしてワタシである。ヘアとメイクのおかげでほぼワタシの面影はなくなっている。衣装は映画ラストエンペラーでお妃さまたちが着ていたような服。チャイナドレスのシルエットをゆったりとさせ、コートドレス風にしたといえば想像つくだろうか? メインカラーはオレンジ色。縁取りが金だったり紫の刺繍が入ったりとそれはそれは絢爛豪華。頭には大きな帽子のようなカツラが載せられ、造花が盛られ、アクセサリーもキラキラと髪からも耳からも垂れ下がり、爪には魔法使いのようなつけ爪もつけられた。西太后スタイルである。4人揃ってとか子供達だけとかワタシとムスメとか組み合わせを変えて何ポーズか撮影した。
2パターン目は唐の時代。女子は楊貴妃スタイルである。今でいうベアトップの上半身にスカート部分はシフォンでふんわりとひろがるドレスのようだ。あくまでもチャイナ風だが。ワタシがラベンダー色のドレスで、ムスメはクリームイエロー。その上からワタシは藤色の着物のようなものを羽織り、ムスメも薄緑のシフォンの天女の羽衣のようなものを纏った。ヘアスタイルもメイクもそれぞれチェンジ。ド派手西太后からはんなり楊貴妃へ。
「おひめさまみたい~」
ひらひらした裾ををつまんだり、クルクルと回転したりとムスメはおおはしゃぎだ。オットはというと、あろうことか長髪のカツラと王冠をつけられてご登場。しかも意外とノリ気。もはや笑うしかない。ムスコは、1着目の変身でメイクをされたことにいたく腹を立て、撮影拒否。男子のメイクは女子ほど作り込んではいなく、まぁテレビに出る男性のタレントさん程度で写真にするとメイクしているようには見えないのだが、それなりにデリケートでいたいけな少年ゴコロは生まれて初めてのファンデーションと色付きリップで汚されてしまったらしい。少しは説得したのだが、まぁそこまでイヤなら仕方ないとあきらめ、唐の時代は3人家族での撮影となった。
「外に出れるようにメイク直しますね」
撮影後、顔を原型に戻してもらう。確かにあの顔で外は歩けない。それほどのメイクだった。バーコードも外してもらう。うん。視界良好。
帰国して親戚や友達にその写真を見せた。
「あらまぁ、可愛らしい♡」
孫の可愛らしい写真に目を細めるワタシのハハ。
「それで、この後ろの人達は?」
本気で聞いてくる。自分が産んだ娘とその夫とは夢にも思っていないらしい。しばらく黙ってみる。それでも本気でワタシにこの人達は誰? と聞いてくる。
「本当に? ボケてるんじゃなくて?」
ボケとツッコミのボケともうひとつのイミもこめて確認をするワタシ。ゆうにまた数秒間の間をおいて、
「ウッソー!!!」
「だってこんなに美男美女……」
そんなにですかね? いやまあ、普段は美男美女ではありませんよ。確かに。でも若干元々の素材も垣間見えませんか? 黒目とか鼻の形だとか顔の輪郭だとか……。ムリか。
変身写真とはよく言ったもんだ。見た目ってこんなに変われるものなのだと感心してしまう。恐るべしメイクさんの技。貴重な体験。楽しい思い出。
想い出の?! 家族写真。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます