第41話 生クリームに飢える

 中国に住んでいた頃、年に2回ほど日本に帰省していた。

 子どもの休みにあわせて春と夏だったと思う。


 日本に帰ると実家の両親や親戚、友人などが温かく出迎えてくれる。

 さぞや日本食が恋しいだろうと料理を振舞ってくれる。

 お寿司を始めとする和食や子どもたちが好きな食べ物である。


 もちろん、とても嬉しい。とても美味しい。

 特に食べなれた家庭の味は実家ここでしか味わえない。

 帰ってきたら食べさせてあげようとあれこれ考え、用意をしてくれていたかと思うと本当に有難いし、幸せなことである。


 これは本心である。

 心からの本心である。


 ただ……


 中国に住んでいて何に飢えているかと聞かれれば、実は寿司などの和食ではないのである。

 ワタシの答えは


「生クリーム」


 なのである。


 以前にも書いているのだが、日本での中華街ともいうべき日本食屋街が存在しているので和食はそれなりに食べられるのである。日本で修行した中国人親方の握るとっておきのお寿司屋さんもあったし、美味しい炉端焼きのお店なんてのもあった。


 しかし、生クリームがないのである。


 中国にだってケーキは売っているがそのほとんどがバタークリームなのである。おまけに着色料だかなんだかとても派手なお色目のケーキだったりして残念ながら食べてみたいとは思えない。


 時折お洒落なカフェにぱっと見美味しそうなケーキも見かけるが(着色料は使っていなさそう)やっぱりバタークリームなのである。チョコレート系のケーキは普通に美味しかった。なぜだか生クリームのケーキがないのである。


 一度どうしても生クリームが食べたくなり、外国資本のスーパーへ遠出してネスレの生クリームを購入し、家で泡立てた。泡だて器がなかったので手動でひたすら泡立てた。両腕の筋肉痛とともに味わった生クリームの美味しかったこと!


 それほどに生クリームがワタシの住んでいる町では普及していなかった。(当時)



 それから中国のケーキで最大の謎。

 三角形のショートケーキ

 バタークリームで飾られたその上に鎮座しているのは


 なんと、






 プチトマト!


 なのである。


 なんで?

 どうして?

 そこはイチゴでしょう?


 イチゴは中国にだっていくらでも流通している。

 市場でだって安価に入手できる。


 イチゴ、のせようよ。

 きっと美味しいよ?


 そして日本食屋さんで出される定食についてくる野菜サラダに混ざっていらっしゃるのは……




 イチゴ、


 なのである。


 ね、ね、逆にしない?


 プチトマトもイチゴも美味しいよ?

 だからこそ、より良いカップリングで食したいとワタシは思うのですが、中国人のみなさまの味覚は違うのかしら?

 ワタシの住んでいた町だけかしら?


 ちなみに中国人の皆さんは普段生で食品を食べないので、日本食屋さんで出される生野菜サラダはおそらくは日本人が教えたものか、あるいは日本食のことを調べた人が出しているものと思われるのです。だったらなおのことサラダにはプチトマトをお勧めしてほしかったなぁ……と。

 まぁね、フルーツサラダなんてのもありますよ?

 百歩譲ってサラダにイチゴは見逃そう。


 でも、バタークリームのケーキの上には是非ともイチゴを推奨したいのです。


 そして何より生クリームの普及を切に望むワタシなのであります。




 生クリームに飢える




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