第9話 ちょっと真面目に戦争のこと
暑い暑い夏が今年も過ぎ去ろうとしている。日本も。中国も。
夏になると、戦争の特集がよく組まれるように思う。そう、沖縄戦の終結の日。広島、長崎に原爆が投下された日。そして終戦記念日。
広島の平和祈念館に行ったことがある。ひとりで訪れたので、ゆっくりと拝観できた。涙が頬をつたう。
あまりにも
あまりにもお気の毒すぎて。
原爆はひどい。
一瞬にして罪のない人々の命を奪った。
一瞬にして罪のない人々のその後の人生に苦しみを負わせた。
一瞬にして罪のない人々の大切な人を奪った。
それは確かなこと。
広島にも長崎にも縁がなく、近親者に原爆の被害にあった者のいない私だってそれは痛感すること。
ましてや、身近な人が被害にあったり、広島や長崎で暮らしている人の苦悩は伺いしれない。
原爆に関しては日本は被害者だ。
沖縄の地上戦も同様。日本は被害者だ。
悲劇の数をあげたらきりがないだろう。
けれど......、
日本も加害者だったのだ。
中国人に、アジアの人々に、敵国の人々に、恐ろしいことをしたのだ。
罪もない人々の命を奪ったのだ。人間としての尊厳を奪ったのだ。
人を殺すという犯罪がどうして戦争になると責任を問われないのだろう。
責任どころが殺人が国の為だなんて理解できない。
お国の為に立派に死んで来なさい、などと息子に声をかける母の気持ちなどわからない。
お国の為に人を殺してきなさい、などとどういう精神状態なら言えるんだろう。
70年前の母親はそう言って息子を送り出したのだ。
70年前の妻はそう言って夫を送り出したのだ。
たった70年前だ。
そうして送り出された息子や夫は「お国の為」という大義名分のもと、多くの命を奪った。
そしてたったひとつの己の命を落とした。
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中国に赴任すると決まったとき、心配になったことがある。
中国人に「戦争で日本人にひどい目にあった。肉親を日本人に殺された」と言われたら、なんと答えたらいいのだろう。
時代は違うけど、謝ったほうがいいのだろうか……。
心配は心配で終わった。接してくれる中国の方たちはみな優しい人たちだった。私の中国語のヒアリング能力に問題は多々あるが、上記のようなことは一度も言われたことはなかった。
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今年、2016年5月。
アメリカのオバマ大統領が広島の平和祈念館を訪れスピーチを行った。
ニュースで見る限りだが、地元広島の方も、被害に遭われた方も、かつての敵国の現職大統領の訪問を歓迎し、評価した。
マスコミも一部始終を実況中継し、「歴史に残る」「歴史に残る」と連呼した。
私もオバマ大統領のこの行動は素晴らしいと思う。
日本の国家元首が真珠湾を訪れたというニュースを聞いたことがあるだろうか。
中国の盧溝橋や南京大虐殺紀念館を訪問したことがあるだろうか。
日本で暮らしていると、テレビでは敗戦国日本の特集ばかりだ。
それはそれで間違っていないけれど、一面でしかない。
日本ではほとんど語られないけれど、加害者としてひどいことをしたことも頭に留めるべきだと私は思う。
私も偉そうには語れない。中国にある戦争に関する紀念館には訪れることができなかったのである。勇気がなかった。なんとなくしか知らない中国での戦争のことを詳しく知る勇気がないのである。
かつてひどいことをした中国に住んでみてわかったこと。
そしてつくづく思うこと。
戦争は罪だ。
戦争は悪だ。
世界中から戦争をなくさないと。
一日も早く。
ちょっと真面目に戦争のこと。
2016年夏 記
※9月18日は柳条湖事件(満州事変)の起こった日です。中国では反日の気運が高まる日でもあります。2012年の抗日デモもこの数日前から起こりました。ちなみに8月15日は中国では「戦勝記念日」です。韓国では「解放記念日」です。
※2016年12月、日本国首相が真珠湾を慰霊訪問したことを追記いたします。
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