第11話 春節と国慶節はハッピーホリデー

 日本は祝日の多い国だそうだ。確かにほぼ毎月祝日がある。今年からは「山の日」もできた。8月でお盆の直前で、学生たちはすでに夏休み中であまり有難みがないような気もするけれど。


 昔は体育の日は10月10日だった。敬老の日は9月15日で、成人の日は1月15日だった。最近はハッピーマンデーとやらでそこらへん周辺の月曜日がそれらの休日になる。3連休にして観光業やサービス業を盛り立てていこうということだったっけ? 目的は。要はみんなで旅行にでも行っていっぱいお金使ってってことだったような。


 

 そこへ行くと、中国の祝日は数としては少ない。けれども土日をはさんでの9連休となる休暇が年に2回ある。旧暦の正月にあたる「春節」と建国記念日にあたる「国慶節」である。


 「春節」が旧暦なので毎年日にちが異なるが、1月下旬から2月下旬のあいだの9日間、「国慶節」が10月1日を含む9日間がスタンダードな休暇だ。「春節」に至っては会社やお店によっては2週間、1か月と休むところも珍しくない。近年、「爆買いツアー」と称して大挙して中国人が日本に休暇にやってくるのもこの時期が多い。


 日系企業も日本人学校も9日間休暇となる。会社も学校も休みになるので自然と旅行にでも出かけようかということになる。中国国内は13億人の民族大移動(実家への帰省)なので、国内の旅行はあまり考えられない。


 日本に帰省しても日本は休日でも休暇でもないので、かまってくれるのはリタイアしたじじばばくらいである。

 ホテルや旅館に家族で泊まれば、

「学校休んで旅行ですか」

 とあちらこちらで聞かれる。

 今は中国に住んでまして、と答えると、

「あら日本語上手ですねぇ」

 いえ、日本人です 、向こうに駐在で今は休暇中で、と説明する。

「あら、じゃ、学校は中国の学校なんですね。中国語話せるのね」

 えっと、日本人学校です……。

 もう、いちいち面倒くさい。


 レジャー施設で遊んでいても、平日なので当たり前だが、学校へ通うような年齢の子供は見当たらず、特に春節の時期はスタッフ側も客は中国人と決めつけているのか、中国語の園内マップをもらったり、

”How many people?"(何名様ですか?)

 と聞かれる始末。ワタシ達何人なにじんに見えたんだ?

 子供たちも

「学校サボってるみたいに見られてやだ」

 と言い始めた。


 となると、どこか別の国に遊びに行こうかということになる。

 そこで多くの日本人家庭は海外旅行へと旅立つのである。人気があるのは比較的リーズナブルな料金で行ける東南アジアや韓国などだ。時差もほとんどないので小さい子供を連れていても出かけやすい。

 他にはハワイやアメリカ本土、ヨーロッパへと出かける家庭もあった。


 我が家も東南アジアへと出かけることが多かった。年に2回、海外旅行のチャンスに恵まれた。駐在するときには想定もしていなかった”嬉しい誤算”だった。

 ワタシは特に春節に東南アジアに出かけるのが好きだった。出かける中国は2月で氷点下の気温のある日もあるくらいの土地だ。それが飛行機で何時間か南下すると気温30度の夏の楽園なのである。朝はダウンジャケットを着ていたのに、夕方にはノースリーブのワンピースにサンダル。なんともいえない感覚なのである。

 出かけるスタイルも試行錯誤を重ねた。まずは夏の恰好をする。その上にカシミア等の薄手のニットのカーディガンなどを着て、上着は某ブランドの脱いだらクルクルと小さくまとめられるダウンジャケットに旅先での冷房対策用の麻やコットンのストールをぐるぐる巻く。足元はすぐ脱げる靴下にカジュアルなスウェードのローファー。このスタイルで飛行機の中や中継地で1枚、1枚脱いでいって、現地に到着時は夏のスタイルで素足にローファーという恰好になっている。いちいちトイレに行って着替える必要もないし、合理的なんじゃないかと自己満足している。


 朝、雪の降る街を出発して、夕方には30度を超えるビーチでサンセットを楽しみながらディナーをしたときもあった。なんだろう。地球って不思議だなぁと体感させてくれるのである。


 「春節」が2月、「国慶節」が10月。ほぼ半年に1度訪れるビッグホリデー。「春節」の旅行からから帰ってくると「国慶節」の、「国慶節」の旅行から帰ってくると「春節」の旅先の相談を始める。特に「春節」のフライトやホテルは争奪戦だ。中国以外にも旧暦のお正月休みを採用している国があるからである。韓国などもそうだ。多くの人がフライトやホテルの確保に走る。中でもシンガポール人が最大のライバルで、「春節」が終わると翌年の「春節」の旅の手配が始まると言われていて、シンガポール人に人気の国やシンガポール経由のフライトの確保が難しくなるのである。私達がでかけたバリ島がそれにあたり、やっとのことでなホテルとフライトを確保できたのは、行きたいと思い始めてから何年か先の「国慶節」休暇だった。(国慶節が休みなのは中国だけなので)


 毎月のようにポツポツとある日本の祝日よりずっと楽しみ甲斐のある中国の祝日だと思うのはワタシだけかしら? 

 それに日本に帰国して、ある程度子供たちが大きくなってくると、部活や友達とのつきあいも始まり、夏のお盆や年末年始の少ない休日は帰省にあてたりと、家族旅行は過去の想い出となってしまった。

 今でも子供たちと思い返す旅先の風景や楽しかった出来事。



春節と国慶節はハッピーホリデー。

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