第43話 魅惑のお城でトレジャーハント

 年明けから春節休みが始まる前に必ずママ達で出かけるところがあった。

 真珠城である。(春節期間はどこのお店も春節休暇になり長いところでは1か月ほど休んでしまう)

 日本人学校や日本語幼稚園は日本と同じサイクルなので3月に卒業式がある。(中国は7月卒業式で9月入学式)

 卒業式に参列する幼稚園の年長さん、小学部6年生、中学部3年生のハハ達が卒業式に向けて準備を始める。


 こちらでは洋服のオーダーが安価で気軽なことは以前のエッセイでも紹介した。(第16話 楽しきかな、オーダー天国)

 子供達に着せるスーツや自分のフォーマルスーツをまずはオーダー。


 そして真珠、である。

 フォーマルなアクセサリーと言えばまずコレである。

 日本ではミキモトなど海水で養殖した真珠がよく知られていてとても高価である。

 だからこそフォーマルにふさわしいし、「いつかは……」と憧れもするし、身に着けたならそれこそ背筋がしゃきんと伸びるような心持がする。


 真珠には海で養殖した「海水真珠」と湖などで養殖した「淡水真珠」があって、専門的なことはわからないのだが「淡水真珠」はリーズナブルなのである。中国でも「海水真珠」は「淡水真珠」より一桁多かった。


 そのリーズナブルな真珠を求めて出かけるのが真珠城である。そう、城といっても市場である。以前のエッセイでは革市場(皮革城)、お茶市場(茶城)などをご紹介したが、今回は真珠城。真珠を取り扱うお店が集まった市場である。真珠以外にも珊瑚や翡翠などの石やスワロフスキーのビーズを扱っているお店もあった。そういえばダイヤモンドなどの貴石はあまり見かけなかった気がする。

 そしてここ真珠のお店ではもちろん既製品を買うこともできるが、オーダーもできるのである。何ミリ玉の指輪だとか何センチのネックレスなど自分の好きなオーダーができる上になんと30分程度で作ってもらえるのである。友達がオーダーしたアクセサリーが素敵だったから「これと同じのもう1個作って」とお願いしたこともよくあった。指輪もピアスもブレスレットも。日本にいる母親や姉妹や友達に頼まれたものをオーダーすることもあった。

 ビーズなどのアクセサリー作りが趣味の友達は「安い! 安い! 夢みたい!!」と材料を大量買いしていた。


 あるときこんなことがあった。友達が真珠城に行きたいというので数名で喜んでついていった。

「実はお母さんから頼まれているものがあって……」

 友達は細かく書かれているメモを見せてくれる。血の色の珊瑚、ライスパールなどなど。宝石にお詳しいお母さんのようである。ネックレスも長さが何センチで何連などの細かい指示がデザイン画とともに書かれている。聞けばダンナさまのおかあさま。

「お姑さまね! そりゃタイヘンだ! みんなで手分けして探そう!!」

 実の母親ならそこまで必死にならなくても「こんなカンジでいいんじゃない?」「これしかなかったわよ」なんて対応でもいいけれどもお姑さまとなれば話は違ってくる。テキトーな品物でごまかそうものならきっと友達の印象が悪くなっちゃう。さ、ここは友達チームワークでお姑さまリクエストにお応えせねばね!


 それにしても細かいオーダーである。真珠パール真珠パールでもライスパール、文字通り米粒ほどの小さいパールだそう。そもそも真珠というのは直径が大きければ大きいほど値段が高くなるものである。じゃあ米粒パールは安いのかというとこれが高い安いの前に見当たらないのである。小さすぎてあまり流通していないのかな?

「これは?」

「こっちにあるこれは?」

 それぞれ米粒と思しきシロモノを友達に見せるがまだ粒が大きいらしい。市場にある店中探してまわりようやく米粒パールにたどりついた。

「このライスパールでこんなネックレスをつくって」

 材料が見つかればあとはオーダーするだけ。ライスパールのネックレス、これでクリア。


 お次、血の色の珊瑚。血赤珊瑚オックスブラッドというそうな。一般的な珊瑚はコーラルピンクと言われるようにピンク色だけれど、赤珊瑚というのもあってその中でも血赤珊瑚は希少なもののよう。赤珊瑚なら店頭にリーズナブルに並んでいるのだが、どうやらこんな赤さではないらしい。

「もっと濃い赤なの。本当に人間の血の色なの」

 友達はお姑さんのメモを頼りにネットでよっぽどリサーチしたらしい。その調査どうりの赤い珊瑚をさがすのだけれど、見つからず、お店の人に聞いても没有メイヨウ(ないよ)とすげなくあしらわれてしまう。

 結局、さきほどのライスパールのお店で取り寄せをしてもらうことになった。その後めでたく血の色珊瑚のネックレスをお姑さまに渡すことができたとか。よかった。よかった。ミッションコンプリート! 友達のおかげで広い真珠市場でまさにトレジャーハントを楽しんだ。


 オーダーをわかりやすく伝えるために日本のファッション雑誌をよく持っていった。お店の女の子たちも日本の雑誌は興味があるようであっという間に何人か集まってくる。こんなときは注意事項がある。「日本円の値段を隠しておくこと」である。リーズナブルな値段でアクセサリーを作ってくれるお店の人達には日本の雑誌に載っているアクセサリーは高額である。それがブランド品ともなれば破格値である。

 一度日本の雑誌を見せながらネックレスをオーダーしていると、店員さんは何やら電卓で計算を始めた。

「日本ではこの値段でネックレスが売れるの?」

 しまった。値段を隠すのを忘れていた。えっとね、それはほらほら世界的なブランドでしょ? それにきっと高価な「海水真珠」を使っているんじゃないかな、としどろもどろで言い逃れた。デザインの参考にしたいから雑誌をコピーさせてと言われたときはしっかり値段を隠したコピーをプレゼントしてあげた。お願いだからお値段はマネしないでね。


 友達とお店のお姉さんとああでもない、こうでもないとデザインを決めて作ってもらうアクセサリー。また別の友達をこのお店に連れてきてあげるから、と値引き交渉。お馴染みになるとお茶やミネラルウォーターを出してもらってテーブルを囲んで日中アクセサリー談義。


「日本ではこんなデザインが流行っているの?」

「こんなビーズある?」

「ちょっと待ってて。倉庫見て来るわ」

「このネックレスとおそろいでピアスも作らない?」

「こんなビーズならあるけれどどう?」

「あ! ステキ!! 写真のよりこっちの方が素敵じゃない?」


 わいわいきゃあきゃあ楽しいひととき。値段は安価だけれど世界にひとつしかないアクセサリーをオーダーする宝物さがし。


 いくつになっても

 いくつ持っていても

 女子は「キラキラ」が大好きなのである。




 魅惑のお城でトレジャーハント


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